結崎ひよの
【よ】
「あ、ひよのさん!今、帰りですか?」
「あれ、理緒さん」
「良かったら、ちょっとご一緒しません?」
人懐っこく笑う少女に連れられて行った先では、陸上部の練習が一望できた。
「あそこで、亮子ちゃんが走るんです」
「へぇ…」
「亮子ちゃん、速いですよ~。ちょっとやそっとの風なら、追い越せちゃいそうなくらい」
理緒が嬉しそうに話しながら、適当な場所に腰を下ろした。
長居するつもりはなかったので、ひよのは立ったままグラウンドを眺める。
ぱっと旗が挙がると同時に、亮子が飛び出すのが見えた。
確かに速い。
風を押し分けるのではなく、風と一体になって走るようだった。
思わず、ぽぉっと見てしまった事に気付き、そっと理緒の顔を窺い見る。
「あれだけ速く走れるんだから、ずっとずっと真っ直ぐ、前だけ見続けていて貰いたいって、思っちゃうんです」
「…そうですか」
「そうなんです」
真剣な眼差し。
一時も見逃さないよう、見失う事のないよう、刻み付けるように。
幼い外見からは信じ難いほど、大人びた表情。
ひよのが静かに目を逸らすと、ざあ、と風が音を立てた。
「わ」
追い風が、背中を押すようで。
「ねぇ、理緒さん」
「はわ、は、はい?」
風にかき混ぜられた髪を避けながら、こちらを見上げる様子は、やはりとても子どもっぽかった。
「大丈夫ですよ。鳴海さんが、何とかしてくれます」
「…そうですね。弟さんなら、何とかしてくれます」
2人の会話を、当の少年が知る事はなく。
「あ、ひよのさん!今、帰りですか?」
「あれ、理緒さん」
「良かったら、ちょっとご一緒しません?」
人懐っこく笑う少女に連れられて行った先では、陸上部の練習が一望できた。
「あそこで、亮子ちゃんが走るんです」
「へぇ…」
「亮子ちゃん、速いですよ~。ちょっとやそっとの風なら、追い越せちゃいそうなくらい」
理緒が嬉しそうに話しながら、適当な場所に腰を下ろした。
長居するつもりはなかったので、ひよのは立ったままグラウンドを眺める。
ぱっと旗が挙がると同時に、亮子が飛び出すのが見えた。
確かに速い。
風を押し分けるのではなく、風と一体になって走るようだった。
思わず、ぽぉっと見てしまった事に気付き、そっと理緒の顔を窺い見る。
「あれだけ速く走れるんだから、ずっとずっと真っ直ぐ、前だけ見続けていて貰いたいって、思っちゃうんです」
「…そうですか」
「そうなんです」
真剣な眼差し。
一時も見逃さないよう、見失う事のないよう、刻み付けるように。
幼い外見からは信じ難いほど、大人びた表情。
ひよのが静かに目を逸らすと、ざあ、と風が音を立てた。
「わ」
追い風が、背中を押すようで。
「ねぇ、理緒さん」
「はわ、は、はい?」
風にかき混ぜられた髪を避けながら、こちらを見上げる様子は、やはりとても子どもっぽかった。
「大丈夫ですよ。鳴海さんが、何とかしてくれます」
「…そうですね。弟さんなら、何とかしてくれます」
2人の会話を、当の少年が知る事はなく。
『よーいどん』