鳴海歩

【る】


留守番をするのは、慣れていた。
だが、留守番をさせるとなると、話は別である。
家には昼食も用意してきているものの、1人の彼女が気になって仕方ない。
朝は笑顔で送り出してくれるようになったけれど。
…こんな事なら学校、休めば良かったといつも思う。

下校の鐘と同時に、中学校を飛び出す。
1分でも、1秒だって無駄には出来なかった。

「ただいま」
「……!?」
「ねーさん、俺だよ」

俺の声を聞いて、一瞬息を呑む気配は、相変わらず消えなくて。

「あぁ、おかえり、歩くん」
「歩で良いです。ちゃんと昼飯、食べました?」
「そうだったわね、歩。美味しかったわ」

ぎこちないけれど、確実に姉弟へと近付く距離。
“ねーさん”と呼ぶ度、胸が詰まるけれど。

俺はただ、貴女に笑っていて欲しいんだ。



『るすばん』
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