パロシリーズ

「大丈夫ですか!?
轢かれてたり、怪我してたりとか……って、スペルビ!?」
「は?」
「あ、そっか、オレ達役柄だと初対面だよな……。」
「何ぶつくさ言ってやがる。」
「ちょっ、王子……じゃなくてスクアーロ、もうちょっと穏便に!ね?」
「しし、怪我なんてなさそーじゃん。」

それが四人の出会いでした。
シンデレラは二人に怪我がないかどうかを心配しましたが、二人は一刻も早くここを離れたくて、少しそわそわしています。

「本当に怪我はないな?」
「ない。
お前らパーティーに向かってるんだろう?
なら急いだ方が良いんじゃねぇのか?」
「それはそうなんだけど……。
お前らはパーティーには行かないのか?」
「……オレ達は良いんだぁ。」
「そうなのか?」

王子様は怪我がないと言いましたが、二人の様子が何だかおかしいように思えて、シンデレラは確認するために重たいドレスを引きずって馬車を降りました。

「本当に本当に、怪我はないんだな?」
「チッ!本当だぁ。
だから近付いてくるなぁ。」
「なーんか怪しいよなー。」
「おい……あっ!」

シンデレラの手が、王子様が被っていたフードをぱっと取り払います。
フードの中から現れた王子様の姿に、シンデレラはハッと息を飲みました。

「う……わぁ、綺麗……。」
「このっ……!なにしやがるカス!」
「綺麗なのに言葉汚っ!」

溢れ落ちた長い銀髪、つるりとして仄かに赤く染まる頬、そして髪よりも少し濃い銀色の瞳に、シンデレラは一瞬で心を奪われてしまいました。
王子様はとてもとても美しく、しかし王子様の着る服はそれに似合わずとても質素で不似合いです。
シンデレラはそれを見て、とても良いことを思い付きました。

「あっ!そうだ!
なあ、オレさ、このドレスお前にやるよ。
だからこれを着て、パーティーに行ったらどうだ?
きっととても綺麗だ。」

シンデレラの言葉に、王子様は驚いて目を見開き、召し使いは大きく頷いて同意します。
ネズミのベル君は茶化すような笑い声を立てて「誰だってお前よりは似合う」と言っていました。

「服、交換しようぜ。」
「なんでオレがそんなもん着なくちゃ……」
「スクアーロ、着てみようよあのドレス!
きっと追手の人達にもわからなくなるよ!」
「……それは、……でも……。」
「ね!せっかくだもん!」
「あっ、おい!?」

召し使いはシンデレラに、持っていたタキシードを渡しました。
シンデレラはそれを見て目を丸くします。
とても高価そうで綺麗な服だったからです。

「うわっ、カッコいい……!」
「それを着て、代わりにスクアーロがそのドレスを着れば良いんだよ!」
「おい!勝手に決めるな!」
「ありがとな!さっそく着替えてくる!」
「お前も勝手に着替えるなよ!!」

シンデレラは馬車の中で、重たいドレスから肌触りの良いタキシードに着替えます。
脱いだドレスを持って外に出ると、召し使いが歓声を上げました。

「うわぁ!すっごくよく似合ってる!
王子様みたい!」
「ほ、ほんとか?へへ……。
なあ、スペルビはどう思う!?」
「……別に、どうとも思わねぇよ。」

王子様は顔を背けてそう言います。
でも、その顔は少し赤く染まっていました。
シンデレラは満足そうに笑うと、王子様にドレスを差し出しました。

「どーぞっ。
ドレス着てみてくれよ。」
「オレはそんなの着たくねぇ。」
「わがまま言わないでさっさと着なって。」
「うわっ!?」

王子様は召し使いに馬車の中に押し込められてしまいました。
召し使いだと言うのに、彼は随分と無礼な奴です。
王子様は渋々と着替えると、ゆっくりと馬車の扉を開けて外に出ました。

「着替えた、ぞ……。」
「わっ、スゴい……!」
「……き、れい……スゴく綺麗だ!」
「しし、見違えたなー。」

真っ白なドレスが、うっすらと光を帯びています。
まるで初めから王子様の為に拵えられたかのように、そのドレスはぴったりと王子様の体を包んでいました。
決して派手ではありませんが、香り立つような静かな美しさに、3人は口々に褒め称えます。

「スペルビ、本当に綺麗だ。
よく似合ってる。」
「そんなことは……。」
「二人ともスゴく似合ってるよ!
並ぶともっと綺麗だし。
せっかくだから、このまま二人でデート行ってきなよ!デート!」
「は……はあ!?」
「え、良いのか!?」

召し使いの言葉に、王子様は驚き、シンデレラは嬉しそうに聞き返します。

「ほらほら、二人とも行っておいでよ!」
「ゔぉい押すなぁ!
つーかお前もこいつに乗せられてんじゃねぇよ!
行きたくないなら素直に……」
「え?オレは行きたいぜ?
お前と一緒に、デート!」
「はあ!?」

にこやかに言ったシンデレラに、王子様はまた、大きな声で驚きます。
シンデレラは王子様の手を取ると、跪いて見上げました。

「な、一緒に行こうぜ?
スペルビと一緒ならどこにだって行くよ。」
「な…………!」
「と言っても、お前が嫌なら行けないけど。
……ダメ、か?」

ちょっとだけ情けない顔で笑って、シンデレラは尋ねました。
王子様の顔は、暗がりでもよくわかるほどに真っ赤です。

「……ダメじゃ、ねぇよ。」
「ほ、本当!?」
「行きたい……。
その、お前と、なら……。」
「よっしゃ!……じゃなくて、ありがとう!!
一緒に行こうぜ!
ど、どこに行こうかな……!?」
「どこでも良いだろ。」

恥ずかしそうにうつ向いた王子様の腕を取って、シンデレラは駆け出そうとします。
しかし直ぐに躓いて転んでしまいました。

「うわっ!」
「っ!?」

転んだシンデレラに覆い被さるように、王子様も転んでしまいます。
二人の顔は、鼻が付くほどに近付いていました。

「あ……ご、ごめん!」
「……その、」
「え?」
「キス、しても良いか……?」
「き、す……?」
「キス。」
「……やだ。」
「……そう、だよな……。」

王子様は悲しげに眉を下げます。
遠くでなる鐘の音が、物悲しげに響きます。
シンデレラはそんな王子様の頬に両手を添えて微笑みました。

「キスはオレからさせてくれ。」
「え?……んっ。」

二人の唇が重なりました。
それと共に、12時の鐘の音が鳴り終わります。
『その魔法は十二時の鐘が鳴り終わる頃に解けてしまうからね。』
シンデレラは魔法使いの言葉を思い出します。
そして、『全ての魔法』が解けました。


 * * *


「――リボーン!
なんだったんだよさっきまでのは!!」
「Presented by コクヨーで送るガチマインドコントロール演劇会だぞ。」
「何そのクソ企画!!
いい加減にしろよ!
毎回オレ達振り回すなよ!!」
「何言ってるのかわかんな~い。」
「わかってよ!そこはわかってよ!!」

ここは黒曜ヘルシーセンター。
廃れた映画館の床には何人もの人が倒れている。

「ツナとディーノへの幻術のかかりが甘かったが、……なかなかに楽しめたな。」

ニヤリと笑ったリボーンを見て、一部の者達の、絶望したような叫びが木霊したのだった……。
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