朱と交われば
痛みは、なかった。
代わりに感じたのは、生臭い液体が顔に掛かる感触。
「う"……がっ……」
呻き声が聞こえる。
重たい瞼を必死にこじ開けて見たのは、肩から血を流すスクアーロの姿だった。
その手にあった拳銃は、既に地面に落ちてしまっている。
撃たれた、のか?
いったい誰に……。
「て、めぇ……なんで、ここに……」
「……門外顧問からのSOSをキャッチしてな。ギリギリ、間に合ったらしい」
スクアーロの問い掛けに、重々しく答える声があった。
その声には聞き覚えがある。
「ちゃおっス、コヨーテ。まさかここでお前が来るとはな」
「ああ……オレもまさかという気分さ、リボーン」
コヨーテ・ヌガー、現9代目嵐の守護者が、何故ここにいるのだ?
いや、それよりも……。
「スクアーロ!」
沢田の悲鳴みてぇな情けねぇ声と、オレの隣にアイツが倒れた重たい音。
何とか首を動かすと、酷く疲れきった様子のスクアーロがいた。
「カスザメ」
オレの呼び掛けに、スクアーロは力なく微笑みを浮かべていた。
「arrivederci, e spero la tua felicità.」
小さな声だった。
今にも死にそうな、か弱い声だった。
切れ切れに聞こえた言葉に、思考が止まり掛ける。
どう言うことだ。
何を言ってるんだ。
わからねぇよ、いつもみたくでけぇ声で話せよ。
だがどれも言葉に出来なくて、……その瞬間オレは、無性に泣きたくなった。
「カスザメ……、死ぬ、な」
唯一口にできた言葉は、それだけだった。
瞼が、あの透き通った銀色の双眸を覆い隠す。
地面を這うように、手を伸ばした。
可笑しな話だ。
さっきまでは、指も、足も、まるで神経が通っていないかのように動作を拒否していたのに。
胸の奥で、焦燥感が燃え上がり、チリチリと身を焦がすようだ。
漸く手が届く。
触れた頬は氷のように冷たい。
死ぬのか、そんな、お前が、スクアーロが死ぬわけが……。
「スク、アーロ」
「っ……」
「死ぬな」
「むちゃ、いうな……」
目は開けなかったが、確かに口が動いて、そして呂律の回らない舌が言葉を繋ぐ。
まだ、まだ助かる。
裏切りなんて嘘なんだ。
こいつはまだ、オレの傍に、ずっと、これから先、いつまでも、傍に……。
「XANXUS……、お前はまだ助かる。すぐに病院へ。スクアーロ、お前はボンゴレに運ぶ。何をしでかしたのか、全て吐いてもらうぞ」
「っ……」
視界から、彼女の姿が消えた。
腕を掴まれて、引きずられていく。
「待っ……!」
「動かずに大人しく待ってろ。直に担架が来る」
「ふざけ……、んなこと、言ってんじゃ、ねぇ!」
「おい、こいつをアジトまで運べ」
「待、て……、待ちやがれ!」
「ボ、ボス!あまり動かれては……!」
「黙れ……!」
追い掛けなければ。
ここでアイツを捕まえなければ……。
「っ!ボス!」
「ぅ……」
目の前が黒く染まる。
血を流しすぎたのだと、すぐに気が付いた。
それでも、アイツを追い掛けようと足に力を込めた。
ぷしっと、傷口から血が噴き出した。
限界は疾うに過ぎて、死の瀬戸際に程近くある体だったが、それでも、例えそんな状態でも。
手を伸ばしたその瞬間、微かに触れたものを掴む。
「スクアーロっ……!」
返事はなかった。
掴んだものは、あいつが脱ぎ捨てていった隊服の裾だった。
「XANXUS様、あなたにリングが適正か協議する必要があります」
チェルベッロの機械みてぇな声が、そう言ったのが聞こえた。
オレの意識は、そこで途絶えた。
代わりに感じたのは、生臭い液体が顔に掛かる感触。
「う"……がっ……」
呻き声が聞こえる。
重たい瞼を必死にこじ開けて見たのは、肩から血を流すスクアーロの姿だった。
その手にあった拳銃は、既に地面に落ちてしまっている。
撃たれた、のか?
いったい誰に……。
「て、めぇ……なんで、ここに……」
「……門外顧問からのSOSをキャッチしてな。ギリギリ、間に合ったらしい」
スクアーロの問い掛けに、重々しく答える声があった。
その声には聞き覚えがある。
「ちゃおっス、コヨーテ。まさかここでお前が来るとはな」
「ああ……オレもまさかという気分さ、リボーン」
コヨーテ・ヌガー、現9代目嵐の守護者が、何故ここにいるのだ?
いや、それよりも……。
「スクアーロ!」
沢田の悲鳴みてぇな情けねぇ声と、オレの隣にアイツが倒れた重たい音。
何とか首を動かすと、酷く疲れきった様子のスクアーロがいた。
「カスザメ」
オレの呼び掛けに、スクアーロは力なく微笑みを浮かべていた。
「arrivederci, e spero la tua felicità.」
小さな声だった。
今にも死にそうな、か弱い声だった。
切れ切れに聞こえた言葉に、思考が止まり掛ける。
どう言うことだ。
何を言ってるんだ。
わからねぇよ、いつもみたくでけぇ声で話せよ。
だがどれも言葉に出来なくて、……その瞬間オレは、無性に泣きたくなった。
「カスザメ……、死ぬ、な」
唯一口にできた言葉は、それだけだった。
瞼が、あの透き通った銀色の双眸を覆い隠す。
地面を這うように、手を伸ばした。
可笑しな話だ。
さっきまでは、指も、足も、まるで神経が通っていないかのように動作を拒否していたのに。
胸の奥で、焦燥感が燃え上がり、チリチリと身を焦がすようだ。
漸く手が届く。
触れた頬は氷のように冷たい。
死ぬのか、そんな、お前が、スクアーロが死ぬわけが……。
「スク、アーロ」
「っ……」
「死ぬな」
「むちゃ、いうな……」
目は開けなかったが、確かに口が動いて、そして呂律の回らない舌が言葉を繋ぐ。
まだ、まだ助かる。
裏切りなんて嘘なんだ。
こいつはまだ、オレの傍に、ずっと、これから先、いつまでも、傍に……。
「XANXUS……、お前はまだ助かる。すぐに病院へ。スクアーロ、お前はボンゴレに運ぶ。何をしでかしたのか、全て吐いてもらうぞ」
「っ……」
視界から、彼女の姿が消えた。
腕を掴まれて、引きずられていく。
「待っ……!」
「動かずに大人しく待ってろ。直に担架が来る」
「ふざけ……、んなこと、言ってんじゃ、ねぇ!」
「おい、こいつをアジトまで運べ」
「待、て……、待ちやがれ!」
「ボ、ボス!あまり動かれては……!」
「黙れ……!」
追い掛けなければ。
ここでアイツを捕まえなければ……。
「っ!ボス!」
「ぅ……」
目の前が黒く染まる。
血を流しすぎたのだと、すぐに気が付いた。
それでも、アイツを追い掛けようと足に力を込めた。
ぷしっと、傷口から血が噴き出した。
限界は疾うに過ぎて、死の瀬戸際に程近くある体だったが、それでも、例えそんな状態でも。
手を伸ばしたその瞬間、微かに触れたものを掴む。
「スクアーロっ……!」
返事はなかった。
掴んだものは、あいつが脱ぎ捨てていった隊服の裾だった。
「XANXUS様、あなたにリングが適正か協議する必要があります」
チェルベッロの機械みてぇな声が、そう言ったのが聞こえた。
オレの意識は、そこで途絶えた。