7月の約束

香介が、隣の少女の笑顔に胸を撫で下ろしていると、亮子がどこかすっきりとした顔を上げた。

「でもやっぱり、私は直接会える方が良いよ」
「~っ、お前なぁ」
「電話や手紙じゃ、嘘つかれても分かんないだろ?」

視線が、じろ、と突き刺さる。
咄嗟に、視線をあさっての方向に逃がした。

「は、何の事だか、さっぱり」
「自分の人生、じっくり振り返ってみるんだね」

一瞬、謝りたい衝動に駆られたが、ちらりと亮子の表情を盗み見て、やめた。
代わりに、黙って彼女の短い髪をかき回す。

「わ、何すんだいっ」
「大丈夫だよ」
「何がっ」

怒ったように払いのけた手で、簡単に髪を整える。
慣れた仕種で、あっという間に何事もなかったようになった。

「俺は当分、空に昇る予定はないからな」
「香…っ」

伝説は、果てしない彼方の星たちの話。

「地上にいりゃ、大丈夫だろ」

手を伸ばして、亮子の手を取る。
こんなにも簡単に、繋がる距離。

「…どうだかね」

下を向いた亮子の頬が、赤く染まるのが見て取れて、香介は小さく笑った。

ショッピングセンターの中では、そこかしこで笹飾りが揺れている。
沢山の想いを乗せた短冊と共に、さらさら、と優しい音を立てて。


 ≪fin.≫
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