7月の約束

「お母さんに赤ちゃんが出来ますように」
「…は?」

冷房の効いたショッピングセンターで、ふいに亮子が呟いた。

「子宝に恵まれますように…あ、この子のお母さんかな」
「…あぁ。何だ、脅かすなよ」

隣を歩く彼女の視線の先には、大きな笹。
誰でも自由に短冊を飾れるようになっているそれは、既に溢れんばかりの願い事で、重く身体を傾けていた。
色とりどりの紙が、明らかに笹の葉の数を超えている。

「へぇ。そーいや、もう7月かぁ」
「あぁ。早いもんだね」
「せっかくだから、何か書いてくか?こんだけありゃ、バレねーぞ、多分」
「誰にバレたらマズいもの書くつもりなのさ」

呆れたように目を細める亮子を見て、はは、と香介が眉を下げた。

「ま、こんだけあったら叶える方も大変だよな」
「たまたま目に付いたヤツから、叶えてくんじゃないのかい」
「…適当だな、オイ」

うげ、とリアクションを取る香介を無視して、亮子は笹飾りに足を止める素振りもない。

「大体、あの願いってのは、誰が叶えてくれるんだろうね」
「織姫と彦星じゃねーの?」
「何言ってんだい。あの2人は年に1度の再会で忙しいんだろ」
「あー、じゃあ、神様とか?」
「神様、ねぇ」

途端に、どうでも良さそうな表情になって、歩くペースが落ちる。
確か、織姫と彦星を天の川で隔てたのも“神様”ではなかったか。

「あんまり、叶えてくれそうにないよねぇ」
「少なくとも、俺らの神様は頼りねぇな」

脳裏をよぎる、現実の神様。
あの少年は、自分の願いすら、ロクに叶えられていない気がした。

「あー、何だかなぁ」

どちらともなく、溜め息が零れる。
笹飾りに願いをかける気など、欠片も起こらなかった。
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