trick and treat

亮子が、ひゃ、と声にならない悲鳴を飲み込む。
条件反射のように、僅かに身を縮める彼女の肩を掴んだ。
ぐっと身体が固くなるのが、手の平から伝わってくる。


気持ちが挫けないうちに、素早くキスを落とした。



思わず目を閉じた亮子の、前髪を掻き上げた額に、ひとつ。





馬鹿だな。
俺がお前を傷付けるような真似、するハズないだろ?


だって、俺は。

お前を失うコトを、何より恐れ続けているんだ。



もう、何年も。




顔を離すと、その距離に比例するように、ゆっくりと亮子の身体から力が抜けていく。
手を離したら、そのまま崩れ込んでしまいそうだったので、肩を掴む手だけはそのままでいた。

これだって、きっと明日には“ただ、からかっただけ”と舌を出してしまえるのだろう。
俺はズルイから。

ふ、と自嘲の笑みが零れると、下を向いたままだった亮子が何かを呟いた。

「ん?何か言ったか?」
「…trick or treat?」
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