ボンゴレ的クリスマス!?

「折角のクリスマスなんだからちょっと特別な物が良いよなぁ!
この『インフェルノ・ペッパーウォッカ』とかどうだ!?」
「……オレはそこの『デュカスタン・ファーザーズボトル』とか良いと思うぞ。」
「ザンザスがんなだせーもん飲むわけねーだろアホ馬ぁ!」

『インフェルノ(以下略』とはウォッカに唐辛子を2本漬けた酒である。
『デュカスタン(以下略』とは哺乳瓶に入ったブランデーである。
どちらも色物の酒だが、XANXUSならば間違いなく『インフ(以下略』を選ぶだろう。
嬉しそうに酒を選ぶスクアーロとは真逆に、ディーノは悟りでも開いたのかというような無表情である。
クリスマスデートだと楽しみにしていたのに、蓋を開けてみれば他人のクリスマスプレゼントの買い出しだったわけだから、当たり前の反応であろう。

「この酒屋なんでこんな色物ばっか売ってるんだ……。」

八つ当たり気味に冷たい目で並んだ商品を見るディーノを余所に、スクアーロは買うものを決めたのか、レジで会計を終えて戻ってきた。
綺麗にラッピングされた酒瓶を抱えて、至極ご満悦の様子である。

「待たせたな。」
「いや大丈夫……」
「次はベル達幹部のプレゼント選びに行こーぜ!」
「…………Perche?」

英語に直すとWhy?。
日本語では何故に?である。
だがディーノの言葉は、ノリノリのスクアーロには届かなかったらしく、哀れ、彼女に腕を掴まれたディーノは、ずりずりと次の店まで引き摺られていったのであった。

「ベルは……チョコだなぁ。
マーモンは新しい財布……、ルッスはブランドもののボディークリームで……、レヴィは……無難にワインとかで良いか。
あとは頑張ってるだろう隊員達に菓子でも買って……。」

XANXUSへのクリスマスプレゼントでは散々悩んでいたのだが、その様子が嘘だったかのようにテキパキとプレゼントを決めていく。
ディーノの持ったカゴに、山盛りに商品を放り込んでいき、最後にマーモンの財布の会計を済ませると、スクアーロは満足そうにふぅっと息を吐いた。

「んじゃあ次の店行こーぜ。」
「まだあるの!?」

既にディーノの腕には大量の荷物。
もちろんスクアーロも幾つか持っているが、重い荷物を彼女に持たせないのは紳士としての嗜みである。
しかし遣る瀬ない面持ちは隠しきれない。
もう少し恋人同士らしい雰囲気のあることは出来ないのだろうか。
ちょっとため息を吐いたディーノに気付いて、スクアーロは道の端に寄った。

「わりぃ、疲れたかぁ?」
「いや、そう言う訳じゃねーよ。」
「……跳ね馬、少しここで待ってろ。」
「へ?」
「直ぐだからな。」

何が直ぐなのか、何も言わずに、ディーノを道の端のベンチに座らせて、スクアーロはどこかに走っていく。
突然の事にポカンと口を開けてその背を見送った彼は、10秒くらいしてからドサリと椅子に座り込んだ。
買い物をしている間に、いつの間にか月は空の天辺にまで昇っていて、周りには楽しそうに歩く親子や恋人達、鮮やかなイルミネーションが賑やかで、自分だけが独りぼっちで取り残されてしまったような錯覚に陥る。
折角のクリスマスだと言うのに、スクアーロは一体どこにいってしまったというのか。
空を見上げて、もう一度ため息を吐いた時、視界に突然、銀色が映った。

「何してんだぁ?」
「うわっ!スクアーロ!?」

いつの間に帰ってきたのだろうか。
ディーノを覗き込むスクアーロの銀髪が、彼の顔にまで垂れて頬を擽る。
驚いて顔を正面に戻したディーノの横で、スクアーロは2つの紙袋を腕に下げていた。

「それは……?」
「ん゙、これか……。」

ディーノの隣に座ったスクアーロは、紙袋の中からコーヒーを取り出す。
1つをディーノに渡して、自分も手で包むようにカップを持った。

「今日、ずっと付き合わせちまったから。
お礼、ってことで。」
「そっか……、ありがとな。」
「ん゙……。」

照れているのか、目を合わせないスクアーロの頭を、手のひらで軽く撫でてやる。
今日1日、デートらしい事は出来なかったが、こういうちょっとしたことで、そんな不満は些細な事に思えてしまう。
自分で言うのも難だが、相当重症らしい。
苦笑を浮かべたディーノの横で、スクアーロはもう1つの紙袋を開けた。

「そっちはなんだ?」
「……その、プレゼント、なんだが。」
「へー……今度は誰の?」
「……お前の。」
「へ?オレの?」

ディーノは再び、ポカンと口を開いてスクアーロを見る。
そんなディーノから目を逸らしたまま、スクアーロは照れるのを誤魔化すように声を張り上げる。

「そ、そのだなぁ!この間見てちょっと良いなって思って!ちょうど良いからテメーに買ってやろうと思ったんだよ!!
あ、ありがたく、受け取れ!」
「あ……ありがたくイタダキマス。」

押し付けるようにして渡された物は、暖かそうなマフラーで、ディーノはモスグリーンのそれを広げて、じっくりと見入る。
柄のほとんど入っていないシンプルなもので、大人っぽいデザイン。
しばらく眺めていると、ディーノは横から強い視線を感じた。
チラリと窺うと、スクアーロが何か言いたげな顔で自分を見詰めていて、その様子に思わず笑みをこぼした。

「スゲー好み。
ありがとな、スクアーロ。」
「……別に、いつも世話になってるし。」
「あ、オレもさ、渡したいのあるんだ。」
「はぁ……?」
「ちょっと目、つぶって。」
「……?」

不思議そうに首を傾げながらも、スクアーロは大人しく目を閉じる。
ディーノは懐に入れていた袋を取り出して、その中身を彼女の首に巻いた。

「開けていーぜ。」
「これ……マフラー?」
「そ。スクアーロに会う前から用意はしてたんだけど……まさか被るとは思わなかったなー。」

彼女の首に巻いたのは、紺色のマフラーで、そのマフラーに埋もれるようになってディーノを見上げたスクアーロは驚いたようにマフラーに触っている。

「プレゼント……?」
「そ、スクアーロにクリスマスプレゼント。
気に入ってもらえたかな?」
「……まあまあ。」
「まあまあかよ。」

まあまあ、と口にはしながらも、満更でもなさそうにマフラーに触れる彼女に、ディーノの顔には笑みが浮かぶ。
まあまあ、と言うのは、彼女なりの最上級の誉め言葉なのだろう。
嬉しそうにマフラーに顔を埋めた彼女の肩を抱き寄せる。

「……跳ね馬?」
「んー、何か、幸せだなーって。」
「んだよソレ。」
「ほら、こう……二人でクリスマス過ごせるし……プレゼント交換したりして、平和だし、幸せだーって。」

普段は、血と硝煙の香る裏社会を生きているからこそ、こんな何気ないことが幸せで堪らない。
隣に、人の温もりを感じることが、とても幸せに思えるのだ。

「やっぱりイベント事って、恋人同士で過ごしたいとか、思うのかぁ?」
「ん?んー……まあ、そうかなー。」
「ふーん……。」

数日前の、綱吉の言葉を思い出す。
特別な日を、大切な人と迎えられる幸せ。
まあ、そんな気持ちもわからないでもないかもしれない。
ディーノの顔を見上げて、スクアーロはぽつっと呟いた。

「……Buon Natale」
「……うん、メリークリス」

途中まで言い掛けたディーノを、風が襲う。
首に巻いたマフラーの端が、べちっと顔に当たって、彼の口から情けない声が出る。

「まふっ!?」
「……ぷっ、ふはは!」

思わず噴き出して笑いながら、マフラーを直してやり、乱れた髪を整えてやる。
スクアーロはディーノの冷えた手に、自分の手を重ねる。

「寒くなってきたし、そろそろ帰るかぁ。」
「そーだな、帰ろうぜ。」

二人は声を揃えて、自分の帰りたい場所を口にした。

「ヴァリアーに。」「キャバッローネに!」

一瞬、沈黙が二人を包む。

「……ヴァリアーに。」
「いや、キャバッローネだ。」
「……。」
「……じゃんけんで決めるか。」

数十分後、二人がヴァリアーの屋敷に入る姿が見られたという。
ヴァリアーの屋敷には、綱吉達の悲鳴と、隊員達の怒声が響いていた。
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