高町亮子

【ま】


「お疲れ様でしたー」
「あぁ、お疲れ」

部活が終わり、教室に駆け戻る。
勢い良く開いたドアの向こうには、机を挟んで向き合う2人。

「あ、亮子ちゃん、お疲れさま~」
「おし、じゃあ帰るか」

がたがた、と派手な音を立てながら教室を後にする。

「今日の亮子ちゃんも、絶好調だったねぇ」
「え、何、見てたのかい?」
「そりゃあ、ばっちり拝ませて貰いましたよ?」
「こーすけくんてば、陸上部の練習がよく見える席とか、しっかり知ってるんだよ~」
「当たり前だ、俺に抜かりはない」
「…ばか?」
「あ、こら!バカにすんなよな!」

ふいに脳裏をよぎったのは、数時間前、見上げた空に浮かんだ真昼の月。
ひたすら地球に寄り添い続ける、その真っ白な衛星にさえ、ほんの少しだけ妬けてしまっていたのは、内緒の話だ。



『まひるのつき』
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