彼方なる星合い

「遠い、ですよね」
「…何がだ?」

机の向こう側から、ふいに手を伸ばされて、歩は眉をひそめた。
真っ直ぐにこちらに向けられた手は、微動だにしていない。

「そんな事あらへんて。ほら」

歩の隣で大人しく麦茶を飲んでいた火澄が、ひょい、と手を伸ばす。
ぺたり、と重ねられた手が冷たくて、ひよのは慌てて手を振りほどいた。

「ちょ、何するんですか!」
「何って、別に。全然遠いことなんてないって、見せただけやんか」

なぁ?と歩に同意を求めるが、彼は黙って肩をすくめるだけだった。
その態度に、む、と口を尖らせた火澄は、おもむろに歩の手を取って、机の上に持ち上げる。

「ほら。ちゃんと歩かて、手の届くトコにおるやん」
「お前、手ェ冷たいぞ」
「あ、そら多分、ずっと冷たいコップ触っとったからやろ」

彼の手の中で、未だ冷えたままの麦茶のグラスには、無数の水滴が浮かんでいた。
それを拭った手で自分の頬を挟んで、ほんまに冷た!と嬉しそうにしている。

「…で?何が遠いって?」

歩が面倒臭そうに、少女に目を向けた。

「え?あぁ、はい」

一瞬、何の話かと思ったひよのだったが、すぐに先程の自分の台詞に思い当たる。
歩が会話の意思を見せてくれた事で、ひとまず横にいる少年の事は、気にしない方向に決めた。

「織姫と彦星です」

「…火澄、パス」
「嫌や。歩がちゃんと責任取り」

渋い顔で、互いの肘をつつき合う男2人を見て、ひよのの表情が引きつったのは、言うまでもない。
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