結崎ひよの

【ざ】


全くないと言ったら、もちろん嘘になる。
だって私は、確かに心から彼を信じているけれど、彼には一切、私の事を話していない。

「ほら」

ぶっきらぼうに鞄から取り出されるお弁当。
先日、彼がまたお人好しっぷりを発揮して、たまたますれ違っただけみたいな人の為に動き回ったときの情報料である。
いわゆる“貸し”だ。

「ありがとうございます」
「これで、この間の事はチャラだからな」
「わかってますって」

早速蓋を開けると、真っ白なご飯と、色とりどりのオカズたち。
きらきらと輝いているのは、きっと気のせいではない。

「ねぇ、鳴海さん?」
「ん?」
「これ、何かしょっちゅう入ってません?」

ふと目に付いたオカズに、既視感を覚えて呟くと、彼がパンの袋を破りながら覗き込んできた。

「あぁ、あんた、それ好きなんじゃないのか?」
「…はい?」
「だって、いつも最初に箸つけてるだろ?」

あぁ、この人は。

「何言ってるんですか。嫌いだから先に食べてるのかもしれないじゃないですかー」
「あんたは、そういうタイプじゃないだろ」
「断定ですか」
「確信だな」

そう言って笑う、彼の優しさに触れる度、私の中にまた罪悪感が積もっていく。
甘く、柔らかく、締め付けられる。



『ざいあくかん』
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