a little promise
「はい、どうぞっ」
突然、明るく差し出された包みから、歩がじわり、と距離をとる。
「ちょっと!何で下がるんですか!」
「…あんたから貰うような物は何もないぞ」
「鳴海さんになくても、私にはあるんです」
何故か胸を張るひよのに首を傾げながら、中身を聞こうとすると、別の人物がそれを言い当てた。
「あれ、おさげさん。歩にチョコレートかいな」
「チョコレート?」
眉間に皺を寄せた歩に、ひよのが目敏く気付く。
「まさか鳴海さん、今日が何月何日か忘れてるわけじゃないですよね?」
「あぁ?今日は2月14日だろ…」
自分で言って、ようやく目の前の物が意味するところに思い当たったらしい。
あぁそうか、と改めて包みを見つめた。
包装紙から察するに、どうやら市販品のようだ。
「何か変なもん、入れてないだろうな」
「なっ!失礼なこと言わないで下さいっ!!」
「ま、ありがたく貰っとくよ」
ばっと手を振り上げた瞬間、歩が予想外に素直な謝辞を呟いたので、ひよのがぴたり、と動きを止めた。
それをちら、と横目で見た歩は、静かに包みを鞄にしまう。
ひよのも黙って、行き場を失った手を下ろした。
「あー、えーなぁ。歩ばっかり」
僅かな沈黙を破って、火澄がわざとらしく声を上げる。
俺にはないん?と口を尖らせる少年を見て、ひよのがぱちぱち、と瞬いた。
「どうして私が、火澄さんにチョコあげなくちゃいけないんです?」
「うっわ、ひどっ!えーやんか、いっつも一緒におるんやから、義理でも何でもくれたって!」
「いつも一緒じゃありません。火澄さんが勝手にくっついてきてるだけですよ」
ふい、と視線を逸らされて、火澄が頬を膨らませる。
自分のを分けてやるから、と歩が言いかけるより少し早く、ひよのがひょい、と何かを投げて寄越した。
「うわ、え、何?」
「チョコレート。言うまでもないと思いますけど、義理ですから」
それあげたんですから、鳴海さんの分取らないでくださいね、と釘を刺される。
だが、歩が受け取った包みとは、大きさからして明らかな差があった。
一瞬目を見開いた火澄は、くしゃり、と笑って、それでも礼を述べる。
「お2人とも、来月は期待してますから」
にっこりと宣言した少女の言葉に、歩と火澄が揃ってきょとん、とした。
「ちょうど1ヵ月後です。ホワイトデーは3倍返しが基本ですよね」
ふふ、と笑うひよのに、歩はやっぱりな…と息を吐く。
火澄は相変わらず呆気に取られたままだったが、やがて小さく吹き出した。
「あ、火澄さん何笑ってるんですか!義理だってお返しは頂きますからね?」
絶対ですよ!と念を押すひよのに、あやふやに笑って誤魔化す。
軽やかに1ヵ月後の平和を約束させる彼女に、複雑な想いを抱きながら。
≪fin.≫
突然、明るく差し出された包みから、歩がじわり、と距離をとる。
「ちょっと!何で下がるんですか!」
「…あんたから貰うような物は何もないぞ」
「鳴海さんになくても、私にはあるんです」
何故か胸を張るひよのに首を傾げながら、中身を聞こうとすると、別の人物がそれを言い当てた。
「あれ、おさげさん。歩にチョコレートかいな」
「チョコレート?」
眉間に皺を寄せた歩に、ひよのが目敏く気付く。
「まさか鳴海さん、今日が何月何日か忘れてるわけじゃないですよね?」
「あぁ?今日は2月14日だろ…」
自分で言って、ようやく目の前の物が意味するところに思い当たったらしい。
あぁそうか、と改めて包みを見つめた。
包装紙から察するに、どうやら市販品のようだ。
「何か変なもん、入れてないだろうな」
「なっ!失礼なこと言わないで下さいっ!!」
「ま、ありがたく貰っとくよ」
ばっと手を振り上げた瞬間、歩が予想外に素直な謝辞を呟いたので、ひよのがぴたり、と動きを止めた。
それをちら、と横目で見た歩は、静かに包みを鞄にしまう。
ひよのも黙って、行き場を失った手を下ろした。
「あー、えーなぁ。歩ばっかり」
僅かな沈黙を破って、火澄がわざとらしく声を上げる。
俺にはないん?と口を尖らせる少年を見て、ひよのがぱちぱち、と瞬いた。
「どうして私が、火澄さんにチョコあげなくちゃいけないんです?」
「うっわ、ひどっ!えーやんか、いっつも一緒におるんやから、義理でも何でもくれたって!」
「いつも一緒じゃありません。火澄さんが勝手にくっついてきてるだけですよ」
ふい、と視線を逸らされて、火澄が頬を膨らませる。
自分のを分けてやるから、と歩が言いかけるより少し早く、ひよのがひょい、と何かを投げて寄越した。
「うわ、え、何?」
「チョコレート。言うまでもないと思いますけど、義理ですから」
それあげたんですから、鳴海さんの分取らないでくださいね、と釘を刺される。
だが、歩が受け取った包みとは、大きさからして明らかな差があった。
一瞬目を見開いた火澄は、くしゃり、と笑って、それでも礼を述べる。
「お2人とも、来月は期待してますから」
にっこりと宣言した少女の言葉に、歩と火澄が揃ってきょとん、とした。
「ちょうど1ヵ月後です。ホワイトデーは3倍返しが基本ですよね」
ふふ、と笑うひよのに、歩はやっぱりな…と息を吐く。
火澄は相変わらず呆気に取られたままだったが、やがて小さく吹き出した。
「あ、火澄さん何笑ってるんですか!義理だってお返しは頂きますからね?」
絶対ですよ!と念を押すひよのに、あやふやに笑って誤魔化す。
軽やかに1ヵ月後の平和を約束させる彼女に、複雑な想いを抱きながら。
≪fin.≫
1/2ページ