children's party

「かがむって、何?これでえーのん?」
「あ、顔は上げて、こっち向いてて下さい」

言われるままに顔を上げて、視線の高さを揃えた火澄と目を合わせると、ひよのがわざとらしく溜め息をついた。

「鳴海さんも、これくらい素直だったら良いんですけどねー」
「でもほんまに歩がそんなやったら、気味悪いやろ」
「まぁ、それもそうですよね」

「お前ら、うるさいぞ」

背を向けたままでも分かる、歩の不機嫌な声に、顔を見合わせた2人が声を殺して笑う。

「で、何なん?おさげさん」
「はい」

声を潜めて促すと、とびきりの笑顔で、もふ、と何かを頭に乗せられた。
カシューチャのようなモノらしく、頭皮に小さな痛みが刺さる。
間近な少女の息遣いと、髪を整えてくれる指を感じて、ふいに全身が硬直した。

「…何、緊張してるんですか。何もしやしませんよ」
「ぇ、いや、そういう訳とちゃうんやけど」
「あんたの日頃の行いのせいだろ」

しっかり声だけ参加してくる歩の背中に、ひよのが力いっぱい視線を向ける。
それを敏感に感じ取ったのか、歩が大袈裟に肩をすくめた。

「で、私はこっちです」

ひよのの手が離れると同時に、火澄がさり気なく距離をとる。
少年の小さな動きに気付く様子のない少女が、再び鞄から、もこもこしたモノを取り出した。

「…それ、何の手?」
「ネコみたいですけど」

動物の足をかたどった手袋を、楽しそうに両手にはめる。
肉球がもこもこして、物を掴めなそうだと思いながら眺めていると、さらに鞄から何かを出そうとするひよのが、予想通りに苦戦し始めた。
小さく息を吐いて、出来るだけ何気ない声を出す。

「俺がやるて。これでえーの?」
「あ、すみません。そっちは火澄さんの分です」

取り出したのは、手の平に乗るような、小さなカボチャ。
よく見ると、目と口のシールが貼ってあった。
愛嬌のあるそれを、少女の肉球に挟んで持たせ、自分の頭に生えたモノに触れてみる。

「これ、やっぱ耳やんなぁ?」
「そうですよ。それもネコです」
「あは、やっぱし」

なら化け猫やな、と呟くと、ひよのが悪戯っぽく頷いた。
咄嗟に視線を外した火澄の様子を、少女は気に留める素振りもなく。

どちらともなく、台所とリビングを隔てるカウンターに身を乗り出した。

「あーゆーむー」
「鳴海さーん」

「「とりっく おあ とりーぃと!」」

「…あんたら、仮装する気ないだろ」

呆れた様に言いつつも、手にはカゴいっぱいに盛られたクッキー。
ぱっと顔を輝かせたひよのと火澄に、歩が小さな声で答えた。

「Happy Halloween」

悪戯好きな子ども達を、今宵はお菓子で宥めて過ごそう。


 ≪fin.≫
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