Halloween Night

「Happy Halloween」

流暢な発音で答えると、ひよのが嬉しそうな顔をした。

「あんたの悪戯なんて、想像するのも恐ろしいからな」
「そんな事ありませんよ?可愛い悪戯も、ちゃーんと用意してきました」
「“も”ってトコが怖いんだよ」

ふふ、と笑って、それ以上語らないところもまた、怖さをかきたてる。
溜め息をついて、座って待ってろ、と促すと少女は大人しく椅子に座った。
それを確認すると、歩はオーブンから重いオーブン皿を取り出す。
小さな皿に手際よく取り分けて、思わず笑みが零れた。
…タイミング、ぴったりすぎだろ。


「それより、あんた。これ食ったら化粧落として、その格好も何とかしてから帰れよ」
「あら、いいじゃないですか。ジャケット羽織ってきましたから、別に怪しくありませんよ?」

大体、鳴海家までの道のりを、既にこの格好で来たのだから、今更である。
ひよのはそう思っていたのだが、歩はちら、と彼女を見ただけで、視線を逸らしてしまった。


「夜が更けて、バンパイアが月の魔力を得たら困るからな」


そう言って、歩が目の前に置いたのは、キツネ色のパイ。
中からは、ほくほくのカボチャが覗いている。
前もって用意しておかないと、早々出てこない代物だ。

「うわ、いただきます」

幸せそうに、ひよのがパイを頬張る。
すっかりパイに夢中な彼女は、隣で歩が顔を赤くしている事にも気付かないのだった。


 ≪fin.≫
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