空とフェンスと、君の手と

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「うぅ~、またしても何を話しているのか、さっぱり聞こえません~」
「今回は、ここしか席が空いてなかったからねぇ」
「てゆーか、別に私たち、隠れる必要ないんじゃないかなぁ」

理緒の呟きに、ひよのが人差し指を振る。

「甘いですよ。私たちが行ったら、あの2人絶対喋らないじゃないですか。この貴重なお喋り、ゼヒお聞きしたいものです!あぁ、やっぱり盗聴器でも仕掛けておくべきでした!」
「ひよのさん、それ犯罪ですから」
「爆弾作る高校生に言われたくありません」

むぅ、と膨れっ面を見合わせていると、カノンが「あ」と声を上げる。
2人がその視線を追うと、いつの間にかすぐ目の前に人影があった。

「何してんだ、あんたら」
「やぁ、歩くん」
「な、鳴海さ…!」
「弟さん…っ!」

咄嗟に言葉が出てこない女性陣を無視して、カノンが首を傾げる。

「亮子は?」
「浅月が来た」

振り向くと、今まで歩がいた場所には香介が座って何やら話している。
談笑する2人に視線を向ける歩の顔が穏やかなのを見て、誰ともなく胸を撫で下ろした。

「ほら、邪魔者はとっとと退散だ」
「じゃ、邪魔者って…」
「邪魔者だろ?言っとくが、俺には覗きの趣味もない」

素直に立ち上がりながら、ひよのがはた、と歩を見た。

「…も、って他に何かあるんですか?」
「それは、男の子の秘密だ」

ぱしっ

素早いひよののツッコミを、軽い音を立ててガードする。
その慣れたやり取りに、理緒とカノンが顔を見合わせた。

「じゃ、僕らは、とっとと退散しますか」
「そーだね。てっしゅ~う」

くるくる、と踊るように廻りながら人と椅子の間をすり抜けていく。

「何かお腹空いちゃったね~」
「じゃあ、パフェでも食べに行く?」
「わーい、さんせ~!あ、折角だからアイズくんも呼ぼっか!」

さりげなく取り残された歩とひよの。
2人が見えなくなって、ようやく我に返る。

「ねぇ、鳴海さん」
「何だ?」
「私たちも、何か食べに行きましょうか」
「断る」
「な、即答しないで下さいよっ」

こうして、いつも通りの帰り道。
何だかんだで、今日も平和な月臣学園の1日だった。


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