朱と交われば
レヴィの馬鹿が、爆弾小僧に倒された。
ベルも、自慢の技のトリックを見破られて、敵の守護者から逃げていく。
クソ、どいつもこいつも、役に立たないカスどもが。
苛立ちがどんどんと増していく。
それに伴って、炎の出力が上がってきた。
沢田の動きが遅く感じる。
実際には、オレのスピードが上がっているのだが。
「おいおい、嘘だろ?もう精一杯か?」
吐き捨てるように呟いて、双銃を構えた。
銃口から噴き出す炎が、大小、無数の爆発となって敵へと迸る。
逃げ場などはない。
攻撃は直撃だった。
……が、どうやら奴の装備はオレとの闘いの為に強化していたらしい。
地面に墜落したものの、思っていた以上にダメージは少なかったようだ。
グラウンドに立ち、オレを見上げた野郎の肩は激しく上下しており、息が上がっているのがここからでもハッキリとわかった。
チラリと腕のモニターに視線を移す。
切り替わる画像の中の幾つかが、砂嵐に変わっている。
……カスザメの仕業か?
リングを集めている最中と言うことだろうか。
まあ良い、アイツのことだ。
上手くやっていることだろう。
グラウンドに視線を移す。
沢田は、自棄にでもなったのか、大量の炎を放出し初めていた。
見たことのない構え。
何を考えている?
何をしでかそうとしているのだ?
突然、奴の額に灯る炎が、不規則に揺れ始めた。
炎のノッキング……これは、あの時と同じ……。
ジジィがゼロ地点突破を行ったときと同じ現象……!?
「死ぬ気の、零地点突破!!」
思わず口を突いて出た言葉に、アルコバレーノ・リボーンが反応していたようだった。
だがその姿を確認する暇も惜しい。
「させねえ!」
立っていた屋上を勢いよく蹴って飛び降りる。
野郎の頭上から蹴りをお見舞いしようとしたが、それは避けられる。
だが逃がすわけにはいかねえ。
飛び上がって避けたガキの顎に、振り上げた拳と銃をぶつける。
バランスを崩したガキの背後に回り、その腹を撃ち抜くように、憤怒の炎をぶっぱなした。
それでもなお、ガキは再び炎を揺らめかせる。
させるか、させるわけがあるか!
あんな技、させて堪るか……!
「消えろ‼」
頭上から、炎の雨を降らせる。
奴に避ける余裕などなかった。
直撃。
モニターにはしばらくの間、ノイズが映るばかりだったが、砂煙が晴れ始めると、次第に映像が回復してきた。
炎で抉れた地面に、額から炎を消したガキが、ぼろ雑巾のようになって横たわっている。
「ふっ、死んだか……。バカなカスめ。てめーの死期をてめーで早めやがった。くだらねーサルマネしやがって」
そう、あんなものはサルマネだ。
見ろ、この無様な姿を。
こんなガキに、零地点突破など出来るわけがなかろう。
……オレも、日和ったか。
横たわり、身動きひとつしないガキを見て、鼻を鳴らす。
「ふっふっふっ、よく考えりゃ、カスごときにできるわきゃねーのにな……。カスはカスらしく、灰にしてやる」
掌に炎を集める。
なんだ、結局は、カスザメが戻るより早く片が付きそうだな。
とっとと終わりにして、イタリアに帰ろう。
こいつを灰にしたら、全てが終わるのだ。
灯した炎を胸の前に掲げた。
その時、信じがたい光景が映る。
メラリと、傷だらけの額に、小さな炎が灯っている。
そんな馬鹿なことが……。
炎は消え、気力は尽き、今にも殺されるはずのガキが、なぜまた、その額に炎を灯す!?
小さかった炎が、瞬く間に拡大する。
体から噴き出すように燃え広がり、その勢いに奴の体が浮き上がった。
「なに!?」
奴は、完全に覚醒して、オレの目の前へと立ちふさがっていた。
零地点突破?
まさか、それとは違う。
だが、観覧席にいたアルコバレーノはこれを零地点突破だと抜かしやがった。
死ぬ気をマイナスにして、炎を吸収、中和するだ?
「それが、初代が使ったという、死ぬ気の零地点突破か」
「そうだ」
返ってきたのは、嘘偽りのない愚直なまでの視線と言葉だった。
漏れる笑い声が抑えきれない。
オレが考えるだけ無駄だったらしい。
こんなポンコツ技を零地点突破と呼んでいるとは。
滑稽にもほどがある。
いやむしろ、こんなものはボンゴレを侮辱していると言っても良い。
「ぶっはっはっは!こいつぁケッサクだぁ!!!」
「!?」
驚くほどのことか?
零地点突破はボンゴレの奥義だ。
歴代のボスが、代々受け継いできた超高等技術で、必殺の業。
使い手が酷いダメージを受ける、こいつのやったようなチャチな技のわけがあるか。
「終わりだカス!灰になるまで撃ち込んでやるぞ」
奴の持ってきた切り札は潰えた。
幸運にも先程の攻撃では死ななかったが、そんなものはただ、死ぬ瞬間がほんの少し長引いただけにすぎねえ。
……なのに、何故だ?
なぜ奴は……
「しっかり狙えよ」
「なに?」
なぜ奴の目は……
「次はうまくやってみせる」
今なお、輝きを失わずにいるんだ……。
「零地点突破・改」
* * *
レヴィ・ア・タンはダイナマイトの直撃を受けて戦闘不能。
ベルフェゴールは雲雀恭也に技を見切られ撤退、体育館へ向かった、か。
大まかには予想通りに動いている。
雲雀恭也は既にダメージを受けすぎている。
手を出す必要もないだろう。
雨、晴の守護者どもにも、手は打ってある。
残った奴らは、恐らく皆、体育館へ集まる。
そこで潰せば、後はボス同士の戦いを見守るだけだ。
チャリと、手の中のリングが音を立てる。
もう少し、後少し。
ようやく全てが終わるのだ。
「……やっと……やっと終わる」
胸の奥に、込み上げてくるものがある。
熱く、泥々として、激しく胸を焦がす、溶岩のような感情。
微笑みを一つ残して、その場を立ち去った。
* * *
「どういう、ことだ!?」
晴の守護者戦が行われた場所へ、ほうほうの体で辿り着いた獄寺の口から漏れたのは、酷く困惑した様子の言葉だった。
そして同時刻、雨の守護者戦が行われた校舎へ辿り着いたヒバリもまた、困惑していた。
「これは……なんだ……?」
彼らの前に広がっていたのは、俄には信じられない光景だった。
リングを掲げていた筈の鉄塔の脚は切り裂かれ、ぐねりと地面へ倒れ込んでいる。
しかし塔の天辺にあった筈のリングは、どこにもない。
そしてその場にいた守護者達は、近くの建物やら、柱やらへと縛り付けられていた。
獄寺は慌てて駆け寄り、了平の肩を揺する。
「おい!生きてっか!?」
「うっ……」
呻き声が聞こえて胸を撫で下ろした。
チラリと振り返り、ルッスーリアの方も確認するが、どうやら生きてはいるらしい。
同様に、ヒバリも山本の生存を確認していた。
「リングがない……。死なれたら困るんだけど」
「ぐっ……解毒、は出来てる、と思うのな……」
「?」
柱にがんじがらめに縛り付けられた山本が、苦しそうに話す。
熱さはない。
ただ、よくない体勢が続いて苦しいだけ。
「いったい何があったんだ?……よく見りゃカメラも壊されてんじゃねーか」
「オレにもわからん……。気が付くと解毒され、こうして縛り付けられていたのだ」
そう言う了平の腕は、少しでも動けば細いワイヤーが食い込み、皮膚が切れそうになる。
ベルフェゴールの使うワイヤーを思い出し、舌打ちをする。
物騒な顔をした獄寺に、了平は更に言葉を続けた。
「だが犯人はわかる。声が聞こえたのだ」
「な……誰だ!?」
「あれは……」
『そこで見ていろぉ、全てが終わる、その瞬間をなぁ……』
「あの声は……」
「「スペルビ・スクアーロ!」」
その名を聞いて、二人は目を見開く。
彼は確か、剣士だったはず……。
いや、考えてみれば雨戦の時にはナイフを使っていたが、ワイヤーまで使いこなすなど初耳だ。
「アイツがなに考えてんのかはわかんねーけど、でもたぶん、何かメチャクチャやべーこと考えてんのな」
「何故奴がオレ達を殺さずに、しかも解毒までして去っていったのかはわからん。わからんが……極限嫌な予感がする……!」
その言葉に、獄寺の米神を冷や汗が伝った。
初めて見た時から、どこか嫌な感じのする男ではあった。
だが今日は特に、その意図が読めない。
ヒバリは一瞬顔をしかめた後、トンファーを振るって、山本武を縛り付ける糸を切断した。
「これ以上校内で問題を起こされるのは困るよ」
「……なら、すぐにでもスクアーロを見付けねーとな」
「うるさい、僕は僕で勝手に動く」
「あはは、やっぱりそっかー」
「……この指輪はいらない、君にあげるよ」
「うわ!っと……」
フラフラとその場を去ろうとするヒバリから、指輪を投げ渡される。
それを何とか受け取り、山本もまた、ふらつく脚を叱咤して立ち上がった。
「とりあえず、他の奴らを探さねーとだな」
中庭の辺りからは、絶えず爆発音や破壊音が響いている。
ツナとXANXUSの勝負は、まだ続いているらしい。
苦戦しているようだが、山本がそちらに向かうことはなかった。
自分達のボスは、必ず勝つ。
建物を出た彼は、校庭の方向へと走り出した。
刃物を持たなかった獄寺は、了平のワイヤーを切ることが出来ず、一先ずそのまま彼を置いて他のメンバーの無事を確かめるべく、走り出していた。
夜空が、不気味な赤に照らし出されている。
「10代目……」
彼の呟きは、夜風に拐われて消えていった。
大空の守護者戦、佳境。
夜闇に紛れて、事態は誰もが予想し得なかった方向へと、転がり始めていた。
ベルも、自慢の技のトリックを見破られて、敵の守護者から逃げていく。
クソ、どいつもこいつも、役に立たないカスどもが。
苛立ちがどんどんと増していく。
それに伴って、炎の出力が上がってきた。
沢田の動きが遅く感じる。
実際には、オレのスピードが上がっているのだが。
「おいおい、嘘だろ?もう精一杯か?」
吐き捨てるように呟いて、双銃を構えた。
銃口から噴き出す炎が、大小、無数の爆発となって敵へと迸る。
逃げ場などはない。
攻撃は直撃だった。
……が、どうやら奴の装備はオレとの闘いの為に強化していたらしい。
地面に墜落したものの、思っていた以上にダメージは少なかったようだ。
グラウンドに立ち、オレを見上げた野郎の肩は激しく上下しており、息が上がっているのがここからでもハッキリとわかった。
チラリと腕のモニターに視線を移す。
切り替わる画像の中の幾つかが、砂嵐に変わっている。
……カスザメの仕業か?
リングを集めている最中と言うことだろうか。
まあ良い、アイツのことだ。
上手くやっていることだろう。
グラウンドに視線を移す。
沢田は、自棄にでもなったのか、大量の炎を放出し初めていた。
見たことのない構え。
何を考えている?
何をしでかそうとしているのだ?
突然、奴の額に灯る炎が、不規則に揺れ始めた。
炎のノッキング……これは、あの時と同じ……。
ジジィがゼロ地点突破を行ったときと同じ現象……!?
「死ぬ気の、零地点突破!!」
思わず口を突いて出た言葉に、アルコバレーノ・リボーンが反応していたようだった。
だがその姿を確認する暇も惜しい。
「させねえ!」
立っていた屋上を勢いよく蹴って飛び降りる。
野郎の頭上から蹴りをお見舞いしようとしたが、それは避けられる。
だが逃がすわけにはいかねえ。
飛び上がって避けたガキの顎に、振り上げた拳と銃をぶつける。
バランスを崩したガキの背後に回り、その腹を撃ち抜くように、憤怒の炎をぶっぱなした。
それでもなお、ガキは再び炎を揺らめかせる。
させるか、させるわけがあるか!
あんな技、させて堪るか……!
「消えろ‼」
頭上から、炎の雨を降らせる。
奴に避ける余裕などなかった。
直撃。
モニターにはしばらくの間、ノイズが映るばかりだったが、砂煙が晴れ始めると、次第に映像が回復してきた。
炎で抉れた地面に、額から炎を消したガキが、ぼろ雑巾のようになって横たわっている。
「ふっ、死んだか……。バカなカスめ。てめーの死期をてめーで早めやがった。くだらねーサルマネしやがって」
そう、あんなものはサルマネだ。
見ろ、この無様な姿を。
こんなガキに、零地点突破など出来るわけがなかろう。
……オレも、日和ったか。
横たわり、身動きひとつしないガキを見て、鼻を鳴らす。
「ふっふっふっ、よく考えりゃ、カスごときにできるわきゃねーのにな……。カスはカスらしく、灰にしてやる」
掌に炎を集める。
なんだ、結局は、カスザメが戻るより早く片が付きそうだな。
とっとと終わりにして、イタリアに帰ろう。
こいつを灰にしたら、全てが終わるのだ。
灯した炎を胸の前に掲げた。
その時、信じがたい光景が映る。
メラリと、傷だらけの額に、小さな炎が灯っている。
そんな馬鹿なことが……。
炎は消え、気力は尽き、今にも殺されるはずのガキが、なぜまた、その額に炎を灯す!?
小さかった炎が、瞬く間に拡大する。
体から噴き出すように燃え広がり、その勢いに奴の体が浮き上がった。
「なに!?」
奴は、完全に覚醒して、オレの目の前へと立ちふさがっていた。
零地点突破?
まさか、それとは違う。
だが、観覧席にいたアルコバレーノはこれを零地点突破だと抜かしやがった。
死ぬ気をマイナスにして、炎を吸収、中和するだ?
「それが、初代が使ったという、死ぬ気の零地点突破か」
「そうだ」
返ってきたのは、嘘偽りのない愚直なまでの視線と言葉だった。
漏れる笑い声が抑えきれない。
オレが考えるだけ無駄だったらしい。
こんなポンコツ技を零地点突破と呼んでいるとは。
滑稽にもほどがある。
いやむしろ、こんなものはボンゴレを侮辱していると言っても良い。
「ぶっはっはっは!こいつぁケッサクだぁ!!!」
「!?」
驚くほどのことか?
零地点突破はボンゴレの奥義だ。
歴代のボスが、代々受け継いできた超高等技術で、必殺の業。
使い手が酷いダメージを受ける、こいつのやったようなチャチな技のわけがあるか。
「終わりだカス!灰になるまで撃ち込んでやるぞ」
奴の持ってきた切り札は潰えた。
幸運にも先程の攻撃では死ななかったが、そんなものはただ、死ぬ瞬間がほんの少し長引いただけにすぎねえ。
……なのに、何故だ?
なぜ奴は……
「しっかり狙えよ」
「なに?」
なぜ奴の目は……
「次はうまくやってみせる」
今なお、輝きを失わずにいるんだ……。
「零地点突破・改」
* * *
レヴィ・ア・タンはダイナマイトの直撃を受けて戦闘不能。
ベルフェゴールは雲雀恭也に技を見切られ撤退、体育館へ向かった、か。
大まかには予想通りに動いている。
雲雀恭也は既にダメージを受けすぎている。
手を出す必要もないだろう。
雨、晴の守護者どもにも、手は打ってある。
残った奴らは、恐らく皆、体育館へ集まる。
そこで潰せば、後はボス同士の戦いを見守るだけだ。
チャリと、手の中のリングが音を立てる。
もう少し、後少し。
ようやく全てが終わるのだ。
「……やっと……やっと終わる」
胸の奥に、込み上げてくるものがある。
熱く、泥々として、激しく胸を焦がす、溶岩のような感情。
微笑みを一つ残して、その場を立ち去った。
* * *
「どういう、ことだ!?」
晴の守護者戦が行われた場所へ、ほうほうの体で辿り着いた獄寺の口から漏れたのは、酷く困惑した様子の言葉だった。
そして同時刻、雨の守護者戦が行われた校舎へ辿り着いたヒバリもまた、困惑していた。
「これは……なんだ……?」
彼らの前に広がっていたのは、俄には信じられない光景だった。
リングを掲げていた筈の鉄塔の脚は切り裂かれ、ぐねりと地面へ倒れ込んでいる。
しかし塔の天辺にあった筈のリングは、どこにもない。
そしてその場にいた守護者達は、近くの建物やら、柱やらへと縛り付けられていた。
獄寺は慌てて駆け寄り、了平の肩を揺する。
「おい!生きてっか!?」
「うっ……」
呻き声が聞こえて胸を撫で下ろした。
チラリと振り返り、ルッスーリアの方も確認するが、どうやら生きてはいるらしい。
同様に、ヒバリも山本の生存を確認していた。
「リングがない……。死なれたら困るんだけど」
「ぐっ……解毒、は出来てる、と思うのな……」
「?」
柱にがんじがらめに縛り付けられた山本が、苦しそうに話す。
熱さはない。
ただ、よくない体勢が続いて苦しいだけ。
「いったい何があったんだ?……よく見りゃカメラも壊されてんじゃねーか」
「オレにもわからん……。気が付くと解毒され、こうして縛り付けられていたのだ」
そう言う了平の腕は、少しでも動けば細いワイヤーが食い込み、皮膚が切れそうになる。
ベルフェゴールの使うワイヤーを思い出し、舌打ちをする。
物騒な顔をした獄寺に、了平は更に言葉を続けた。
「だが犯人はわかる。声が聞こえたのだ」
「な……誰だ!?」
「あれは……」
『そこで見ていろぉ、全てが終わる、その瞬間をなぁ……』
「あの声は……」
「「スペルビ・スクアーロ!」」
その名を聞いて、二人は目を見開く。
彼は確か、剣士だったはず……。
いや、考えてみれば雨戦の時にはナイフを使っていたが、ワイヤーまで使いこなすなど初耳だ。
「アイツがなに考えてんのかはわかんねーけど、でもたぶん、何かメチャクチャやべーこと考えてんのな」
「何故奴がオレ達を殺さずに、しかも解毒までして去っていったのかはわからん。わからんが……極限嫌な予感がする……!」
その言葉に、獄寺の米神を冷や汗が伝った。
初めて見た時から、どこか嫌な感じのする男ではあった。
だが今日は特に、その意図が読めない。
ヒバリは一瞬顔をしかめた後、トンファーを振るって、山本武を縛り付ける糸を切断した。
「これ以上校内で問題を起こされるのは困るよ」
「……なら、すぐにでもスクアーロを見付けねーとな」
「うるさい、僕は僕で勝手に動く」
「あはは、やっぱりそっかー」
「……この指輪はいらない、君にあげるよ」
「うわ!っと……」
フラフラとその場を去ろうとするヒバリから、指輪を投げ渡される。
それを何とか受け取り、山本もまた、ふらつく脚を叱咤して立ち上がった。
「とりあえず、他の奴らを探さねーとだな」
中庭の辺りからは、絶えず爆発音や破壊音が響いている。
ツナとXANXUSの勝負は、まだ続いているらしい。
苦戦しているようだが、山本がそちらに向かうことはなかった。
自分達のボスは、必ず勝つ。
建物を出た彼は、校庭の方向へと走り出した。
刃物を持たなかった獄寺は、了平のワイヤーを切ることが出来ず、一先ずそのまま彼を置いて他のメンバーの無事を確かめるべく、走り出していた。
夜空が、不気味な赤に照らし出されている。
「10代目……」
彼の呟きは、夜風に拐われて消えていった。
大空の守護者戦、佳境。
夜闇に紛れて、事態は誰もが予想し得なかった方向へと、転がり始めていた。