CANDY DAY

時は過ぎて放課後。
大体、昼休みには歩特製のお弁当があるのだから、おやつを食べるのは放課後になるに決まっている。
分かっていたのか、ひよのに邪魔だと言われたのを真に受けたのか、火澄は部室に現れなかった。

2人分のお茶を用意したひよのは、机の上にいそいそと箱を取り出す。
慣れた様子で向かいに座った歩は、静かにお茶を啜った。
何の飾りもない、真っ白な箱を眺めて、ひよのが思わず息をつく。

「それにしたって、シンプルな贈り物ですね。リボンの1つくらい、掛けてくれたって良さそうなものなのに」
「あぁ、それなら…」

呟きながらも箱を開けていたひよのが、歩の声に、え、と顔を上げる。
いつものように頬杖をついた彼の、悪戯っぽい笑みに驚いて。

「火澄がしっかり、掛けてたぞ」

箱を開くと、甘く香ばしい香りと共に、色鮮やかなリボンが目に飛び込んできた。
食べやすく切ったパウンドケーキひとつひとつに、丁寧にリボンが掛けてある。

「箱の外にリボンを掛けると、鞄の中で、ぐちゃぐちゃになるって言ってな。アイツは、変なトコにこだわるから」
「…そう、ですか」

そっと1つを取り上げると、歩がひょい、と手を伸ばしてきた。
端をつまんで引くと、あっさりとリボンが解ける。
思わず、顔がほころんだ。

「何だか、手品みたいですね」
「そうか?」

解いたリボンを、くるくると巻き取りながら、興味なさそうに歩が言う。
綺麗にまとめ終わると、ひよのに向かって軽く放った。
既にケーキを食べ始めていた彼女は、慌てて片手でリボンを受け取る。
何とか受け止めた様子を見て、歩がひとつ笑った。

「ハッピーホワイトデー、ってな」
「何でも“ハッピー”って付ければ良いってものじゃありませんよ」
「じゃあ、何て言うんだ?」

ケーキを1つ食べ終えた少女は、いつもの調子でにこり、と笑う。
背筋を伸ばして自信たっぷりに、決まってるじゃないですか、と。

「バレンタインチョコ、ありがとう。美味しかったよ。ひよのちゃん、愛してる!!」

若干低めの声で、朗々と叫んだ。
語尾に過剰気味なハートを感じる。

「…そんな長い台詞、覚えられないな」
「ぬぁ!その年で痴呆ですか鳴海さん!?」
「あぁもう、うるさいあんた」

いつもの調子には、いつもの口調で返して。
繰り返される、平和な日常。
些細な幸せは案外、いつも近くに。


 ≪fin.≫
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