悪夢のハロウィン2014
10月31日。
今日はハロウィンである。
「ハロウィンと言うのは元々はケルト人の魔除けの祭りが起源なのよ。」
「そうなんすかー。」
「だから今あるハロウィンの形はかなりアメリカナイズされてるものなの。」
「そうなんすかー。」
「ハロウィンは悪霊から身を守るための外国の儀式よ?
ハロウィンだからって私達は何か特別イベントを行う必要はないと思うの。
だいたい日本は他宗教のイベントを取り込みすぎなのよ。
何でもかんでもやればいいってもんじゃないわ。」
「そうっすね。
でも、そのパンプキンパイ、作ってきちゃったんすよね?」
「……だって桃井さんが。」
「蛍ちゃーん!
パンプキンパイ作ってきてくれたの!?
ありがとー!」
「あ、噂をすればですね。」
いつも通りの文芸部室、だがその部屋の主である彼女の顔は浮かなかった。
何故か。
理由は簡単である。
諸事情あって知り合った友人、桃井さつきの思惑により、文芸部にてハロウィンプチパーティーが行われる事になったからだ。
彼女は乗り気ではなかった。
イベント事は基本的に好きではない。
見えない誰かに踊らされている気がする、などと言うのが彼女の言い分なのだが、彼女はだいぶ、人間不振気味のように見える。
「わあ、美味しそう!
あ、今日ね、テツくんも来てくれたんだよ!!」
「え」
「こんにちは、僕もお邪魔させてもらいますね。」
「あ、あの……はい、どうぞ?」
「テメー黒子!また来やがったなこんにゃr」
「一ノ瀬君は黙ってて。」
「……きゃうん。」
だが黒子がいるならば話は別だ。
好きな人のためにならば、好きでもないイベントも全力で楽しめる。
そう、それが恋というものなのだ。
恋ってすごい、あんびりばぼー。
「えぇと……みんな紅茶で良いかしら。
コーヒーもあるけれど。」
「紅茶でお願いします。」
「私も紅茶で良いよ!」
「オレは」
「みんな紅茶で良いみたいね。」
「流石蛍さんどんなときもぶれない!
そこに痺れる憧れるぅ!」
当たり前のように一ノ瀬の意見は無視されたのだが、一ノ瀬は特に気にしていない。
むしろ少し嬉しそうである。
目尻に滲む水滴は悲しみの涙ではなく興奮と喜びゆえのモノである。
断じて悲しくなんかないのだ。
「それで……あの、パンプキンパイと少しお菓子も持ってきたの。
良ければ食べて?」
「はい、ありがとうございます。
喜んでいただきますね。」
「オレも!オレも食べたいです!」
彼女は一ノ瀬を無視し続けながら、黒子のためにパイを切り分け思う。
実はこのパイ自信作だったし、自分の手料理を好きな人に食べてもらえるのなら、ハロウィンも悪くはないかもしれない、と。
だがそんな幸せな気持ちは桃井が紙袋から出したものを見た瞬間に消え去った。
「テツくん見て見て!
私もお菓子作ってきたんだよ!」
「……それが、お菓子かしら?」
「うん!カボチャのカップケーキです!」
桃井が紙袋から出したのは、真っ黒な炭の塊……もとい、自称、自称!カボチャのカップケーキであった。
焼きすぎとかそんな問題じゃあない。
そのカップケーキ(仮)からは何故かシュワシュワグォオオという怪音が聞こえてきていたし、何故か紫色の煙が上がっているように見える。
彼女が一度眼鏡を外して布で拭き、もう一度掛けなおす。
だが眼鏡を拭こうが目を擦ろうがそのカップケーキ(偽)は変わらぬ姿でそこにある。
いや、これはもうカップケーキと名乗るべきではない。
魔女の毒菓子とか暗黒物質とか、そんな名前をつけるべきである。
これは人間が食べていいものではない。
そう思いながらも、彼女は念のために桃井に質問した。
「桃井さん、この暗黒物質……じゃなくて、カップケーキ?味見はしたのかしら?」
「忙しくって出来なかったんだ……。
あ、でもたぶん大丈夫だよ!
皆遠慮しないで食べてね!」
ニコニコとそう言った桃井だったが、誰も手をつけようとはしない。
桃井に聞こえない程度の小声で、黒子が呟いた。
「……こ、これは……いや、しかし食べたら意外と美味しいかも知れませんし……。」
「黒子君……血迷っちゃダメよ……!
あれは人間が食べられる物質じゃないわ。
……一ノ瀬君、あなた毒味してくれない。」
「オレまだ死にたくないです!
無理ですよあんなの!」
「食べろ。」
「は……はいぃ。」
彼女は冷酷に命令を下した。
この中で一番リスクが少なそうなのは一ノ瀬である。
体力は人一倍だし胃も頑丈だ。
いざとなったら水を飲ませて吐き出させなければならないため、その準備をしながら一ノ瀬が毒味をするのを二人はハラハラと見守った。
「い、いただきます……!」
一ノ瀬はまるで戦地に向かう兵士のような面持ちでそれを手に持ちながら叫ぶようにそう言う。
そして意を決してその物体を口に放り込んだ、その直後。
「ぐがっ!?あがががくぁwせdrftgyふじこlp」
「水、一ノ瀬君水。」
「一ノ瀬さん、この袋の中に吐いてください。
大丈夫ですよ、死んだりしないはずですからね。」
何となく予想していた事態になって冷静に対処する二人。
そして元凶の桃井は、おかしいなぁ、と首を傾げている。
反省してくれ、頼むから反省してくれ。
「さ、最悪のハロウィンだ……!」
劇薬を食べることとなった、一ノ瀬にとっての悪夢のハロウィンは、こうして過ぎていったのである。
一つ幸運なことと言えば、その日から3日の間は彼女が比較的に優しかったことだろうか。
だが、それはあくまで比較的に、で、その間ずっと腹を壊していた一ノ瀬からすれば、結果は差し引きゼロだった。
今日はハロウィンである。
「ハロウィンと言うのは元々はケルト人の魔除けの祭りが起源なのよ。」
「そうなんすかー。」
「だから今あるハロウィンの形はかなりアメリカナイズされてるものなの。」
「そうなんすかー。」
「ハロウィンは悪霊から身を守るための外国の儀式よ?
ハロウィンだからって私達は何か特別イベントを行う必要はないと思うの。
だいたい日本は他宗教のイベントを取り込みすぎなのよ。
何でもかんでもやればいいってもんじゃないわ。」
「そうっすね。
でも、そのパンプキンパイ、作ってきちゃったんすよね?」
「……だって桃井さんが。」
「蛍ちゃーん!
パンプキンパイ作ってきてくれたの!?
ありがとー!」
「あ、噂をすればですね。」
いつも通りの文芸部室、だがその部屋の主である彼女の顔は浮かなかった。
何故か。
理由は簡単である。
諸事情あって知り合った友人、桃井さつきの思惑により、文芸部にてハロウィンプチパーティーが行われる事になったからだ。
彼女は乗り気ではなかった。
イベント事は基本的に好きではない。
見えない誰かに踊らされている気がする、などと言うのが彼女の言い分なのだが、彼女はだいぶ、人間不振気味のように見える。
「わあ、美味しそう!
あ、今日ね、テツくんも来てくれたんだよ!!」
「え」
「こんにちは、僕もお邪魔させてもらいますね。」
「あ、あの……はい、どうぞ?」
「テメー黒子!また来やがったなこんにゃr」
「一ノ瀬君は黙ってて。」
「……きゃうん。」
だが黒子がいるならば話は別だ。
好きな人のためにならば、好きでもないイベントも全力で楽しめる。
そう、それが恋というものなのだ。
恋ってすごい、あんびりばぼー。
「えぇと……みんな紅茶で良いかしら。
コーヒーもあるけれど。」
「紅茶でお願いします。」
「私も紅茶で良いよ!」
「オレは」
「みんな紅茶で良いみたいね。」
「流石蛍さんどんなときもぶれない!
そこに痺れる憧れるぅ!」
当たり前のように一ノ瀬の意見は無視されたのだが、一ノ瀬は特に気にしていない。
むしろ少し嬉しそうである。
目尻に滲む水滴は悲しみの涙ではなく興奮と喜びゆえのモノである。
断じて悲しくなんかないのだ。
「それで……あの、パンプキンパイと少しお菓子も持ってきたの。
良ければ食べて?」
「はい、ありがとうございます。
喜んでいただきますね。」
「オレも!オレも食べたいです!」
彼女は一ノ瀬を無視し続けながら、黒子のためにパイを切り分け思う。
実はこのパイ自信作だったし、自分の手料理を好きな人に食べてもらえるのなら、ハロウィンも悪くはないかもしれない、と。
だがそんな幸せな気持ちは桃井が紙袋から出したものを見た瞬間に消え去った。
「テツくん見て見て!
私もお菓子作ってきたんだよ!」
「……それが、お菓子かしら?」
「うん!カボチャのカップケーキです!」
桃井が紙袋から出したのは、真っ黒な炭の塊……もとい、自称、自称!カボチャのカップケーキであった。
焼きすぎとかそんな問題じゃあない。
そのカップケーキ(仮)からは何故かシュワシュワグォオオという怪音が聞こえてきていたし、何故か紫色の煙が上がっているように見える。
彼女が一度眼鏡を外して布で拭き、もう一度掛けなおす。
だが眼鏡を拭こうが目を擦ろうがそのカップケーキ(偽)は変わらぬ姿でそこにある。
いや、これはもうカップケーキと名乗るべきではない。
魔女の毒菓子とか暗黒物質とか、そんな名前をつけるべきである。
これは人間が食べていいものではない。
そう思いながらも、彼女は念のために桃井に質問した。
「桃井さん、この暗黒物質……じゃなくて、カップケーキ?味見はしたのかしら?」
「忙しくって出来なかったんだ……。
あ、でもたぶん大丈夫だよ!
皆遠慮しないで食べてね!」
ニコニコとそう言った桃井だったが、誰も手をつけようとはしない。
桃井に聞こえない程度の小声で、黒子が呟いた。
「……こ、これは……いや、しかし食べたら意外と美味しいかも知れませんし……。」
「黒子君……血迷っちゃダメよ……!
あれは人間が食べられる物質じゃないわ。
……一ノ瀬君、あなた毒味してくれない。」
「オレまだ死にたくないです!
無理ですよあんなの!」
「食べろ。」
「は……はいぃ。」
彼女は冷酷に命令を下した。
この中で一番リスクが少なそうなのは一ノ瀬である。
体力は人一倍だし胃も頑丈だ。
いざとなったら水を飲ませて吐き出させなければならないため、その準備をしながら一ノ瀬が毒味をするのを二人はハラハラと見守った。
「い、いただきます……!」
一ノ瀬はまるで戦地に向かう兵士のような面持ちでそれを手に持ちながら叫ぶようにそう言う。
そして意を決してその物体を口に放り込んだ、その直後。
「ぐがっ!?あがががくぁwせdrftgyふじこlp」
「水、一ノ瀬君水。」
「一ノ瀬さん、この袋の中に吐いてください。
大丈夫ですよ、死んだりしないはずですからね。」
何となく予想していた事態になって冷静に対処する二人。
そして元凶の桃井は、おかしいなぁ、と首を傾げている。
反省してくれ、頼むから反省してくれ。
「さ、最悪のハロウィンだ……!」
劇薬を食べることとなった、一ノ瀬にとっての悪夢のハロウィンは、こうして過ぎていったのである。
一つ幸運なことと言えば、その日から3日の間は彼女が比較的に優しかったことだろうか。
だが、それはあくまで比較的に、で、その間ずっと腹を壊していた一ノ瀬からすれば、結果は差し引きゼロだった。