外待雨(ほまちあめ)
部屋中を覆う殺意に、ぞわりと背筋が粟立っていく。
久々の実力者らしい。
少しの緊張感を抱きながら、オレはじりじりと距離を取る。
不覚にも、時雨金時が手元にない。
部屋の隅に立て掛けてある刀を思い出して、ひくりと頬が引き攣った。
流石に、敵も武器を取りに行くのを見逃してはくれないだろう。
スクアーロは横で既に剣を構えている。
部屋狭いから、暴れるなら外でやってほしいのな……って、今更か。
既に窓と壁が切り刻まれて、大穴空いてんだもんな。
「ようやく、捕まえたぞ……」
「わざと捕まえさせてやったとは、考えねぇのかぁ?」
「戯れ言を……!」
敵の言葉にスクアーロが余裕綽々って表情で答える。
捕まえた……?
いったいどういうことなんだ?
敵が叫んだ途端、突然部屋の景色が一変し、オレ達は見た事もない森の中に立っていた。
並盛にある森とはまるで違う、原生林って言うのかな、そんな感じの、緑が迫ってくるような、圧倒的生命力を見せ付ける森。
「な……何なのな、ここ!?」
「ゔお゙ぉい、目を逸らすな山本ぉ!」
「は……うわっ!?」
スクアーロに言われて慌てて敵に視線を戻したオレが見たのは、ぐにゃりと輪郭が歪んだ敵の姿だった。
これって、幻術か?
でも、骸や幻騎士と闘ったときとはなんか違う気がする。
世界を歪めるようなアイツらの幻術に対して、こいつのは世界そのものをすり替えるような、そんな感覚。
ぐにゃぐにゃと蠢いていた敵の体は、一瞬固まったかと思うと、次の瞬間、虎の姿になっていた……って虎!?
「グルルルルゥ!」
「はっ、可愛い猫じゃねぇかぁ」
「いや虎だぜ!?つーかやべーのな!刀置いてきちまった!」
「チッ!のろまがぁ。リングだけで戦え!」
オレ達を追い掛けてきた虎に、踵を返して走り出す。
虎くらいなら、全力を出せば倒せるだろうけど、刀を忘れてきた上にあんな得体の知れない敵じゃあ迂闊に手を出すことも出来ない。
スクアーロもスクアーロで、今持ってる長剣じゃ、この鬱蒼と茂る密林では戦えない。
オレ達に残された道は、何とかアイツと戦ってみるか、開けたところまで逃げるだけだ。
しかしこの樹の密度……!
富士の樹海だって目じゃないって感じだ。
これじゃあまともに前の様子を伺うことなんて出来ない。
「待て!」
「待てと言われて待つバカがいるかぁ!!」
「虎が喋ったのな!?」
やっぱり外見は虎でも本体は人間らしい。
ますます敵の謎が深まるのな……。
とにもかくにも、さっさと逃げて態勢を立て直さなければ。
そう考えていたオレの足元の地面が、突然抜けた……ぬ、抜けた!?
「うぉわーっ!?」
「崖だとぉ!?」
どうやら、オレ達はうっかり崖から飛び出してしまったらしい。
崖の縁は既に手の届かないところにあるし、ついでに言えば虎が崖であることも気にせずに飛び掛かってきているから、戻ることはいろんな意味で不可能だ。
「お、落ちる!」
「落ちてたまるか、ドカスがぁ!」
オレが叫んだ声に答えたのかどうなのか、スクアーロが吠えた直後、オレの足は地面に着いていた。
周りを見渡せば、今度はどこかで見たことのある光景……これは……。
「並中……の、雨のリング戦、だなぁ」
「え、え?何でなのな!?」
「良いから走れぇ!下から来てるぞぉ!」
「ぇえ!?」
スクアーロに言われて下を見る。
そこにいたのは、巨大なホオジロザメだ。
まるで悪夢でも見ているかのような、そんな幻術……。
いや、もしかして、もしかすると……。
「スクアーロ!一体何なのなコレ!?」
「敵さんの新開発した技術、脳内へのハッキング技術!有り体に言えば、オレ達は今、夢の中に侵入されてるって事だぁ!!」
「ゆ、夢……!」
こんな予想は当たらなくて良いのな!
「夢だからって侮るなよぉ。夢で受けた傷は現実にも受ける!」
「マジ!?」
「大マジだぁ!」
予想以上に状況が悪いのな!
しかもそこまで詳しく知ってるって事は、スクアーロの奴相手が来ることを予め知ってたんじゃねーのか?
「……もしかしてだけど、オレの事わざと巻き込んだのな?」
「……さあなぁ」
あ、これは確実にわかってて巻き込んだパターンなのな……。
「まっ、最後まで付き合ってやるのな!」
覚悟は決めた。
リングに炎を灯して呼び出した次郎から小刀を受け取って、にやっと笑いながら敵と向き合った。
久々の実力者らしい。
少しの緊張感を抱きながら、オレはじりじりと距離を取る。
不覚にも、時雨金時が手元にない。
部屋の隅に立て掛けてある刀を思い出して、ひくりと頬が引き攣った。
流石に、敵も武器を取りに行くのを見逃してはくれないだろう。
スクアーロは横で既に剣を構えている。
部屋狭いから、暴れるなら外でやってほしいのな……って、今更か。
既に窓と壁が切り刻まれて、大穴空いてんだもんな。
「ようやく、捕まえたぞ……」
「わざと捕まえさせてやったとは、考えねぇのかぁ?」
「戯れ言を……!」
敵の言葉にスクアーロが余裕綽々って表情で答える。
捕まえた……?
いったいどういうことなんだ?
敵が叫んだ途端、突然部屋の景色が一変し、オレ達は見た事もない森の中に立っていた。
並盛にある森とはまるで違う、原生林って言うのかな、そんな感じの、緑が迫ってくるような、圧倒的生命力を見せ付ける森。
「な……何なのな、ここ!?」
「ゔお゙ぉい、目を逸らすな山本ぉ!」
「は……うわっ!?」
スクアーロに言われて慌てて敵に視線を戻したオレが見たのは、ぐにゃりと輪郭が歪んだ敵の姿だった。
これって、幻術か?
でも、骸や幻騎士と闘ったときとはなんか違う気がする。
世界を歪めるようなアイツらの幻術に対して、こいつのは世界そのものをすり替えるような、そんな感覚。
ぐにゃぐにゃと蠢いていた敵の体は、一瞬固まったかと思うと、次の瞬間、虎の姿になっていた……って虎!?
「グルルルルゥ!」
「はっ、可愛い猫じゃねぇかぁ」
「いや虎だぜ!?つーかやべーのな!刀置いてきちまった!」
「チッ!のろまがぁ。リングだけで戦え!」
オレ達を追い掛けてきた虎に、踵を返して走り出す。
虎くらいなら、全力を出せば倒せるだろうけど、刀を忘れてきた上にあんな得体の知れない敵じゃあ迂闊に手を出すことも出来ない。
スクアーロもスクアーロで、今持ってる長剣じゃ、この鬱蒼と茂る密林では戦えない。
オレ達に残された道は、何とかアイツと戦ってみるか、開けたところまで逃げるだけだ。
しかしこの樹の密度……!
富士の樹海だって目じゃないって感じだ。
これじゃあまともに前の様子を伺うことなんて出来ない。
「待て!」
「待てと言われて待つバカがいるかぁ!!」
「虎が喋ったのな!?」
やっぱり外見は虎でも本体は人間らしい。
ますます敵の謎が深まるのな……。
とにもかくにも、さっさと逃げて態勢を立て直さなければ。
そう考えていたオレの足元の地面が、突然抜けた……ぬ、抜けた!?
「うぉわーっ!?」
「崖だとぉ!?」
どうやら、オレ達はうっかり崖から飛び出してしまったらしい。
崖の縁は既に手の届かないところにあるし、ついでに言えば虎が崖であることも気にせずに飛び掛かってきているから、戻ることはいろんな意味で不可能だ。
「お、落ちる!」
「落ちてたまるか、ドカスがぁ!」
オレが叫んだ声に答えたのかどうなのか、スクアーロが吠えた直後、オレの足は地面に着いていた。
周りを見渡せば、今度はどこかで見たことのある光景……これは……。
「並中……の、雨のリング戦、だなぁ」
「え、え?何でなのな!?」
「良いから走れぇ!下から来てるぞぉ!」
「ぇえ!?」
スクアーロに言われて下を見る。
そこにいたのは、巨大なホオジロザメだ。
まるで悪夢でも見ているかのような、そんな幻術……。
いや、もしかして、もしかすると……。
「スクアーロ!一体何なのなコレ!?」
「敵さんの新開発した技術、脳内へのハッキング技術!有り体に言えば、オレ達は今、夢の中に侵入されてるって事だぁ!!」
「ゆ、夢……!」
こんな予想は当たらなくて良いのな!
「夢だからって侮るなよぉ。夢で受けた傷は現実にも受ける!」
「マジ!?」
「大マジだぁ!」
予想以上に状況が悪いのな!
しかもそこまで詳しく知ってるって事は、スクアーロの奴相手が来ることを予め知ってたんじゃねーのか?
「……もしかしてだけど、オレの事わざと巻き込んだのな?」
「……さあなぁ」
あ、これは確実にわかってて巻き込んだパターンなのな……。
「まっ、最後まで付き合ってやるのな!」
覚悟は決めた。
リングに炎を灯して呼び出した次郎から小刀を受け取って、にやっと笑いながら敵と向き合った。