朱と交われば

※注意※
ぼやかしてはいますが若干R18な表現があります。
抱く=抱き枕にする、と思って読んでください。







あいつはまるで犬のようだ。
カスザメなんて呼んじゃいるが、オレを見掛ける度に尻尾を振って、跳ねるように近付いてくる。

「ザンザス!ザンザス!」

今日もまた、嬉しそうに駆け寄ってくる。
オレはそれを、無言のままグラスを投げ付けて遠ざけた。

「っぶねぇ、何すんだよ!」
「うるせぇ、喚くな」

紙一重でグラスを避けたカスは、オレが嫌そうな顔をしていることにも構わずに、机の上に数枚の書類を置いた。

「これだけ片してくれよ。そしたら今日の仕事は終わりだぁ」
「……なに?」

ヴァリアーはボンゴレの最大戦力だ。
暗殺をメインに、重要人物の護衛や、情報収集、果ては接待までこなす、ボンゴレで最も忙しい組織。
もちろん、片付ける書類だって山程ある。
しかし、オレがヴァリアーボスの座についてからこっち、予想していたような量の書類が来たことは、一度もない。
毎回来るのは、どうしたってオレが処理しなければ終わらないような重要書類のみで、その量はとても少ない。

「……少ねぇな」
「そうかぁ?こんなもんだろ、仕事なんて」
「……」

カスザメはそう言うが、きっと違う。
日ごとに濃くなっていく、奴の顔から窺える疲労の色。
オレに書類が来る前に、こいつが殆ど処理しちまってるんじゃねぇのか。
ただでさえ死ぬほど多い書類の山に任務。
それをたかだか14のガキが、一人でこなしているなんて言うのは、奴の主であるオレのプライドにも触る。

「カスザメ、そこのソファーに座って待ってろ。オレの仕事が終わったら酒の用意をしろ」
「え?……まあ、良いけど」

あんだけ疲れてんなら、すぐに寝ちまうだろう。
あとは、放っておけば良い。
そうすりゃ少しは回復する。
酒は別に気分じゃねぇし、オレも仕事が終われば、適当に過ごしてりゃ良い。
気が向けば、他の書類を片してやったって良い。
いつもよりもゆっくりと仕事を進め、それが終わった頃には、カスザメはソファーに蹲るような格好で、ぐうぐうと寝こけていた。
書類はそいつの前に置き、オレは部屋を出ようとドアを開ける。

「あ~、XANXUS様ぁ!」

部屋を出てすぐに、甘ったるい声に呼び止められた。
女の声だ。
聞き覚えはない。

「あのぉ、お部屋の掃除をさせていただきたいんですけどぉ……」
「誰だ、てめぇは」
「あ、あのあの、私新しく入ったメイドの一人でぇ……」

確かに、ヴァリアー付きのメイドの制服を着た女は、チラチラと上目遣いでオレを見上げては、甘ったるい声で話続けている。
すぐにオレは理解する。
部屋の掃除なんてものは建前だ。
こいつが求めているのは、もっと別のこと。

「……部屋に来い。遊んでやる」
「え!?あ、あのぉ私別にそんなつもりでぇ……」
「ぐだぐだ言うな、来い」
「あ……はい♥」

女は満足そうに頷いた。
躊躇う仕草も、恥ずかしがる姿も、全てが計算のうちで、そうしてまでも、こいつはオレを……いや、ボンゴレとの交わりを求めている。
別に嫌とは思わない。
どうだって良い。
ただ、こんなあからさまな態度の人間と、あのカスが同じ女だと思うと、おかしな気分になる。

「あら?あれってぇ……」
「来い」
「でも……」
「黙って来い」

ソファーの前を通った。
眠り続けるカスザメに、女は気付いたようだったが、有無を言わさずに、ベッドルームに連れ込む。
いつもするのと変わらずに、オレはその女を抱いた。


 * * *


追い出すようにして、女を部屋から出す。
顔も、スタイルも悪くない。
相性だって良い方だった。
そのはずなのに、今日は何故だか、とてもつまらなく感じた。
女を抱いている最中も、気付くと隣の部屋にいる奴のことを考えていた。
下着とパンツだけ身につけて、まだソファーで寝ていたカスザメに忍び寄る。
規則正しい寝息と、無邪気な寝顔。
騒音で起こしてはいなかったようだ。
カスの前にしゃがみ、細く柔らかな髪を、一房手に取る。
その時、指が頬に触れた。

「ん……ザン、ザス……?」

瞼が持ち上がり、濃い銀色の瞳がオレを捉える。
寝惚けているのか、目を細めて、オレの手にすり寄る姿は、本当に動物のようだ。
頬に当てた手を首に移動させ、普段はハイネックで隠されている白い首筋をなぞる。

「ん……ふへ、くすぐってぇ……」

身をよじって逃れようとする姿に、徐々に自分が高揚してくるのがわかる。
無邪気で無垢で、純粋で。
そんな奴を汚してやりたい、壊してしまいたい。
もう片方の手で太股をなぞると、カスザメはむずかるように眉間にシワを寄せ、そしてパッと目を開いた。

「んぁ……なに、ザンザス?あ"、てめっ!また服着てねぇじゃねぇかぁ!」
「……カスが」
「『カスが』じゃねぇだろうが!風邪引いたらどうすんだって前にも言っただろぉ!」
「ふん」

良いところだったのに、と落胆する気持ちと、ここで終わって良かったと、安心する気持ち。
ない交ぜになったそれを悟られたくなくて、立ち上がって背を向けようとした。
だがカスザメがオレの腕を捕まえることで、それは果たされずに終わる。

「お、おいお前……怪我してんのかぁ?」
「ああ?」
「だって、それ……」

カスザメが指したのは、オレの胸元。
見れば、赤くキスマークが残されていた。

「痛いか?虫刺されかなぁ……。今塗り薬持ってきてやるから待ってろよぉ」
「あ、おい……」

オレの言葉を聞くよりも早く、カスザメは駆け出していく。
キスマークもわからないのか……いや、奴の境遇を考えれば、そっち方面の知識が足りないのには納得がいかないでもないが。
まさかここまでとは。
純粋無垢というよりは、無知と言った方が正しいかもしれない。
膨らんでいた気持ちが、しおしおと萎えていく。
あの気持ちの高まりはきっと、何かの間違い……そう、気の迷いだったのだろう。
手当と言って、絆創膏を張ろうとするカスザメを追い出して、オレは自分で服を着た。
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