小ネタまとめ

ラピスラズリの天泣③

2024/08/10 23:50
復活山本夢
もしあなたが、ある日ある時、突然見知らぬ土地に放り込まれたら、一体どうする?
私はとにかく、凹んだ。
自分のいる場所はわからない、周りの人間を誰も知らない、なのに周りは私を知っている。
あまりの恐ろしさに、私は全てが嫌になった。
私が言った覚えのない事を周りの人は知っている。
私が知らないはずの知識を、『私』は何故か持っている。
そもそももう一度中学校に通わなきゃならなくなったのが嫌だ。
数学とかもう二度としたくなかったわ。
しかし、神様、私は思ったのです。
凹んでるだけじゃどうにもならない。
来ることが出来たなら、帰ることもできるはず。
そしてそんな前向きな気持ちを私にくれたのは、クラスメイト山本君の笑顔でした。

「何なんだ、あの裏表のない純粋な笑顔。
野球少年は天使や妖精と同列にあるよね。」
「ないわよ。
好きなのは分かったからもう少し静かにしなさい。」
「はーい。」
「よし、良い返事よ。」
「でもエンジェルと呼ぶべきかフェアリーと呼ぶべきかの議論だけはさせてほしいかな。」
「良いのは返事だけだったのね。」

だってだって、普段から溜まる一方のストレスの解消法なんてこれくらいしかないんだもの。
あのエンジェルピュアスマイルが見たくて、私は視線をさ迷わせて山本君を探す。
山本君はドアの辺りで女子達……たぶん、ファンクラブの子達に捕まっていた。

「うわぁ、あれ全員ファン?
あんたあれとおんなじになりたいの?」
「いやいや、流石にあれはない。
山本君も困ってるし、ほらあの子、ドア通れなくって困ってるし。」
「え?……ああ、沢田ね。
って言うか、山本のあれは困ってるの?」
「困ってるよ!
いつもよりも笑顔が2割3分曇ってる!」
「細かいわね……気持ち悪。」
「花ちゃんひーどーいー。」
「悠ちゃんうーざーいー。」

さらりと酷いことを言う花ちゃんは、『私』の一番親しい友達、……らしい。
サバサバとした性格だから気は合うけど、やっぱり私は違和感が拭いきれない。
私の一番の友達は彼女じゃない。
性格的には似ているけれど、全くの別人で、話す度に違和感は増えていく。
……でも結局、一人じゃ寂しくて彼女に絡んでしまうのだけど。

「花ちゃん、私お手洗い行くね。」
「報告は良いからさっさと行ってきなさいよ。」
「そんなこと言って本当は寂しいくせにぃ~。」
「んなわけないない。」
「ちぇーっ!」

この不思議な現象に遇ってから、ほんの数日しか過ぎてない。
なのに私は、もうだいぶ中学生らしいノリとか言動とかが身に付いてしまっていた。

「ごめーん、そこ通るからちょっと開けてもらえるー?」
「あ、ごめんね烏丸さん!
ねー山本君!向こうで話そー!」
「あ、そうだな!
わりーな邪魔しちゃって!」
「いやいや気にしないでー。
あ、沢田君先に通っていーよ。」
「うぇ!?あ、ありがとう……。」

何となく、クラスメイト以上友達未満みたいな立ち位置に立って、それとなく間に立って……って言う中途半端な場所にいて。
ほんのちょっと見れる山本君の笑顔とか、ちょっとトロい沢田君のお礼に癒されたりとかして、どこにでもありそうな日常を送る。
もし、私がもとの世界に帰れたとしたら、私は一体、どうなるだろう。
余りにもこの世界にいることが自然になってしまって、もとの世界に不自然を感じてしまったとしたら、私はどうするのだろう。
漠然とした不安を抱えて、今日も私は『学生らしく』午後までしっかり、授業を受けた。





④に続く!

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