｢Trick or Treat？｣

放課後の自宅に、来訪者が１人。
少女の明るい声を聞いて、歩はふぅ、と息を吐いた。
ここまで予想通りの展開だと、面倒事まで面白く感じてしまうから不思議である。

｢あんた、このマンションはオートロックだぞ？｣
｢そんなの、このバンパイア様にかかれば、ちょちょいのちょいです｣
｢バンパイア…？｣

そこでようやく、来訪者の顔を確認した歩は、キッチンから顔を出したままの体勢で、動きを止めた。


｢鳴海さんてば、見惚れる前に、お菓子下さいよ｣
｢誰が見惚れてるって？｣
｢だから、鳴海さんですよ。耳まで遠くなっちゃいましたか？｣

ひよのの、からかった口調に呆れ声で返す。

｢あんたのどの辺が、バンパイアなんだ…？｣
｢え～、わかんないんですか？｣
｢さっぱりだな｣

黒いワンピースに黒いストッキングを履いて、爪と唇には真っ赤な色。
イメージ的にはわからなくもないが。

｢それより、その肩のマント。まさか羽織ったまま来たんじゃないだろうな｣
｢まさか。これはさっき、鳴海さん宅の前で着たんですよ｣

そう言って、黒いマントをばさりと翻して見せた。
器用なものである。