彼方なる星合い

「だって、あの星たちを見て、昔の人は七夕のお話を作ったんですよ?」

“あの”と指差す先は、まだまだ明るい青空。

「星が動くって言っても、同じ距離を保ったまま動いていくんですから、いつまで経ったって、彼らは一緒になれないじゃないですか」

少女の指す大気の彼方を透かし見るようにして、火澄が首を傾げた。

「まぁ、言われてみれば、そうやなぁ」
「実際、何万光年って離れてる訳だしな」

地球からは、寄り添うように見える星であっても、実際の宇宙で近くにあるとは限らない。

「何万光年って、例えば1万光年離れてるだけでも、光の速度で1万年かかるってコトですよ?」
「でもそれは、人間の単位だろう」

さらり、と返された歩の言葉に、ひよのが眉をひそめる。
隣で火澄が、両手で頬杖をついた。

「星たちの感覚とは、ちゃうやろって?」
「俺らが見ているあの場所に、今もあの星があるって保障はないからな」

あの空に輝くのは、数万年前に放たれた光。
途方も無い年月を経て、今尚不変である証は、確かにどこにもない。

「今頃は、宇宙のどっかで仲良く寄り添ってるのかもしれないだろ」

それはひどく、甘く、優しい答えだった。
素直に受け止めるには、それなりの勇気がいるほどに。

だからひよのは、わざとらしく大きな息を吐いた。

「はーぁ。せっかく皆で祝福してるっていうのに、それはそれで薄情な話ですよね」

あのなぁ、と脱力する歩の横で、頬杖をついたままの火澄が抗議の声を上げる。

「えー、おさげさん。俺やったら絶対イヤやで、こんなん」
「こんなんって、どんなんですか」
「1年に1回しか会われへんのにやで?皆が俺らの事、じーっと見てたら、落ち着かんやんか」

ぶぅ、と彼が頬を膨らませる様子を見て、歩とひよのは思わず顔を見合わせた。
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