浅月香介
【き】
「空気が淀んでる」
「突然やって来て、第一声がそれか?」
そう広くない部屋の扉を開けて、香介が眉をしかめた。
一番奥のベッドでは、アイズが紙をいっぱいに広げている。
「せめて顔くらい、上げろよな」
「適度に顔も上げている」
「いや、そうじゃなくて、訪問者の顔を確認しろっつってんの」
「別に、確認しなければならない程の変化はないんだろう?」
一向に顔を向ける気配のないアイズに、香介の顔が引きつる。
ベッドの上には、アイズを囲むように楽譜が並んでいて、彼が随分その場を動いていない事を示していた。
「気分転換も必要って言葉、知ってるか?ったく、真っ白い顔しやがって」
「これは生まれつきだ」
「大体お前は、不健康すぎんだよ。もぅ窓開けるぞ!換気だ、換気!」
ホテルってのは通気口とかあるんじゃないのか?と文句を言いながら、勢いよく窓を開ける。
がた、と重い音を立てて、部屋が外界と繋がった。
「よし、これで良いだろ」
「…っ」
背後で聞こえた声にならない音に、香介が振り返った瞬間。
ざぁ、と風が鳴った。
「…え」
―――ばさささっ
「わ、げ、やべっ」
舞い上がった楽譜が、視界を白く隠す。
慌てて香介が窓を閉めると、浮力を失った楽譜が、はらはらと床に降りていった。
沈黙の中、最後の一枚が香介の足元に落ち着くと、それを目で追っていたアイズと目が合う。
「あー、えっと…」
思わず目を逸らす香介を見て、アイズが薄く笑う。
「確かに、気分転換にはなったな」
「…っ!」
慌てて楽譜を拾い集める香介の頬が引きつるのを見て、アイズが笑みを深くした事には、当の本人は気付いていなかった。
「空気が淀んでる」
「突然やって来て、第一声がそれか?」
そう広くない部屋の扉を開けて、香介が眉をしかめた。
一番奥のベッドでは、アイズが紙をいっぱいに広げている。
「せめて顔くらい、上げろよな」
「適度に顔も上げている」
「いや、そうじゃなくて、訪問者の顔を確認しろっつってんの」
「別に、確認しなければならない程の変化はないんだろう?」
一向に顔を向ける気配のないアイズに、香介の顔が引きつる。
ベッドの上には、アイズを囲むように楽譜が並んでいて、彼が随分その場を動いていない事を示していた。
「気分転換も必要って言葉、知ってるか?ったく、真っ白い顔しやがって」
「これは生まれつきだ」
「大体お前は、不健康すぎんだよ。もぅ窓開けるぞ!換気だ、換気!」
ホテルってのは通気口とかあるんじゃないのか?と文句を言いながら、勢いよく窓を開ける。
がた、と重い音を立てて、部屋が外界と繋がった。
「よし、これで良いだろ」
「…っ」
背後で聞こえた声にならない音に、香介が振り返った瞬間。
ざぁ、と風が鳴った。
「…え」
―――ばさささっ
「わ、げ、やべっ」
舞い上がった楽譜が、視界を白く隠す。
慌てて香介が窓を閉めると、浮力を失った楽譜が、はらはらと床に降りていった。
沈黙の中、最後の一枚が香介の足元に落ち着くと、それを目で追っていたアイズと目が合う。
「あー、えっと…」
思わず目を逸らす香介を見て、アイズが薄く笑う。
「確かに、気分転換にはなったな」
「…っ!」
慌てて楽譜を拾い集める香介の頬が引きつるのを見て、アイズが笑みを深くした事には、当の本人は気付いていなかった。
『きぶんてんかん』