白金の福音
ヴァリアーの仕事は休み。
ヴァリアーアジトからも出て、オレは今、キャバッローネ邸で世話になっている。
手に持っていた本を机に置いて、ぼんやりと窓の外を眺める。
「暇だ……」
何もやることがない。
これからのことに対して、あれこれ勉強はしているが、何時間も読み続けていたら流石に飽きてくる。
料理を手伝おうとしたら断られたし、部屋は隅から隅まで綺麗にしてしまった。
家事を手伝おうにも、使用人の仕事をとってしまうことになるし、下手に手を出すことも出来ない。
「体動かしたい」
とは言っても、最近どうにも、体調が優れない。
胸がムカムカして、気持ち悪い。
悪阻だろうと言われたが、治まることなく続くこの気持ち悪さは、運動するには都合が悪い。
「おー、暇そうだな」
「ディーノ」
椅子の上で膝を抱えていたら、仕事の休憩か知らないが、ディーノの奴が朗らかに笑いながら部屋に来た。
「具合は大丈夫かー?」
「ちょっと気持ち悪い」
「吐きそうか?」
「それほどじゃ、ねぇけど」
立ち上がれないほどでもないし、動けない訳じゃない。
悪阻はきっと重たい方じゃないのだろうから、一人で暇をもて余しているのは、何だかばつが悪い。
だから、ディーノに茶でも入れてやろうと思って、立ち上がりかけたのに、肩を押されて椅子に戻された。
「具合悪いんなら大人しくしてろって」
「でも、大してキツい訳じゃないしな」
「……それでも、お前は大人しくしてて良い。こう言うときくらい、甘やかさせてくれって」
「む」
調子が狂う。
ただ、そう言ってくれること自体はやっぱり嬉しくて、仕方なく頷いた。
自分の屋敷で飲み物を淹れるくらいなら、ドジのディーノでも失敗はしないから、一応不安もない。
「……そう言えば、仕事は良いのかぁ?」
「ああ、休憩中だ。あと、ちょっとした報告があるんだよ」
「あ?報告?」
「ツナ達、来週末の連休を使って来てくれるってよ!」
「ああ、アイツらのことか」
奴らをイタリアに呼ぶっていう話だったか。
会うのは半年ぶりくらいだろうか。
「リボーンにツナ、獄寺、山本と、京子とハル、後は了平も来るって言ってたな。予定が合えば奈々さんも来るかもって」
「随分多いな……?まだ細かい話は言ってねぇんだろぉ?」
「皆連れて遊びに来い!って言ったからな!」
「……豪気な事だなぁ」
こっちで旅行の代金を持つって話だったが、大丈夫なのだろうか。
……心配するだけ損か。
こいつ金は腐るほど持ってることだろうし。
「アイツらはここに泊まるのか?」
「おう、その予定だ。部屋の準備とかは家の使用人にやってもらえるから、スペルビは楽しみに待ってんのが仕事だ!」
「……暇」
「何か趣味でも見付けるか?」
「む……」
趣味なんて、考えたことなかったな。
そんな暇は無かったけど、そうか、これだけ暇なら、そういうものを探してみても良い、のかな。
「映画でも見てみたらどうだ?」
「映画?」
「ゴットファーザーとか」
「……本物のマフィアがそれ見るかぁ?」
「案外面白かったぜ?」
ふむ、それも良いかもしれない。
何を見るかはともかく、映画を観るっていうのはありかもしれない。
本を読んだり、映画を観たり、勉強したり……?
何か、今まではしてこなかったものを。
「良いの、かな。本当に」
「……良いよ。お前はもっと、自分の人生を生きて良い。楽しんだって良い。趣味の1つくらい、作れよ」
「……映画、見てみる」
「そうだな!」
さあ、何から見てみようか。
自分の人生を生きるだなんて大層な話は、あまり実感も湧かないし、たぶん上手くも出来ない。
だが、1つずつ、ディーノに教えてもらえた事を試していくくらいなら、オレにだって出来る。
「そろそろ戻るけど、また時間が出来たら来るぜ。映画見たら感想教えてくれよな」
「わかった」
去り際にキスをされる。
その行為にも慣れてしまって、大人しく受け入れてしまっている。
「また後でな」
「……仕事、頑張れよ」
「おう!」
また、部屋に一人になる。
これまで何ともなかった一人ぼっちの時間が、何故か寂しく感じてしまう。
仕事に忙殺されていた日常から解放されて、今のオレには肩書きも何もない。
もしかしたら、オレもまた産まれる所なのかもしれない。
ヴァリアーのスクアーロでもなく、暗殺者でも、掃除屋でもなく、たった一人の人間として、自分の好きなことを見付けたり、何が出来るか模索したりして、これまで知らなかった自分を知る。
手始めにまず映画。
DVD、確かこの屋敷のどっかに、本と一緒に並んでた気がする。
「何を見ようかな……」
思い返してみれば、映画なんて見るのは子供の時以来だ。
自分がどういう映画が好きなのかさえ、オレは知らない。
少し楽しくなってきて、気持ち悪いのも和らいだような気がする。
部屋を出て、DVDを探しに歩き始めた。
真昼の柔らかな光が、キャバッローネの廊下を暖かく照らしている。
ヴァリアーアジトからも出て、オレは今、キャバッローネ邸で世話になっている。
手に持っていた本を机に置いて、ぼんやりと窓の外を眺める。
「暇だ……」
何もやることがない。
これからのことに対して、あれこれ勉強はしているが、何時間も読み続けていたら流石に飽きてくる。
料理を手伝おうとしたら断られたし、部屋は隅から隅まで綺麗にしてしまった。
家事を手伝おうにも、使用人の仕事をとってしまうことになるし、下手に手を出すことも出来ない。
「体動かしたい」
とは言っても、最近どうにも、体調が優れない。
胸がムカムカして、気持ち悪い。
悪阻だろうと言われたが、治まることなく続くこの気持ち悪さは、運動するには都合が悪い。
「おー、暇そうだな」
「ディーノ」
椅子の上で膝を抱えていたら、仕事の休憩か知らないが、ディーノの奴が朗らかに笑いながら部屋に来た。
「具合は大丈夫かー?」
「ちょっと気持ち悪い」
「吐きそうか?」
「それほどじゃ、ねぇけど」
立ち上がれないほどでもないし、動けない訳じゃない。
悪阻はきっと重たい方じゃないのだろうから、一人で暇をもて余しているのは、何だかばつが悪い。
だから、ディーノに茶でも入れてやろうと思って、立ち上がりかけたのに、肩を押されて椅子に戻された。
「具合悪いんなら大人しくしてろって」
「でも、大してキツい訳じゃないしな」
「……それでも、お前は大人しくしてて良い。こう言うときくらい、甘やかさせてくれって」
「む」
調子が狂う。
ただ、そう言ってくれること自体はやっぱり嬉しくて、仕方なく頷いた。
自分の屋敷で飲み物を淹れるくらいなら、ドジのディーノでも失敗はしないから、一応不安もない。
「……そう言えば、仕事は良いのかぁ?」
「ああ、休憩中だ。あと、ちょっとした報告があるんだよ」
「あ?報告?」
「ツナ達、来週末の連休を使って来てくれるってよ!」
「ああ、アイツらのことか」
奴らをイタリアに呼ぶっていう話だったか。
会うのは半年ぶりくらいだろうか。
「リボーンにツナ、獄寺、山本と、京子とハル、後は了平も来るって言ってたな。予定が合えば奈々さんも来るかもって」
「随分多いな……?まだ細かい話は言ってねぇんだろぉ?」
「皆連れて遊びに来い!って言ったからな!」
「……豪気な事だなぁ」
こっちで旅行の代金を持つって話だったが、大丈夫なのだろうか。
……心配するだけ損か。
こいつ金は腐るほど持ってることだろうし。
「アイツらはここに泊まるのか?」
「おう、その予定だ。部屋の準備とかは家の使用人にやってもらえるから、スペルビは楽しみに待ってんのが仕事だ!」
「……暇」
「何か趣味でも見付けるか?」
「む……」
趣味なんて、考えたことなかったな。
そんな暇は無かったけど、そうか、これだけ暇なら、そういうものを探してみても良い、のかな。
「映画でも見てみたらどうだ?」
「映画?」
「ゴットファーザーとか」
「……本物のマフィアがそれ見るかぁ?」
「案外面白かったぜ?」
ふむ、それも良いかもしれない。
何を見るかはともかく、映画を観るっていうのはありかもしれない。
本を読んだり、映画を観たり、勉強したり……?
何か、今まではしてこなかったものを。
「良いの、かな。本当に」
「……良いよ。お前はもっと、自分の人生を生きて良い。楽しんだって良い。趣味の1つくらい、作れよ」
「……映画、見てみる」
「そうだな!」
さあ、何から見てみようか。
自分の人生を生きるだなんて大層な話は、あまり実感も湧かないし、たぶん上手くも出来ない。
だが、1つずつ、ディーノに教えてもらえた事を試していくくらいなら、オレにだって出来る。
「そろそろ戻るけど、また時間が出来たら来るぜ。映画見たら感想教えてくれよな」
「わかった」
去り際にキスをされる。
その行為にも慣れてしまって、大人しく受け入れてしまっている。
「また後でな」
「……仕事、頑張れよ」
「おう!」
また、部屋に一人になる。
これまで何ともなかった一人ぼっちの時間が、何故か寂しく感じてしまう。
仕事に忙殺されていた日常から解放されて、今のオレには肩書きも何もない。
もしかしたら、オレもまた産まれる所なのかもしれない。
ヴァリアーのスクアーロでもなく、暗殺者でも、掃除屋でもなく、たった一人の人間として、自分の好きなことを見付けたり、何が出来るか模索したりして、これまで知らなかった自分を知る。
手始めにまず映画。
DVD、確かこの屋敷のどっかに、本と一緒に並んでた気がする。
「何を見ようかな……」
思い返してみれば、映画なんて見るのは子供の時以来だ。
自分がどういう映画が好きなのかさえ、オレは知らない。
少し楽しくなってきて、気持ち悪いのも和らいだような気がする。
部屋を出て、DVDを探しに歩き始めた。
真昼の柔らかな光が、キャバッローネの廊下を暖かく照らしている。