Sweet Sweets Day

「はい」
「おぅ、ありがとさん」

立ち上る湯気の向こうを、そっと窺い見る。
台所から広がる香りに、彼が気付いていない筈はなかった。

甘く、あたたかい香り。


「亮子」
「…な、なにっ」

目が、合わせられない。

ふ、と笑う気配がして、ちらりとそちらを見たら、香介が嬉しそうに笑っていた。

「来月、どっか遊びに行こうな」
「え…」






 
「お返し、だ」







顔が熱くなるのを感じて、慌てて自分のカップに口を付ける。
甘くないものを選んだ筈なのに、それはとても甘ったるく、何だか彼によく似合っている気がした。

口に残る、かすかなほろ苦さに、僅かに眉をしかめる。

それはまるで、この想いのような。




恋人達の夜に、その飲み物は深い意味をまとう。

―――ホットチョコレート―――


部屋には、甘い香りが濃く漂っていた。



  ≪Fin.≫
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