朱と交われば
「ん?なんだ?」
リボーンの言葉に、戦闘の観覧者達が首を傾げた。
彼の視線は、校舎に投影されたモニターに向いている。
幾つかの地点の映像が写し出されたそこには、1つだけ、砂嵐が写されている。
「?」
チェルベッロの一人がリモコンを操作する。
一面に砂嵐が写し出された。
「これは……雨の守護者達を映すモニター、ですか」
「雨の……山本達か」
「なんで映像が映らないんだコラ!」
「……どうやらカメラの故障のようです」
砂嵐が消え、再び綱吉とXANXUSが映し出された。
睨み合う二人。
戦いが始まってすぐに、校舎の一部を風化させたXANXUSの炎は、綱吉が強くなったとはいえ、危険であることに変わりはない。
皆が戦いに息を飲み見入る中、ディーノだけが僅かに俯き、眉間にシワを寄せていた。
「……どうしたディーノ?」
「え?……ああ、いや」
遥か下の位置から飛んできた、鋭い視線と、可愛らしい声。
リボーンの問い掛けに、ディーノはなんでもないと首を横に振った。
「スクアーロの動きが見えなくなったのが、少し気になっただけだ」
「なるほど、確かに気になるな。だが、今のオレ達には何も出来ねー。黙って、ツナ達が何とかするように祈るしかねーな」
「……そうだな」
死ぬ気の炎の噴射で、校舎の壁に垂直に立っていたツナが、その炎を一瞬止め、地面へと一直線に落ちていく。
またすぐに灯された炎が、彼の体をXANXUSの元へと押し流していく。
真っ正面からぶつかる気なのか。
ツナの炎と、XANXUSの炎がぶつかり合う。
爆風が広がり、観覧席にまで届いた。
* * *
舌打ちをした。
手の中で黒く光る銃を構える。
あの小さいガキに、素手同士の勝負で競り負けたことも、奴相手に武器を取り出さざるを得なかったことも、全てがオレを苛立たせている。
「カスごときに武器をとるとはな……」
あのチビの長所は、小柄な体と、炎のコントロール力を生かした起動の早さ、そして貫通力。
だがそんなものは、この銃があればオレにも可能だ。
奴の攻撃を避けることも、こちらから奴の防御力を上回る攻撃を加えることだって。
奴よりも高く飛び上がり攻撃したとき、何故か奴はおかしな避け方をした。
攻撃が奴を掠めて、そのまま体育館にぶち当たる。
……そう言えばあそこには、マーモンと向こうの霧の守護者がいたか。
それを気にしてあんな避け方を?
とても、マフィアのボスの戦い方とは思えない。
だがこいつは、守護者が傷つけられるのを酷く嫌っていた。
守護者を守って、どうなる。
本末転倒だ。
何より、あんな奴らを守ってどうなる。
「ほざいていたな、守護者は誰も死なせんと。それで貴様は、何を得た」
「?」
本当の意味でのオレの守護者は、たった一人だけだった。
それも、この程度でオレに助けを求めるような軟弱者ではない。
他の奴らなど、幾らでもすげ替えの効く駒でしかない。
オレの炎に魅せられ寄ってきた、特大の虫。
「オレは、部下が死のうがどーでもいいが、見ろ」
「!」
見えるのは、聞こえるのは、死にたくない一心で、オレの慈悲を願う、無様な姿ばかりだ。
オレの役に立つのならばともかく、負けて尚、救いを求めるなど、滑稽に他ならない。
だが、この声こそが、オレの、ボンゴレ10代目後継者の、資質だと言うのであれば、オレはそれに答えよう。
「ふははは!これこそが大空だ‼」
呵々大笑。
オレは大口を開けて笑い声を吐き出した。
呆気に取られた様子のガキを前に、銃口から憤怒の炎を噴出させる。
「施しだ‼」
炎は真っ直ぐに、嵐と雷のポールへと向かい、その台座を破壊してリングを転がした。
これで、ベルとレヴィは自由になる。
カスザメの奴は、声が聞こえなかった辺り、既に解毒し、別の守護者を片付けてでもいるのだろう。
「ふっはっは、どーしたもどき。このやり方は想定外だったか?」
「……」
「お前もやりたきゃ、グローブでも投げつけろ‼ぶっははははは‼」
近接戦闘型のガキに、出来るものならばやってみるがいい。
このまま、オレの守護者どもが全敵を殺し、リングを持ち帰って、全ては終わる。
焦って守護者どもの元へ向かおうとするガキに、銃を向けて足留めをした。
そう簡単に向かわせるわけがないだろう。
だが、不意に覚えのある声がモニターから響き、瞠目した。
この声は、そしてモニターに写るその姿は。
向こうの雲の守護者、ヒバリ、とか言う奴……?
一体なぜ、奴が動いているんだ。
クラウンフィールドがあった場所へと目を向ける。
そこには、骨組みを大きく歪ませ、倒れた鉄塔があった。
あのガキ……自分で解毒を……?
毒に耐性があるわけでもないのに、なんて滅茶苦茶な奴だ……。
しかも、ベルの持っていたリングを撥ね飛ばして、相手の嵐の守護者を助けている。
……なぜ、こうも思い通りに進まない。
カスザメは、どこに行った?
何をしている。
苛立ちのままに、焦りの消えた後継者もどきを睨んだ。
* * *
ベルと雲雀恭弥の交戦は、ベルが自主的に退くことで、一旦の収拾を見せた。
逃走していくベルと、その場に取り残された雲雀を眼下に収めながら、オレは軽く息を吐き出して、目を閉じる。
急に毒を射たれ、急いで解毒したものの、どうやらまだ回復しきってはいないらしい。
くらくらと揺らぐ視界に、瞼をグッと閉じて堪える。
注意深く敵味方の気配を窺いながら、思考を働かせる。
さて、どう動くか。
ちろりと唇から舌を覗かせた。
空気が熱い。
あの二人の戦いのせいか。
二人に注意が向いている内は、こちらも動きやすい。
慎重に、慎重に動かなくては。
自分の働き如何で、事の結末が決まる。
「さて、どう動くか……」
再びの自問。
さて、さて。
目を薄く開き、少し考えてから動き始めた。
向かったのは、晴れの守護者達がいるグラウンドであった。
リボーンの言葉に、戦闘の観覧者達が首を傾げた。
彼の視線は、校舎に投影されたモニターに向いている。
幾つかの地点の映像が写し出されたそこには、1つだけ、砂嵐が写されている。
「?」
チェルベッロの一人がリモコンを操作する。
一面に砂嵐が写し出された。
「これは……雨の守護者達を映すモニター、ですか」
「雨の……山本達か」
「なんで映像が映らないんだコラ!」
「……どうやらカメラの故障のようです」
砂嵐が消え、再び綱吉とXANXUSが映し出された。
睨み合う二人。
戦いが始まってすぐに、校舎の一部を風化させたXANXUSの炎は、綱吉が強くなったとはいえ、危険であることに変わりはない。
皆が戦いに息を飲み見入る中、ディーノだけが僅かに俯き、眉間にシワを寄せていた。
「……どうしたディーノ?」
「え?……ああ、いや」
遥か下の位置から飛んできた、鋭い視線と、可愛らしい声。
リボーンの問い掛けに、ディーノはなんでもないと首を横に振った。
「スクアーロの動きが見えなくなったのが、少し気になっただけだ」
「なるほど、確かに気になるな。だが、今のオレ達には何も出来ねー。黙って、ツナ達が何とかするように祈るしかねーな」
「……そうだな」
死ぬ気の炎の噴射で、校舎の壁に垂直に立っていたツナが、その炎を一瞬止め、地面へと一直線に落ちていく。
またすぐに灯された炎が、彼の体をXANXUSの元へと押し流していく。
真っ正面からぶつかる気なのか。
ツナの炎と、XANXUSの炎がぶつかり合う。
爆風が広がり、観覧席にまで届いた。
* * *
舌打ちをした。
手の中で黒く光る銃を構える。
あの小さいガキに、素手同士の勝負で競り負けたことも、奴相手に武器を取り出さざるを得なかったことも、全てがオレを苛立たせている。
「カスごときに武器をとるとはな……」
あのチビの長所は、小柄な体と、炎のコントロール力を生かした起動の早さ、そして貫通力。
だがそんなものは、この銃があればオレにも可能だ。
奴の攻撃を避けることも、こちらから奴の防御力を上回る攻撃を加えることだって。
奴よりも高く飛び上がり攻撃したとき、何故か奴はおかしな避け方をした。
攻撃が奴を掠めて、そのまま体育館にぶち当たる。
……そう言えばあそこには、マーモンと向こうの霧の守護者がいたか。
それを気にしてあんな避け方を?
とても、マフィアのボスの戦い方とは思えない。
だがこいつは、守護者が傷つけられるのを酷く嫌っていた。
守護者を守って、どうなる。
本末転倒だ。
何より、あんな奴らを守ってどうなる。
「ほざいていたな、守護者は誰も死なせんと。それで貴様は、何を得た」
「?」
本当の意味でのオレの守護者は、たった一人だけだった。
それも、この程度でオレに助けを求めるような軟弱者ではない。
他の奴らなど、幾らでもすげ替えの効く駒でしかない。
オレの炎に魅せられ寄ってきた、特大の虫。
「オレは、部下が死のうがどーでもいいが、見ろ」
「!」
見えるのは、聞こえるのは、死にたくない一心で、オレの慈悲を願う、無様な姿ばかりだ。
オレの役に立つのならばともかく、負けて尚、救いを求めるなど、滑稽に他ならない。
だが、この声こそが、オレの、ボンゴレ10代目後継者の、資質だと言うのであれば、オレはそれに答えよう。
「ふははは!これこそが大空だ‼」
呵々大笑。
オレは大口を開けて笑い声を吐き出した。
呆気に取られた様子のガキを前に、銃口から憤怒の炎を噴出させる。
「施しだ‼」
炎は真っ直ぐに、嵐と雷のポールへと向かい、その台座を破壊してリングを転がした。
これで、ベルとレヴィは自由になる。
カスザメの奴は、声が聞こえなかった辺り、既に解毒し、別の守護者を片付けてでもいるのだろう。
「ふっはっは、どーしたもどき。このやり方は想定外だったか?」
「……」
「お前もやりたきゃ、グローブでも投げつけろ‼ぶっははははは‼」
近接戦闘型のガキに、出来るものならばやってみるがいい。
このまま、オレの守護者どもが全敵を殺し、リングを持ち帰って、全ては終わる。
焦って守護者どもの元へ向かおうとするガキに、銃を向けて足留めをした。
そう簡単に向かわせるわけがないだろう。
だが、不意に覚えのある声がモニターから響き、瞠目した。
この声は、そしてモニターに写るその姿は。
向こうの雲の守護者、ヒバリ、とか言う奴……?
一体なぜ、奴が動いているんだ。
クラウンフィールドがあった場所へと目を向ける。
そこには、骨組みを大きく歪ませ、倒れた鉄塔があった。
あのガキ……自分で解毒を……?
毒に耐性があるわけでもないのに、なんて滅茶苦茶な奴だ……。
しかも、ベルの持っていたリングを撥ね飛ばして、相手の嵐の守護者を助けている。
……なぜ、こうも思い通りに進まない。
カスザメは、どこに行った?
何をしている。
苛立ちのままに、焦りの消えた後継者もどきを睨んだ。
* * *
ベルと雲雀恭弥の交戦は、ベルが自主的に退くことで、一旦の収拾を見せた。
逃走していくベルと、その場に取り残された雲雀を眼下に収めながら、オレは軽く息を吐き出して、目を閉じる。
急に毒を射たれ、急いで解毒したものの、どうやらまだ回復しきってはいないらしい。
くらくらと揺らぐ視界に、瞼をグッと閉じて堪える。
注意深く敵味方の気配を窺いながら、思考を働かせる。
さて、どう動くか。
ちろりと唇から舌を覗かせた。
空気が熱い。
あの二人の戦いのせいか。
二人に注意が向いている内は、こちらも動きやすい。
慎重に、慎重に動かなくては。
自分の働き如何で、事の結末が決まる。
「さて、どう動くか……」
再びの自問。
さて、さて。
目を薄く開き、少し考えてから動き始めた。
向かったのは、晴れの守護者達がいるグラウンドであった。