白金の福音
「実は、父さんはマフィアの跡取りだったんだ」
その言葉から始まった父の話は、まるで少年漫画かラノベみたいな、無茶苦茶で現実味のない事だった。
父さんがマフィアの跡取りで、裏社会を取り仕切る存在?
あの化け物は父さんを狙う組織の兵器?
オレが狙われてる?
「な、何言ってんの……?そんな馬鹿みたいな話、オレが信じるわけないじゃん……!」
「ヨシ、これは本当の話で……」
「は、半年ぶりに帰ってきて、まず最初に話すのがそんな嘘話ってなんだよ!!?」
うちは、父以外はごく普通の家庭だ。
並盛と言う東京郊外の町に一軒家を構えて、ちょっと天然な母さんと、オレとで暮らしている。
父さん……沢田綱吉は、ほとんど家には帰ってこない。
仕事の事も、オレはほとんど知らない。
警備会社の代取だとかって聞いたけど、どんなことしてるのかなんて聞いたこともなかった。
オレ達家族よりも、よっぽど大事な仕事なんだろうと思ってた。
それが、半年ぶりに帰ってきたかと思えばあれだ。
化け物と、父さんは手に炎を纏わせて戦っていた。
「か、母さんからも何か言ってよ!そんな嘘言ってないで、……そ、そうだ。あの化け物の事を警察に通報しないと……!」
「ヨシ君、お願い。お父さんの話、ちゃんと聞いて上げて。お父さんの言っていることは本当なの」
「母さんまで何言って……!」
「ヨシ、お前と母さんにはしばらく護衛を着けなくちゃならない。また奴らが狙ってくる可能性がある。だからもう一度父さんの話を……」
「うるさい!何だよマフィアって!?何だよ狙われるって!!マフィアって……犯罪者だろ!?何でオレがそんなもんに狙われなきゃいけないんだよ!?冗談じゃない!!」
「ヨシ!?どこに行くんだ!」
真剣な顔して話す二人に耐えきれなくなって、オレは衝動的に席を立っていた。
マフィア……?それって違法カジノ開いたり、クスリやハッパ流したり、銃で人を殺したりする連中の事だろ?
そんな、そんな奴が、家族に……そんな奴が、オレの父親だったなんて……!
「待てヨシ!」
「オレに近付くなよ!この、人殺し!」
「なっ……!!」
それだけ言い捨てて、オレはまた夜の町に飛び出す。
行く宛はなかった。
でも、あの家にはもう居たくなかった。
がむしゃらに走って、走って、走って……。
曲がり角から出てきた人に思い切りぶつかった。
「うわっ!いったぁ!?」
「おっ……と、すまな……ヨシ?」
「え?」
尻餅をついた腰をさすりながら、声の主を見上げる。
そこに居たのは、驚いた顔でこちらを見る、幼馴染みのお兄さんで。
「あ、アル兄!?」
短く刈り込んだ銀色の髪と、少し垂れ気味の優しそうな目。
優しげな顔立ちと、オレが見上げるくらい高い背で、通りを歩く水商売っぽい女の人達の視線を集めている。
「久々だな、ヨシ。怪我してねぇか?」
「あ、うん。平気……」
「どうしたんだよ、こんな夜中に出歩いて。学生だろ?危ないんじゃないか?」
「それは……」
家を出るとき、自分が言った言葉が脳裏を過る。
言葉が出なくなって、うつむいたオレを見かねたのか、アル兄は手を差し出してくれた。
「何があったか、オレで良ければ、話を聞くぜ。とにかく、オレが泊まってるホテルに行こう。それで良いか?」
「あ……ありがとう、アル兄!」
その申し出はまさに渡りに船で、オレは喜んで彼に着いていくことにする。
昔から、お兄ちゃん気質と言うか、アル兄はすごく面倒見のいい人だった。
本名はアレッシオ・キャバッローネ。
父さんと母さんの友人の息子。
オレが小さい頃から、彼とその妹が日本に来る度に、一緒に遊んでもらっていた。
……父さんと母さんの友達ってことは、アル兄の親も、そっちの人、なのだろうか……?
でも、アル兄は優しくて頼れる幼馴染みだ。
きっと父さん達の仕事の事は知らなくて、アル兄も騙されているんだ。
これを知ったら、アル兄はどう思うだろう。
怒る?
それとも悲しむだろうか。
とにかく、あの人達の元にはもう居られない。
アル兄と、マリ姉と一緒に、誰か信頼できる人の元に逃げなきゃ。
「ほら、着いたぞ」
「へ……えええ!!?ホテル、ここなの!?」
「ん?ああ、母さんと父さんが過保護でな。ここじゃないとダメだって言うんだ」
連れてこられたホテルは、並盛でも一番でかい高級ホテルで、しかもアル兄に着いてエレベーターに入れば、最上階近くまで昇っていく。
「うそ……スイートじゃん……」
「オレもこれはやりすぎだと思うんだけどな」
ほとんど放心状態で部屋の中に入り、辺りを見回してようやく気がつく。
「アル兄、今回は一人なの……?」
「ああ、ちょっと仕事の都合でな」
「え、仕事!?」
アル兄って確か、まだ18歳だったよね?
高卒で就職したら確かに不自然じゃないけど……。
アル兄は頭が良いのに、どうして?
「大学、行かないの?」
「勉強は嫌いじゃねーが、やりたいことがあったからな。それより、ヨシお前、あんなところで何してたんだ?京子さんは?家に一人なんじゃないのか?」
「あ……」
京子……母さんは、父さんの言ったことを初めから知っていたように見えた。
でも母さんは普通の人だ。
父さんみたいに仕事であっちこっち行ったりもしないし、血を見るのも苦手な普通のお母さんだ。
アル兄に言われて、心配になってくる。
父さんが母さんにベタ惚れなのは知ってるけれど、相手はマフィアだ。
何をするかなんて、わかったもんじゃない。
「ど、どうしようアル兄!大変なことがあったんだ!」
「……まずは座れ。オレに出来ることなら、きっと力になる。さ、話してみろ」
「う、うん……。信じてもらえるか、わからないけれど……」
ああ、やっぱり。
この人は優しくて頼もしい。
彼に出してもらったホットミルクを飲みながら、オレは化け物に追い掛けられた話と、父さんから聞いた話をする。
きっと、きっとアル兄なら、一番良い答えを教えてくれるだろう。
その言葉から始まった父の話は、まるで少年漫画かラノベみたいな、無茶苦茶で現実味のない事だった。
父さんがマフィアの跡取りで、裏社会を取り仕切る存在?
あの化け物は父さんを狙う組織の兵器?
オレが狙われてる?
「な、何言ってんの……?そんな馬鹿みたいな話、オレが信じるわけないじゃん……!」
「ヨシ、これは本当の話で……」
「は、半年ぶりに帰ってきて、まず最初に話すのがそんな嘘話ってなんだよ!!?」
うちは、父以外はごく普通の家庭だ。
並盛と言う東京郊外の町に一軒家を構えて、ちょっと天然な母さんと、オレとで暮らしている。
父さん……沢田綱吉は、ほとんど家には帰ってこない。
仕事の事も、オレはほとんど知らない。
警備会社の代取だとかって聞いたけど、どんなことしてるのかなんて聞いたこともなかった。
オレ達家族よりも、よっぽど大事な仕事なんだろうと思ってた。
それが、半年ぶりに帰ってきたかと思えばあれだ。
化け物と、父さんは手に炎を纏わせて戦っていた。
「か、母さんからも何か言ってよ!そんな嘘言ってないで、……そ、そうだ。あの化け物の事を警察に通報しないと……!」
「ヨシ君、お願い。お父さんの話、ちゃんと聞いて上げて。お父さんの言っていることは本当なの」
「母さんまで何言って……!」
「ヨシ、お前と母さんにはしばらく護衛を着けなくちゃならない。また奴らが狙ってくる可能性がある。だからもう一度父さんの話を……」
「うるさい!何だよマフィアって!?何だよ狙われるって!!マフィアって……犯罪者だろ!?何でオレがそんなもんに狙われなきゃいけないんだよ!?冗談じゃない!!」
「ヨシ!?どこに行くんだ!」
真剣な顔して話す二人に耐えきれなくなって、オレは衝動的に席を立っていた。
マフィア……?それって違法カジノ開いたり、クスリやハッパ流したり、銃で人を殺したりする連中の事だろ?
そんな、そんな奴が、家族に……そんな奴が、オレの父親だったなんて……!
「待てヨシ!」
「オレに近付くなよ!この、人殺し!」
「なっ……!!」
それだけ言い捨てて、オレはまた夜の町に飛び出す。
行く宛はなかった。
でも、あの家にはもう居たくなかった。
がむしゃらに走って、走って、走って……。
曲がり角から出てきた人に思い切りぶつかった。
「うわっ!いったぁ!?」
「おっ……と、すまな……ヨシ?」
「え?」
尻餅をついた腰をさすりながら、声の主を見上げる。
そこに居たのは、驚いた顔でこちらを見る、幼馴染みのお兄さんで。
「あ、アル兄!?」
短く刈り込んだ銀色の髪と、少し垂れ気味の優しそうな目。
優しげな顔立ちと、オレが見上げるくらい高い背で、通りを歩く水商売っぽい女の人達の視線を集めている。
「久々だな、ヨシ。怪我してねぇか?」
「あ、うん。平気……」
「どうしたんだよ、こんな夜中に出歩いて。学生だろ?危ないんじゃないか?」
「それは……」
家を出るとき、自分が言った言葉が脳裏を過る。
言葉が出なくなって、うつむいたオレを見かねたのか、アル兄は手を差し出してくれた。
「何があったか、オレで良ければ、話を聞くぜ。とにかく、オレが泊まってるホテルに行こう。それで良いか?」
「あ……ありがとう、アル兄!」
その申し出はまさに渡りに船で、オレは喜んで彼に着いていくことにする。
昔から、お兄ちゃん気質と言うか、アル兄はすごく面倒見のいい人だった。
本名はアレッシオ・キャバッローネ。
父さんと母さんの友人の息子。
オレが小さい頃から、彼とその妹が日本に来る度に、一緒に遊んでもらっていた。
……父さんと母さんの友達ってことは、アル兄の親も、そっちの人、なのだろうか……?
でも、アル兄は優しくて頼れる幼馴染みだ。
きっと父さん達の仕事の事は知らなくて、アル兄も騙されているんだ。
これを知ったら、アル兄はどう思うだろう。
怒る?
それとも悲しむだろうか。
とにかく、あの人達の元にはもう居られない。
アル兄と、マリ姉と一緒に、誰か信頼できる人の元に逃げなきゃ。
「ほら、着いたぞ」
「へ……えええ!!?ホテル、ここなの!?」
「ん?ああ、母さんと父さんが過保護でな。ここじゃないとダメだって言うんだ」
連れてこられたホテルは、並盛でも一番でかい高級ホテルで、しかもアル兄に着いてエレベーターに入れば、最上階近くまで昇っていく。
「うそ……スイートじゃん……」
「オレもこれはやりすぎだと思うんだけどな」
ほとんど放心状態で部屋の中に入り、辺りを見回してようやく気がつく。
「アル兄、今回は一人なの……?」
「ああ、ちょっと仕事の都合でな」
「え、仕事!?」
アル兄って確か、まだ18歳だったよね?
高卒で就職したら確かに不自然じゃないけど……。
アル兄は頭が良いのに、どうして?
「大学、行かないの?」
「勉強は嫌いじゃねーが、やりたいことがあったからな。それより、ヨシお前、あんなところで何してたんだ?京子さんは?家に一人なんじゃないのか?」
「あ……」
京子……母さんは、父さんの言ったことを初めから知っていたように見えた。
でも母さんは普通の人だ。
父さんみたいに仕事であっちこっち行ったりもしないし、血を見るのも苦手な普通のお母さんだ。
アル兄に言われて、心配になってくる。
父さんが母さんにベタ惚れなのは知ってるけれど、相手はマフィアだ。
何をするかなんて、わかったもんじゃない。
「ど、どうしようアル兄!大変なことがあったんだ!」
「……まずは座れ。オレに出来ることなら、きっと力になる。さ、話してみろ」
「う、うん……。信じてもらえるか、わからないけれど……」
ああ、やっぱり。
この人は優しくて頼もしい。
彼に出してもらったホットミルクを飲みながら、オレは化け物に追い掛けられた話と、父さんから聞いた話をする。
きっと、きっとアル兄なら、一番良い答えを教えてくれるだろう。