小ネタまとめ
ラピスラズリの天泣④
2024/08/10 23:56復活山本夢
いつかあの世界の私は、消えて無くなってしまうのではないかと思うことがある。
私は消えて、この世界に溶けて、本当に何もなかったかのように……。
それは堪らなく、悔しいなって……。
こんなのって、下らない考えかな。
だってもし本当に私が消えてしまうのならば、その時は何か感情を抱くことも出来ないはずだから。
――我思う、故に我在り。
私がなくなったとき、私はそれに気付くことが出来るだろうか。
思うことすら出来なくなって、この世界の『私』は、私がいなくなったことに気付けるのだろうか。
今、考えたところで、私にはどうしようもないのだけれども、でもどうしても、考えてしまう。
今日、あの世界を想った私は、知ってしまったのだ。
友達や家族の顔が思い出せなくなっていた。
まだ辛うじて、名前や、どんな子だったかは思い出せる。
けれども、顔がさっぱり、思い出せない。
「私に忘れられてしまったあの人達は、この世界には存在しないのか……。」
手でペンを弄び、私は一人っきりの教室でぼんやりと天井の染みの数を数えていた。
今は48個目だ。
数えているのと平行に、あの世界の事を思い出す。
「あの世界の私は、まだ、存在しているだろうか。」
まだあの世界で、私の存在は思われているだろうか。
これもまた、考えても切りのない事なんだけど。
「ふふーんふぬふんー♪」
天井の染みを数えることにも飽きて、なんとなしに鼻唄を歌ってみる。
そろそろ下校時刻か……。
私は部活には入っていないのだけど、家に帰りたくないから、いつもこうしてギリギリまで時間を潰して待っている。
知らない人との家族ごっこなんて、疲れることこの上ないんだから。
でもこれ以上教室に居座るわけにもいかず、私は帰り支度を始めた。
そして丁度立ち上がったその時、騒がしい音を立てて、引き戸が開いた。
そこにいたのは私のエンジェル、山本君。
「ん?あ……えーと、烏丸だっけ?
こんな時間に何やってんのな?」
「え……えーと……ちょっと暇潰しをね。」
ぎこちなく会話を交わしているのは、たぶん山本君は私と話すことが今まであまりなかったからで、私はパニックになってるからである。
不思議そうにしていた山本君の顔が、私の返しを聞いていつもの笑顔に変わる。
……いや、おかしいな。
何か笑顔までいつもよりぎこちないや。
「……山本君、もしかしてお疲れ気味、なのかな?」
「え?そんなことねーけど。」
「……んー、そうなら、良いけど。
山本君、いつも遅くまで頑張ってるし、あんまり無理しすぎたら、体壊すよ?」
「大丈夫だって!でもありがとな!
烏丸もあんまり遅くまでいると危ねーから、帰るときとか気を付けろよ?」
「え!は、はい!気を付けます!」
「あはは、何で敬語なのな?
烏丸おもしれーんだなー。」
うわー、山本君に心配していただいた!
しかもニッコリ笑顔付きで!
何か元気の出るあの笑顔に癒されて、だらしなく緩みそうになるほっぺを気合いで引き締めながら私は帰路についたのである。
「じ、じゃあまたね山本君!
あんまり無理したらダメだよ!」
「おう、ありがとな烏丸!
また明日なー!」
ぶんぶんと手を振ってくれる山本君に、私も手を振り返した。
わぁ、珍しく幸せな気分になれたよ、うへへへ。
そんな風に舞い上がって浮かれていたから、私は彼の異変の理由に気付けなかった。
その数週間後、山本君は自殺騒ぎを起こす。
ラピスラズリの天泣⑤に続く
私は消えて、この世界に溶けて、本当に何もなかったかのように……。
それは堪らなく、悔しいなって……。
こんなのって、下らない考えかな。
だってもし本当に私が消えてしまうのならば、その時は何か感情を抱くことも出来ないはずだから。
――我思う、故に我在り。
私がなくなったとき、私はそれに気付くことが出来るだろうか。
思うことすら出来なくなって、この世界の『私』は、私がいなくなったことに気付けるのだろうか。
今、考えたところで、私にはどうしようもないのだけれども、でもどうしても、考えてしまう。
今日、あの世界を想った私は、知ってしまったのだ。
友達や家族の顔が思い出せなくなっていた。
まだ辛うじて、名前や、どんな子だったかは思い出せる。
けれども、顔がさっぱり、思い出せない。
「私に忘れられてしまったあの人達は、この世界には存在しないのか……。」
手でペンを弄び、私は一人っきりの教室でぼんやりと天井の染みの数を数えていた。
今は48個目だ。
数えているのと平行に、あの世界の事を思い出す。
「あの世界の私は、まだ、存在しているだろうか。」
まだあの世界で、私の存在は思われているだろうか。
これもまた、考えても切りのない事なんだけど。
「ふふーんふぬふんー♪」
天井の染みを数えることにも飽きて、なんとなしに鼻唄を歌ってみる。
そろそろ下校時刻か……。
私は部活には入っていないのだけど、家に帰りたくないから、いつもこうしてギリギリまで時間を潰して待っている。
知らない人との家族ごっこなんて、疲れることこの上ないんだから。
でもこれ以上教室に居座るわけにもいかず、私は帰り支度を始めた。
そして丁度立ち上がったその時、騒がしい音を立てて、引き戸が開いた。
そこにいたのは私のエンジェル、山本君。
「ん?あ……えーと、烏丸だっけ?
こんな時間に何やってんのな?」
「え……えーと……ちょっと暇潰しをね。」
ぎこちなく会話を交わしているのは、たぶん山本君は私と話すことが今まであまりなかったからで、私はパニックになってるからである。
不思議そうにしていた山本君の顔が、私の返しを聞いていつもの笑顔に変わる。
……いや、おかしいな。
何か笑顔までいつもよりぎこちないや。
「……山本君、もしかしてお疲れ気味、なのかな?」
「え?そんなことねーけど。」
「……んー、そうなら、良いけど。
山本君、いつも遅くまで頑張ってるし、あんまり無理しすぎたら、体壊すよ?」
「大丈夫だって!でもありがとな!
烏丸もあんまり遅くまでいると危ねーから、帰るときとか気を付けろよ?」
「え!は、はい!気を付けます!」
「あはは、何で敬語なのな?
烏丸おもしれーんだなー。」
うわー、山本君に心配していただいた!
しかもニッコリ笑顔付きで!
何か元気の出るあの笑顔に癒されて、だらしなく緩みそうになるほっぺを気合いで引き締めながら私は帰路についたのである。
「じ、じゃあまたね山本君!
あんまり無理したらダメだよ!」
「おう、ありがとな烏丸!
また明日なー!」
ぶんぶんと手を振ってくれる山本君に、私も手を振り返した。
わぁ、珍しく幸せな気分になれたよ、うへへへ。
そんな風に舞い上がって浮かれていたから、私は彼の異変の理由に気付けなかった。
その数週間後、山本君は自殺騒ぎを起こす。
ラピスラズリの天泣⑤に続く