白金の福音

『ご結婚、おめでとうございまーす!』
「へ……え?」
飾り付けられた華やかな中庭。
テーブルの上に所狭しと並べられた料理。
あちこちに活けられている色とりどりの花。
見知った奴らが随分と畏まった服を着て、してやったりと笑っている。
そしてオレはと言うと、起き抜けの隙を突かれて、真っ白なドレスを……ウェディングドレスを着させられて、呆然と立ち尽くしている。
一体これはどういう事なんだろ。
ディーノを見ると、心底嬉しそうな表情で手に持っていた看板をこちらに見せ付けてきた。
『ドッキリ大成功!』
どう見てもこれは、サプライズで。
どう見てもこれは、結婚式で。
どう見てもアイツは花婿で。
どう見てもオレは花嫁だ。
「ま、マジかよ……」
周りにはキャバッローネの連中だけじゃなく、オレやディーノの友人もいたし、ヴァリアーの奴らもいたし、沢田達日本にいる10代目候補だった連中もいる。
「さ、ブーケを持ってぇ~!」
「あっ、う"おい!ちょっと……!」
ルッスにブーケを渡されて、思わず受け取ってしまってから慌てる。
いきなり結婚式とか言われても困る!
そもそも、こんなのやるつもりなんて無かったのに……。
「スペルビ」
名前を呼ばれて、手招きされる。
混乱したまま、おずおずとディーノの隣まで歩み寄る。
後3歩ってところで、ディーノの方から手を差し伸べられて、それを掴むとぐっと引き寄せられて、お互い向かい合う形で隣に並ぶ。
「驚いただろ」
「あ、当たり前だろぉ。ドレスも、この会場も……いつの間に用意したんだよ」
「ツナ達呼ぶって決めてからすぐ!普通に提案したらやらせてもらえねーって思ったからさ、内緒で企画してみた」
「馬鹿だろ、お前……」
「へへへ」
確かに、結婚式開こうなんて言われたら、オレは必要ないって突っぱねてただろう。
オレ達はマフィアなのに、呑気にこんな式を開いてるなんて変だ。
こんなに沢山のバカを巻き込んで、こんなに盛大に祝って……。
「オレが、ウェディングドレス、なんて」
「うん、凄く綺麗だ」
「っ……こんなに人を集めて……」
「皆もたくさん協力してくれたんだぜ。そうだ、これを……」
懐から出された小箱を開くと、中にはペアのリングが入っている。
小さい方のそれを、ディーノが手にとって、オレの左手薬指にはめてくれる。
義手だから、何も感じないはずなのに、このむず痒さは何だろう。
リングは指の上でキラキラと輝いていて、自分の目には眩しすぎる。
「神父もいない形だけの式だけど、ちゃんとやっておきたかったんだ。……ドレスを着たお前の事を見たかったし、何より、絶対に幸せにしてやるって覚悟が、より強く出来るからな」
にっと笑った顔が、まるで逃がさないとでも言っているように見える。
幸せにしてやるなんて言われて、こんな式まで開かれて、こいつを放ってどっか行くなんて出来るはずもない。
本当にこいつの言う通り、幸せに、なれるのならば、側を離れる、理由もない。
差し出された小箱から、もう1つのリングを取る。
「っ……はあ、本当にどうしようもねぇ奴だなぁ、お前はよぉ!」
舌打ちをしながらディーノの手を取る。
「そうかな?」
「そうだよ!……オレじゃねぇと面倒見切れないだろ。最後まで、付き合ってやるから、覚悟しとけよ、バーカ!」
「おー!とっくに出来てるっての、バーカ!」
乱暴にリングをはめてやる。
誓いの言葉だなんて物は、自分達にはとても似合わない。
噛み付くように言い合って、二人で口付けを交わせば、周囲からわっと歓声がわいた。
ああちくしょう、恥ずかしい。
キスした流れのまんま、ぎゅっと抱き締められる。
こんなところを人に見られるのが嫌で、式だの何だのを開くことを嫌がっていたのに。
「つー訳で、オレ達結婚しまーす!」
「おめでとうディーノさん!」
「派手なことしやがるなー」
「おめでとうございますボス!」
「おめでとうございます隊長ー!」
雨あられと降り注ぐ賛辞に、もう恥ずかしがっているのが馬鹿らしく思えてくる。
友人に抱き付かれたり、ハルや京子に泣きながら誉められたり、部下の奴らに写真とられまくったり。
「はっ、馬子にも衣装ってやつだな、カス」
ザンザスには、いつも通りのちょっと小馬鹿にしたような感じでそう言われる。
「しし、スクアーロもちっとは女らしくなったんじゃねー?結構似合ってんじゃん」
ベルには意外にも素直に誉められた。
「スクちゃんったらと~っても綺麗!アタシも早く結婚したいわ~」
ルッスは自分の事のように喜んでくれる。
「ふん、お前がヴァリアーを離れる間に、オレがボスの右腕になってやる!せいぜい束の間の休みを不安に過ごしておくんだな!」
レヴィはいつもの調子ながら、結婚祝いだと言ってあれこれプレゼントを置いていってくれた。
ツンデレか。
「ま、この盛り上がりも君の人徳って奴だろうね。おめでとう、スクアーロ。今日くらいは素直に祝ってあげる」
マーモンは、彼にしては素直に祝ってくれて、『ちょっとしたサービス』だと言って幻術を使い、髪に花を飾ってくれた。
「ロマーリオ!写真とってくれよ」
「あいよ、ボス!」
ディーノと一緒に写真を撮られる。
「ほら、笑えよスクアーロ!それともボスと一緒じゃ恥ずかしくて笑えねーか?」
「は、恥ずかしくなんかねぇよ!」
ロマーリオに促されて、ぎこちなく笑みを浮かべる。
オレ達の指には、リングが鈍い光を放っている。
書類の上では、既にオレ達は夫婦として認められているけれど、どこかまだ、実感が薄かった。
今日、こうしてたくさんの人に祝福されて、パーティーまで開いてもらって、ようやく結ばれたんだってことを実感する。
「必ず、幸せになろう」
「……ああ」
自然と浮かんだ微笑みを、カメラが逃さず撮しとる。
その日の写真は、想い出は、一生の宝物となった。
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