朱と交われば
雲の守護者を競う勝負、当然いるだろうと考えていた敵の大将であるあのガキは、何故か決戦の場にはいなかった。
レヴィが茶化すように、逃げ出したのだと口にすれば、相手は堂々とした調子で、彼は来る必要がないのだと反論する。
作戦には……恐らく、支障はないだろう。
いつも自分が従い続けてきた、……ブラッドオブボンゴレの超直感とは異なる、言うならば野生の勘、のようなものが、心配は必要ないと告げていた。
今日も、カスザメはオレのすぐ後ろに控えて、何かあろうものならば、すぐにでも対処できるようにその薄い気配を尖らせている。
「……あいつ、強いな」
その口から、ぼそりと落とされた言葉に、内心頷いた。
相手の守護者を見ての言であろう。
まだ未熟で、まるで経験が足りていないようではあるが、あれは天性の狂戦士(バーサーカー)だ。
戦いのために生きるように、死などスリルの代償だとでも言うように、奴はモスカなどまるで目にも止めず、このオレのことをギラギラと睨み付けていた。
こんな、生温い世界に生きていることが、勿体ないと感じるほどの、才能と狂気が、その切れ長の瞳の奥に宿っている。
「手は出すなよ、ドカス」
「……わかってる」
雲の守護者戦におけるフィールドの説明が始まった。
自分にはろくに関係ないことなので、ほとんど聞き流す。
黒光りする機関銃も、地面に埋め込まれた地雷も、自分の生きてきた世界では、何度も目にして、慣れてしまった玩具でしかない。
モスカが蒸気を上げながらフィールドに降り立つ。
向こうの守護者も、位置についた。
チェルベッロの合図。
直後、勝負はあまりにも呆気なく、その幕を閉じた。
聞くに耐えない醜い破壊音を立てて、モスカの体が崩れ落ちる。
これには流石の幹部達も、目を見開き固まっていた。
あのスクアーロでさえもだ。
しかも、モスカを壊した当の本人は、手に入れたリングをいらないと口にしながらチェルベッロに下げ渡している。
あまりにも予想外で、あまりにもお粗末な決着。
オレとしてはざまあねぇ、という程度のことだし、モスカが暴れるための条件は上手い具合に揃っている。
「さあ、おりておいでよ、そこの座っている君。サル山のボス猿を咬み殺さないと、帰れないな」
にったりと崩れる表情を止める術はない。
これでこの戦いは、お互いに三勝三敗。
今夜はここで区切って、それぞれの住み処に帰らねばならないはずだが、予めカスザメに聞いていた通り、このヒバリというガキは、異常なまでに好戦的な野郎のようだ。
緩む頬を押さえもせず、オレは徐に立ち上がり、地面を蹴った。
高く跳躍し、降りた先はヒバリの頭上だ。
当たり前のように攻撃は防がれ、オレは地雷まみれの地面に着地する。
『脚が滑った』と表情を変えずに言えば、相手からは『だろうね』という言葉が返ってくる。足元から聞こえた地雷爆破の警告音に回避で答える。
安全な地面に落ち着くよりも先に、オレは続く言葉を吐き出した。
「そのガラクタを回収しにきただけだ」
観覧席にいるカスザメ達は手を出しては来ない。
カスザメは言いつけを守っているのだろうし、他の奴らもカスザメが動かなければ動かないだろう。
チラリと後ろを振り向き、確認していたオレに、激しい殺気がぶつかってきた。
「そういう顔には見えないよ」
そんなことを宣いながら、ヒバリはその手に掴んだトンファーを振るう。
こちらから手を出す気はねぇ。
オレ達は表面上はルールを守った上で、奴らを卑怯に殺す必要がある。
激しい攻撃を、反撃することもせずに避けていく。
レヴィの唸り声がこちらにまで届いてくる。
大方、ルールを守りもせずにオレに攻撃してくるガキに怒っているのだろう。
しかし、それにしても、目の前のガキの才能は確かなようで、徐々にオレの動きに慣れてきたのか、攻撃を避けるのが難しくなってくる。
迫ってくる鉄の塊に、思わず手が出るまで、そう時間は掛からなかった。
「手……出てるよ?」
呻いて、僅かに距離を取る。
オレを追い詰めていくその顔には、しかし笑みはない。
何かしら、勘づいているのかもしれない。
だが、こいつにその何かしらを知る時間はない。
オレは審判の女どもを呼びつけた。
「この一部始終を忘れんな。オレは攻撃をしてねえとな」
「!?」
そろそろ、時間だ。
ヒバリ越しに見えるモスカの目の部分に、光が灯るのが見えた。
惨劇の始まりを予感し、唇が歪んだ笑みを型作っていく。
ヒバリが腕を振り上げた。
その瞬間、始まりの合図を鳴らすかのように、聞き慣れない音が夜を揺らし、闇を光が切り裂いた。
ヒバリの腿から、血飛沫が飛ぶ。
モスカの撃ち出した小型のミサイルが、敵味方関係なく降り注ぐのが見える。
不意を突いた突然の攻撃に、奴らはひどく混乱して、戸惑っている。
待っていた、この惨劇を、ずっと。
「なんてこった」
台本にあった台詞を読み上げていくかのように、棒読みの言葉を垂れ流していく。
「オレは回収しようとしたが、向こうの雲の守護者に阻まれたため、モスカの制御がきかなくなっちまった」
暴走し、誰彼構わず攻撃しまくるモスカは、まるでオレが抱えている怒りに似た何かを、爆発させているようだった。
レヴィが茶化すように、逃げ出したのだと口にすれば、相手は堂々とした調子で、彼は来る必要がないのだと反論する。
作戦には……恐らく、支障はないだろう。
いつも自分が従い続けてきた、……ブラッドオブボンゴレの超直感とは異なる、言うならば野生の勘、のようなものが、心配は必要ないと告げていた。
今日も、カスザメはオレのすぐ後ろに控えて、何かあろうものならば、すぐにでも対処できるようにその薄い気配を尖らせている。
「……あいつ、強いな」
その口から、ぼそりと落とされた言葉に、内心頷いた。
相手の守護者を見ての言であろう。
まだ未熟で、まるで経験が足りていないようではあるが、あれは天性の狂戦士(バーサーカー)だ。
戦いのために生きるように、死などスリルの代償だとでも言うように、奴はモスカなどまるで目にも止めず、このオレのことをギラギラと睨み付けていた。
こんな、生温い世界に生きていることが、勿体ないと感じるほどの、才能と狂気が、その切れ長の瞳の奥に宿っている。
「手は出すなよ、ドカス」
「……わかってる」
雲の守護者戦におけるフィールドの説明が始まった。
自分にはろくに関係ないことなので、ほとんど聞き流す。
黒光りする機関銃も、地面に埋め込まれた地雷も、自分の生きてきた世界では、何度も目にして、慣れてしまった玩具でしかない。
モスカが蒸気を上げながらフィールドに降り立つ。
向こうの守護者も、位置についた。
チェルベッロの合図。
直後、勝負はあまりにも呆気なく、その幕を閉じた。
聞くに耐えない醜い破壊音を立てて、モスカの体が崩れ落ちる。
これには流石の幹部達も、目を見開き固まっていた。
あのスクアーロでさえもだ。
しかも、モスカを壊した当の本人は、手に入れたリングをいらないと口にしながらチェルベッロに下げ渡している。
あまりにも予想外で、あまりにもお粗末な決着。
オレとしてはざまあねぇ、という程度のことだし、モスカが暴れるための条件は上手い具合に揃っている。
「さあ、おりておいでよ、そこの座っている君。サル山のボス猿を咬み殺さないと、帰れないな」
にったりと崩れる表情を止める術はない。
これでこの戦いは、お互いに三勝三敗。
今夜はここで区切って、それぞれの住み処に帰らねばならないはずだが、予めカスザメに聞いていた通り、このヒバリというガキは、異常なまでに好戦的な野郎のようだ。
緩む頬を押さえもせず、オレは徐に立ち上がり、地面を蹴った。
高く跳躍し、降りた先はヒバリの頭上だ。
当たり前のように攻撃は防がれ、オレは地雷まみれの地面に着地する。
『脚が滑った』と表情を変えずに言えば、相手からは『だろうね』という言葉が返ってくる。足元から聞こえた地雷爆破の警告音に回避で答える。
安全な地面に落ち着くよりも先に、オレは続く言葉を吐き出した。
「そのガラクタを回収しにきただけだ」
観覧席にいるカスザメ達は手を出しては来ない。
カスザメは言いつけを守っているのだろうし、他の奴らもカスザメが動かなければ動かないだろう。
チラリと後ろを振り向き、確認していたオレに、激しい殺気がぶつかってきた。
「そういう顔には見えないよ」
そんなことを宣いながら、ヒバリはその手に掴んだトンファーを振るう。
こちらから手を出す気はねぇ。
オレ達は表面上はルールを守った上で、奴らを卑怯に殺す必要がある。
激しい攻撃を、反撃することもせずに避けていく。
レヴィの唸り声がこちらにまで届いてくる。
大方、ルールを守りもせずにオレに攻撃してくるガキに怒っているのだろう。
しかし、それにしても、目の前のガキの才能は確かなようで、徐々にオレの動きに慣れてきたのか、攻撃を避けるのが難しくなってくる。
迫ってくる鉄の塊に、思わず手が出るまで、そう時間は掛からなかった。
「手……出てるよ?」
呻いて、僅かに距離を取る。
オレを追い詰めていくその顔には、しかし笑みはない。
何かしら、勘づいているのかもしれない。
だが、こいつにその何かしらを知る時間はない。
オレは審判の女どもを呼びつけた。
「この一部始終を忘れんな。オレは攻撃をしてねえとな」
「!?」
そろそろ、時間だ。
ヒバリ越しに見えるモスカの目の部分に、光が灯るのが見えた。
惨劇の始まりを予感し、唇が歪んだ笑みを型作っていく。
ヒバリが腕を振り上げた。
その瞬間、始まりの合図を鳴らすかのように、聞き慣れない音が夜を揺らし、闇を光が切り裂いた。
ヒバリの腿から、血飛沫が飛ぶ。
モスカの撃ち出した小型のミサイルが、敵味方関係なく降り注ぐのが見える。
不意を突いた突然の攻撃に、奴らはひどく混乱して、戸惑っている。
待っていた、この惨劇を、ずっと。
「なんてこった」
台本にあった台詞を読み上げていくかのように、棒読みの言葉を垂れ流していく。
「オレは回収しようとしたが、向こうの雲の守護者に阻まれたため、モスカの制御がきかなくなっちまった」
暴走し、誰彼構わず攻撃しまくるモスカは、まるでオレが抱えている怒りに似た何かを、爆発させているようだった。