朱と交われば
「みんな~そろそろ到着の時間よぉ~」
いやに明るい声に揺り動かされて瞼を開ける。
いつの間に寝ていたのか、何だか不愉快な夢を見ていたような気がする。
「ボス~、シートベルトを締めてちょうだいね~♡」
「……ちっ」
もだもだと体を起こして、腰にベルトを締める。
飛行機は嫌いだ。
なんでこんな鉄の塊が空を飛んでるのかさっぱりわからねぇし、そもそも他人と同じ空間を強制されるし。
しかし今回ばかりはわがままも言っていられない。
スクアーロがイタリアにいる。
イタリアで、きっと死ぬ気でいる。
遅くなれば、もう二度と会えないかもしれない。
手の中のノートに視線を送る。
あいつの狙いは、突き詰めてみれば単純だった。
全ての罪を自らが被って死ぬ。
その為に悪役を演じて、その為に策を弄して、最後は自身のボスをも裏切り、ボンゴレをひっかき回した主犯として、今この時も、殺されるのを待っている。
……狂ってる。
そんなことを考えることも、実行に移すことも、とても正気には思えない。
だが、なぜそうなるまで気が付けなかったのかという自責の念よりも、今のオレは怒りの方が強く覚える。
そんなにオレ達が信用ならなかったか。
話もしねぇで勝手に決めやがって、挙げ句、芝居でもオレを裏切りやがった。
絶対に許さねぇし、必ず一発殴ってやる。
でもそこまでおかしくなったのには、苦しい事がたくさんあったのだろう。
労ってやれば、少しは、喜んでくれるだろうか。
「ついにイタリアかぁ……。なんか、お腹痛くなってきたぁ……」
「大丈夫っすか?オレ!薬いくつか持ってんで!どれか飲みますか!?」
「獄寺~オレ酔い止めもらっていい?」
「テメーはすっこんでろ野球バカ!」
後ろから聞こえてきたうるさい声に眉を顰める。
何故奴らがいるのか。
……同じように着いてきている跳ね馬同様、オレらの監視として、とは聞いているが、不快極まりない。
大声で話すからうるせぇし、内容は下らねぇし、この状況をわかってるのかもどうなのか、はしゃぎまくってて見るに耐えねぇ。
これのどこが監視だ。
ぶっ潰してやりてぇ。
だがそんなことをすれば、不利益を被るのはオレだと、わかっている。
結局、こうして堪えるしかない。
舌打ちを一つ落とし、窓を見た。
着陸をするため、低空を飛ぶ飛行機からは、コンクリートやら無機質な建物やら、灰色の景色が見えるばかりで殺風景だ。
スクアーロに会いたい。
こんな景色を眺めている暇があるのなら、あのばか騒ぎを聞いている時間があるのなら、早く、一刻も早く、あいつの無事を確認したい。
飛行機が無事着陸し、停止したのを確認したオレは、真っ先に立ちあがり出口へ向かう。
ボンゴレまでは車を呼んであるらしい。
空港を出てすぐに乗り込み、目的地へと急ぐ。
はやく、はやく。
「あ、あの」
迎えに来た男……そういえばヴァリアーの隊服を来ている……から、声をかけられて、思わず睨み付ける。
喉をつまらせた男に、見かねたルッスーリアが声をかけた。
「何かしら?」
「あ……その、スクアーロ様は、別の便でお帰りになられるのでしょう、かっ……!っ!?」
漏れ出した殺気に、男の顔からはいっそ面白いくらいたらたらと汗が噴き出し止まらなくなる。
ちらりと幹部達を見れば、申し訳なさそうな顔で見返された。
……報せてなかった、のか。
「……スクアーロは、しばらく帰れねぇ。テメーは黙って、オレ達をボンゴレまで運べ」
「っ……はい!」
掠れて上擦った声が返ってきて、ようやく気分が収まった。
はやく、はやく。
ボンゴレまではあと10分ほどである。
* * *
ボンゴレに予想外の客が来たという報せは、瞬く間に邸の中を駆け巡り、関係のある者もない者も、皆がそわそわとして落ち着かない。
自分もまた、早足に応接室へと向かっていた。
自分に連絡が届いたのは、守護者の中で一番最後だった。
もう既に、他の者達は集まっているだろう。
今回の謀反で、自分の立場が非常に悪いものとなっていることは確かだ。
他の守護者も、不信感を抱いているものは多い。
頼むから暴れてくれるなよ、と、招かれざる客に念を飛ばすが、彼がその激情のままに暴れまわる様子が容易に思い浮かぶ以上、戦闘を避けるのは難しいかもしれない。
ようやく見えた目的の部屋へ、ドアを乱暴に叩きながら勢いよく飛び込む。
しかしそこにいたのは、予想より遥かに大人しく椅子にふんぞり返るXANXUSと、彼を苦々しげな顔で遠巻きに睨み付ける同胞達であった。
「ちゃおっス。待ってたぞ、コヨーテ」
「……リボーン、それに10代目候補者達に、ヴァリアーが、一体ボンゴレ本部に何の用があって来た?」
「わかるだろ」
「……スクアーロのこと、だな?」
当たり前だとばかりに睨まれ、ため息を吐いた。
彼の後ろを見れば、部下ばかりでなく、敵であったはずの綱吉君達までもが真剣な顔でこちらを見ていて、その真っ直ぐな瞳の輝きに、視線をそらす。
彼らのさらに後ろには、跳ね馬ディーノが控えていた。
「ディーノ、君が彼らを監視していたんじゃなかったのか?」
「オレも少し、納得できないことがありましたから」
「事の顛末を、話したのか?」
「……いいえ、その事は、まだ」
ぴくりとXANXUSの眉が吊り上がる。
どういうことだと責めるような視線を受けて、ディーノが肩を竦める。
話そうにも、きっと話しようが無かったのだろう。
XANXUSはきっと、この結末を受け入れようとはしないはずだ。
胸がずんと重くなる。
同僚からは、お前が話せとでもいうような無言の圧力を感じる。
ああ、ちくしょう、気が重たい。
何と切り出せばいいのか……。
悩んだ末に、オレはXANXUSに向かって言葉をおとした。
「殺したよ」
「…………は?」
「スクアーロは、殺した。必要な情報を吐かせて、オレが殺した。遺体はもう燃やしている。わざわざ足を運んでもらって悪いが、奴はもういない。帰ってくれ」
「……うそ、だろ?しし、だって、あんな殺したって死にそうにない奴、死んだなんて、そんなわけ、ねーじゃん。うしし、冗談きついぜオッサン」
「ベルフェゴール、スクアーロは確かに死んだ。確かに、心臓が止まったのを確認した。もう戻っちゃ来ねぇんだよ」
「だって!」
「なんであんたが殺した!?あんたは全部知ってただろう!あんたは、奴を生かすと、だから、何も言わずに見送ったのに……!」
「レヴィ、これは奴の望んだ結末だ。奴が死んで、それですべてが終わり。おめでとう。晴れてお前達は、ヴァリアーは生き残る。これから先も、存在し続ける」
「そん、な……だが……そんなこと……」
誰もが言葉を失った。
顔を青くする少年達と、それ以上に血の気を失ったベルや、レヴィの姿。
マーモンやルッスーリアは、この結末をどこか予想していたのだろうが、俯いて顔を手で覆ったり、深く息を吐き出したり、落胆した様子は隠せなかった。
「コヨーテさん、オレは確かにその話を聞いてた」
「ディーノ……。ならば何故、こいつらに知らせなかった?」
少年達の後ろで、スクアーロの結末を黙って聞いていたディーノの言葉に、表情が固まるのを感じた。
この男は、外見こそ今時の若者らしくて軽そうに見えるが、その実非常に聡明で、勘の鋭い男だ。
どうにも、油断はできなさそうだな。
「貴方はスクアーロを他の幹部に会わせるより前に、勝手に殺したらしいな。何故だ?それならあの場で殺したって良かった。わざわざイタリアまで連れ帰る必要だってなかったんじゃないのか?」
「奴の所業を詳しく聞き出す必要があった。それが終わったから殺しただけさ。まあ、確かに他の守護者達にも面会させるべきだった、かも知れないな」
「貴方はスクアーロがどんな扱いを受けていたかも知っていたはずだ。アイツが、何のためにこんな裏切りをしたかも、貴方には察しがついたんじゃないのか?」
「……奴がボンゴレの若衆に睨まれてたことなら知っている。それが今回のクーデターに繋がったと?オレになら止められたとでも?」
「そういうことじゃ……!」
「もう十分話は聞けただろう。我々だって暇ではない。お前達のお陰で、ボスもしばらく入院だ。帰れ」
「待ってください!オレ達まだ……」
「帰りなさい綱吉君。学校を放り出して、こんなところにまで来ることじゃない」
「ちょっと!まだ話はっ」
「お帰りだ。ご案内しろ」
これ以上は、話していられない。
情報はできる限り与えたくなかった。
それはヴァリアーの奴らだけでなく、同僚達にも。
そろそろ、帰らねばならない頃合いか。
残していた仕事を幾つか鞄に突っ込み、コートを羽織って屋敷を出る。
「……追ってきた、か」
ミラーに映る黒塗りの車に、目を細めた。
部屋を出る前、最後に見たXANXUSは、まだその目に宿す光を失っていなかった。
ある意味、予想していた展開ではある。
さて、どうするか。
何も言ってこない同僚達は、うまく気付かずにいてくれているようだが、超直感にも似た何かを持つXANXUSや、正統後継者である綱吉君が騙しきれないことは、覚悟していた。
「撒きましょうか」
「……いや、良い。このまま帰るぞ」
「はい」
このままあの家に帰れば、彼らはそれを見ることになる。
どのような結果になるのかは、自分にもわからない。
それでも、せめて変化を、何か、何でも良いから、進展を。
何も知らずに、この結末を受け入れてほしい気持ちもある。
だが、このままで終わるなんて、悲しすぎると思ってしまう自分もいて。
祈るような気持ちを抱えて、シートへと背を沈めた。
いやに明るい声に揺り動かされて瞼を開ける。
いつの間に寝ていたのか、何だか不愉快な夢を見ていたような気がする。
「ボス~、シートベルトを締めてちょうだいね~♡」
「……ちっ」
もだもだと体を起こして、腰にベルトを締める。
飛行機は嫌いだ。
なんでこんな鉄の塊が空を飛んでるのかさっぱりわからねぇし、そもそも他人と同じ空間を強制されるし。
しかし今回ばかりはわがままも言っていられない。
スクアーロがイタリアにいる。
イタリアで、きっと死ぬ気でいる。
遅くなれば、もう二度と会えないかもしれない。
手の中のノートに視線を送る。
あいつの狙いは、突き詰めてみれば単純だった。
全ての罪を自らが被って死ぬ。
その為に悪役を演じて、その為に策を弄して、最後は自身のボスをも裏切り、ボンゴレをひっかき回した主犯として、今この時も、殺されるのを待っている。
……狂ってる。
そんなことを考えることも、実行に移すことも、とても正気には思えない。
だが、なぜそうなるまで気が付けなかったのかという自責の念よりも、今のオレは怒りの方が強く覚える。
そんなにオレ達が信用ならなかったか。
話もしねぇで勝手に決めやがって、挙げ句、芝居でもオレを裏切りやがった。
絶対に許さねぇし、必ず一発殴ってやる。
でもそこまでおかしくなったのには、苦しい事がたくさんあったのだろう。
労ってやれば、少しは、喜んでくれるだろうか。
「ついにイタリアかぁ……。なんか、お腹痛くなってきたぁ……」
「大丈夫っすか?オレ!薬いくつか持ってんで!どれか飲みますか!?」
「獄寺~オレ酔い止めもらっていい?」
「テメーはすっこんでろ野球バカ!」
後ろから聞こえてきたうるさい声に眉を顰める。
何故奴らがいるのか。
……同じように着いてきている跳ね馬同様、オレらの監視として、とは聞いているが、不快極まりない。
大声で話すからうるせぇし、内容は下らねぇし、この状況をわかってるのかもどうなのか、はしゃぎまくってて見るに耐えねぇ。
これのどこが監視だ。
ぶっ潰してやりてぇ。
だがそんなことをすれば、不利益を被るのはオレだと、わかっている。
結局、こうして堪えるしかない。
舌打ちを一つ落とし、窓を見た。
着陸をするため、低空を飛ぶ飛行機からは、コンクリートやら無機質な建物やら、灰色の景色が見えるばかりで殺風景だ。
スクアーロに会いたい。
こんな景色を眺めている暇があるのなら、あのばか騒ぎを聞いている時間があるのなら、早く、一刻も早く、あいつの無事を確認したい。
飛行機が無事着陸し、停止したのを確認したオレは、真っ先に立ちあがり出口へ向かう。
ボンゴレまでは車を呼んであるらしい。
空港を出てすぐに乗り込み、目的地へと急ぐ。
はやく、はやく。
「あ、あの」
迎えに来た男……そういえばヴァリアーの隊服を来ている……から、声をかけられて、思わず睨み付ける。
喉をつまらせた男に、見かねたルッスーリアが声をかけた。
「何かしら?」
「あ……その、スクアーロ様は、別の便でお帰りになられるのでしょう、かっ……!っ!?」
漏れ出した殺気に、男の顔からはいっそ面白いくらいたらたらと汗が噴き出し止まらなくなる。
ちらりと幹部達を見れば、申し訳なさそうな顔で見返された。
……報せてなかった、のか。
「……スクアーロは、しばらく帰れねぇ。テメーは黙って、オレ達をボンゴレまで運べ」
「っ……はい!」
掠れて上擦った声が返ってきて、ようやく気分が収まった。
はやく、はやく。
ボンゴレまではあと10分ほどである。
* * *
ボンゴレに予想外の客が来たという報せは、瞬く間に邸の中を駆け巡り、関係のある者もない者も、皆がそわそわとして落ち着かない。
自分もまた、早足に応接室へと向かっていた。
自分に連絡が届いたのは、守護者の中で一番最後だった。
もう既に、他の者達は集まっているだろう。
今回の謀反で、自分の立場が非常に悪いものとなっていることは確かだ。
他の守護者も、不信感を抱いているものは多い。
頼むから暴れてくれるなよ、と、招かれざる客に念を飛ばすが、彼がその激情のままに暴れまわる様子が容易に思い浮かぶ以上、戦闘を避けるのは難しいかもしれない。
ようやく見えた目的の部屋へ、ドアを乱暴に叩きながら勢いよく飛び込む。
しかしそこにいたのは、予想より遥かに大人しく椅子にふんぞり返るXANXUSと、彼を苦々しげな顔で遠巻きに睨み付ける同胞達であった。
「ちゃおっス。待ってたぞ、コヨーテ」
「……リボーン、それに10代目候補者達に、ヴァリアーが、一体ボンゴレ本部に何の用があって来た?」
「わかるだろ」
「……スクアーロのこと、だな?」
当たり前だとばかりに睨まれ、ため息を吐いた。
彼の後ろを見れば、部下ばかりでなく、敵であったはずの綱吉君達までもが真剣な顔でこちらを見ていて、その真っ直ぐな瞳の輝きに、視線をそらす。
彼らのさらに後ろには、跳ね馬ディーノが控えていた。
「ディーノ、君が彼らを監視していたんじゃなかったのか?」
「オレも少し、納得できないことがありましたから」
「事の顛末を、話したのか?」
「……いいえ、その事は、まだ」
ぴくりとXANXUSの眉が吊り上がる。
どういうことだと責めるような視線を受けて、ディーノが肩を竦める。
話そうにも、きっと話しようが無かったのだろう。
XANXUSはきっと、この結末を受け入れようとはしないはずだ。
胸がずんと重くなる。
同僚からは、お前が話せとでもいうような無言の圧力を感じる。
ああ、ちくしょう、気が重たい。
何と切り出せばいいのか……。
悩んだ末に、オレはXANXUSに向かって言葉をおとした。
「殺したよ」
「…………は?」
「スクアーロは、殺した。必要な情報を吐かせて、オレが殺した。遺体はもう燃やしている。わざわざ足を運んでもらって悪いが、奴はもういない。帰ってくれ」
「……うそ、だろ?しし、だって、あんな殺したって死にそうにない奴、死んだなんて、そんなわけ、ねーじゃん。うしし、冗談きついぜオッサン」
「ベルフェゴール、スクアーロは確かに死んだ。確かに、心臓が止まったのを確認した。もう戻っちゃ来ねぇんだよ」
「だって!」
「なんであんたが殺した!?あんたは全部知ってただろう!あんたは、奴を生かすと、だから、何も言わずに見送ったのに……!」
「レヴィ、これは奴の望んだ結末だ。奴が死んで、それですべてが終わり。おめでとう。晴れてお前達は、ヴァリアーは生き残る。これから先も、存在し続ける」
「そん、な……だが……そんなこと……」
誰もが言葉を失った。
顔を青くする少年達と、それ以上に血の気を失ったベルや、レヴィの姿。
マーモンやルッスーリアは、この結末をどこか予想していたのだろうが、俯いて顔を手で覆ったり、深く息を吐き出したり、落胆した様子は隠せなかった。
「コヨーテさん、オレは確かにその話を聞いてた」
「ディーノ……。ならば何故、こいつらに知らせなかった?」
少年達の後ろで、スクアーロの結末を黙って聞いていたディーノの言葉に、表情が固まるのを感じた。
この男は、外見こそ今時の若者らしくて軽そうに見えるが、その実非常に聡明で、勘の鋭い男だ。
どうにも、油断はできなさそうだな。
「貴方はスクアーロを他の幹部に会わせるより前に、勝手に殺したらしいな。何故だ?それならあの場で殺したって良かった。わざわざイタリアまで連れ帰る必要だってなかったんじゃないのか?」
「奴の所業を詳しく聞き出す必要があった。それが終わったから殺しただけさ。まあ、確かに他の守護者達にも面会させるべきだった、かも知れないな」
「貴方はスクアーロがどんな扱いを受けていたかも知っていたはずだ。アイツが、何のためにこんな裏切りをしたかも、貴方には察しがついたんじゃないのか?」
「……奴がボンゴレの若衆に睨まれてたことなら知っている。それが今回のクーデターに繋がったと?オレになら止められたとでも?」
「そういうことじゃ……!」
「もう十分話は聞けただろう。我々だって暇ではない。お前達のお陰で、ボスもしばらく入院だ。帰れ」
「待ってください!オレ達まだ……」
「帰りなさい綱吉君。学校を放り出して、こんなところにまで来ることじゃない」
「ちょっと!まだ話はっ」
「お帰りだ。ご案内しろ」
これ以上は、話していられない。
情報はできる限り与えたくなかった。
それはヴァリアーの奴らだけでなく、同僚達にも。
そろそろ、帰らねばならない頃合いか。
残していた仕事を幾つか鞄に突っ込み、コートを羽織って屋敷を出る。
「……追ってきた、か」
ミラーに映る黒塗りの車に、目を細めた。
部屋を出る前、最後に見たXANXUSは、まだその目に宿す光を失っていなかった。
ある意味、予想していた展開ではある。
さて、どうするか。
何も言ってこない同僚達は、うまく気付かずにいてくれているようだが、超直感にも似た何かを持つXANXUSや、正統後継者である綱吉君が騙しきれないことは、覚悟していた。
「撒きましょうか」
「……いや、良い。このまま帰るぞ」
「はい」
このままあの家に帰れば、彼らはそれを見ることになる。
どのような結果になるのかは、自分にもわからない。
それでも、せめて変化を、何か、何でも良いから、進展を。
何も知らずに、この結末を受け入れてほしい気持ちもある。
だが、このままで終わるなんて、悲しすぎると思ってしまう自分もいて。
祈るような気持ちを抱えて、シートへと背を沈めた。