空とフェンスと、君の手と

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「わ」
「良いから来いよ」

ぐい、と亮子を引き寄せて、歩を一睨みした。
瞳が、すぅ、と細くなる。

「テメェには、ぜってー渡さねぇ」

何…と言いかける亮子を引っ張って、足早に校舎内に戻る。
振り向いた彼女は、顔を赤くしながら手振りだけで、ごめん、と伝えた。

「…何をだよ。ったく」

ふぅ、と歩が大きく息を吐く。
呆気に取られた周りの面々を、ぐるりと見渡して、ひとつ伸びをした。

「えーっと…」
「あれで、良かったのかな?」
「な、鳴海さん?」

「良かったんだろ。彼女は満足したみたいだし」

軽い調子で言うと、3人は複雑な表情で顔を見合わせた。

「そんなもんなの~?」
「何かこぅ、もっと楽しい事を期待しちゃってましたね」
「僕もだなぁ」

どっと力が抜けたように笑いながら、好き勝手言い始める3人。
その会話の意図するところを察しながらも、歩はわざとらしく聞いてみる。

「何だよ、楽しいことって」
「そりゃあ、もっと激しくと言いますか、死屍累々というか、弱肉強食というか…」
「ひよのさん、怖いですよ…」

理緒が本気で嫌そうな顔をするので、宥めるようにカノンが笑った。

「でも、まぁ」

ひよのが、まっすぐに歩に向き直る。
きょとん、とした彼と目が合うのを待って、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「鳴海さんに何もなくて、よかったです」
「あってたまるか」

むぅ、と目を逸らす歩を見て、ひよのがにこり、と穏やかに微笑む。
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