trick and treat

ぱっと顔を上げた彼女の表情を、確認するヒマもなく。
声を出すために吸おうとした空気を塞がれた。



それが、目の前にいる幼馴染の

彼がもう、何年も好きでいる女の

唇だと理解するのに、大した時間は要しなかった。



それでも次の瞬間には、既に亮子は離れていて。
立ち上がった彼女を見て、自分がいつの間にか、肩の手を外していた事に気付く。
その呆気なさに、自らが少しだけ腹立たしかった。

無意識に口元へ手をやろうとして、それでは今のを拭い去ろうとしているみたいに見えやしないか、なんてコトが頭をよぎり、浮きかけた腕を戻す。
特に発する言葉も見付からなかった。
自分が今、どんな顔をしているのかが、妙に気になって仕方ない。


思考が渦を巻いて、身体を動かせないでいると、すぐ背後に亮子の気配がした。
香介が振り向くより早く、ドス、と肩に座られる。
決して重い訳ではないのだが、勢い良く来るので「うげ」と声が出た。
頭上で、ふふ、と笑う声がする。

「悪戯完了♪」
「…は?」
「どーせ、お菓子なんか持ってやしないんだろ?」

勝ち誇ったような台詞。

だが、顔を見せないように彼の上に座っているのが、ただの照れ隠しだという事は伝わっていた。
何だかんだ言っても、感情がとてもストレートに出るタイプなのである。

香介の口元が緩んだ。
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