children's party

布を落とす、ぼふっという音と、いつもより少しだけ大きな足音。
途切れ途切れに聞こえる同居人の鼻歌に、少年は気付かない振りをしてオーブンを覗き込んだ。
早めの夕食を終えたこの時間、互いに何をしていようと勝手である。

「あーゆーむ~」
「……」

「……」
「……」

「……」
「…何だ」

名前を呼ばれた後、いつまで待っても次の言葉がない。
面倒臭そうな動作で振り向いた歩は、先に痺れを切らしてしまったことを、軽く後悔した。

「Trick or Treat?」

やけに流暢な、お決まりの台詞を聞いて、ふと彼が米国に行っていたことがある、と聞いたのを思い出す。
だが、その割には。

「お菓子くれなきゃ、イタズラすんで~」

やたらと楽しげな声は、少しくぐもっている。

「…何のつもりだ、火澄」
「何って、歩、今日何の日か知らんわけやないやろ?」
「西洋の節分とお盆だろ。ウチには関係ない」
「うわ、冷たい見方!えーやんか、ココは日本やねんから、カボチャとお化けのお祭りで」

適当な事を、さらりと言い放つ目の前の少年に、歩は小さく息を吐いた。

「で、そのカボチャとお化けのお祭りに、お前は何をしたいんだ?」
「うん?お化けやん、どう見ても」
「…ただシーツ被ってるだけだろうが」

部屋のベッドから外して、被ったのだろう。
大きなシーツは、背後が余って、ずるずると引きずっている。
物の少ない鳴海家だから出来た芸当で、これを物が多い場所でやったら、とても無事には歩けなかったハズだ。
…もしくは彼ならば、持ち前の強運で難なく歩けてしまうのかもしれないが。

「今時、小学生だって、もうちょっと凝った仮装をするぞ?」
「え、それはちょっと、ショックやな」

すこん、とお化けの脳天に手刀をお見舞いすると、小さく声を出して火澄が肩をすくめる。
何事もなかったかのように、そのまま歩が離れてしまったのを感じて、火澄がごそごそとシーツから顔を出した。

「ぶは、これ結構重たいねんなぁ」
「そりゃ、そんだけでかけりゃな」
「んー、でもすっぽり入りたかってんもん」

シーツをくるくると巻き取りながら呟く。
その声が聞こえたのか、歩が台所から、ひょい、と顔を出した。

「どうせなら、もうしばらくお化けやってろよ」
「もー嫌やー。歩がけなすからー」

ぶぅ、と頬を膨らませる火澄を見て、一瞬バツの悪そうな顔をした歩だったが、当の本人には気付かれなかったらしい。

「そのうち、お前の仲間が来るからな」
「…なか、ま?」

きょとん、と動きを止めた火澄を見て、思わず零れた笑みは、まさに悪戯っ子のそれを思わせるもの。
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