BirthDay is Happy?

「なーに、馬鹿なこと言ってんだよ」

呆れたような香介の言い方に、思わず顔を上げる。
いつの間にか、彼は目の前に立っていた。

「ばっ、馬鹿とはなんだ…っ」
「オメェは、俺に、おめでとうって言ってくれりゃ良いんだよ」

出来れば笑って、な?とくすぐったそうに付け足した。

「だってよ、バースデーってのは“生まれた日”って意味なんだぜ。つまり、年取る事を祝うんじゃなくて、生まれた事に感謝する日…って事だろ?」
「あ…」

失念していた。
先の心配ばかりして、見えない未来に怯えてばかりで。
今、ココに在る奇跡を、忘れかけていた。

うつむいて、黙ってしまった亮子の頭を、香介がぽんぽん、と叩く。
幼い子どもに対するような、慈しみを感じる仕種だった。
ぐっと目頭が熱くなる。
思わず、ぎゅっと目を閉じて感情を整理した。
自分が今、言うべき事。

ぱっと勢い良く顔を上げた亮子が、香介を一睨みする。
香介が慌てて、手を引っ込める様子が、何だか可笑しい。
身体が、すっと軽くなった。

「誕生日おめでとう、香介!」

大きく見開かれた目が、やがて優しく細められて。

「おぅ、ありがとな!」

照れ臭くて、思わず笑ってしまう。
すると次の瞬間、香介が驚いた顔をした。

「やべ、学校遅刻する…っ!」
「うわ、そういえば忘れてたっ!」

慌てて鞄を掴み、家をとび出す。
走りながら、香介がニヤリ、と笑った。

「やっぱ、誕生日にはケーキだよなぁ。帰りにどっか、食いに行こうぜ」
「良いけど私、部活あるよ?」
「おっしゃ、じゃあ待ってるからよ!」
「香介の奢りかい?」
「何でだよっ!?」

笑い声に、通行人が振り返る。
思わず顔を見合わせたが、溢れる笑みは隠せなかった。
少し高くなった空では、雲の間から明るい陽射しが零れ落ちていた。


 ≪fin.≫
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