悪夢のハロウィン2014

10月31日、そう、今日はハロウィンである。
町では子供達が仮装をして、お菓子を求めて走り回っていた。
『trick or treat!』
子供達の無邪気な声が聞こえてくる。
賑やかな町中を歩きながら、跳ね馬ディーノはこれから会う人の事を思い、心を弾ませていた。

「あいつ、今日がハロウィンって覚えてるかなぁ……?」

覚えては……いなさそうである。
普段から忙しすぎて日にち感覚が無くなってそうだし、そもそもイベントに積極的に参加するタイプではない。
まあ、覚えてなくてお菓子がなかったら、それはそれで楽しいから良いんだけど。
そう、今日はハロウィン。
合言葉は『お菓子をくれなければ悪戯しちゃうぞ!』である。
悪戯の範囲が絞られていないのがこのイベントの素敵なところなのだ。
全国の恋人達が悪戯(笑)をしたり『お菓子よりも君とのキスの方がずっと甘くて美味しいよ。』なんて囁いたりするのだ。
そして全国の独り身の者達は彼らを呪い、お菓子を貪る。
去年まではハロウィンなんて仕事をしている内に過ぎていくイベントだったが、今年からは一味違う思い出が出来そうである。
ヴァリアーのアジトに着き、隊員達の目を掻い潜ってスクアーロの部屋に向かう。
扉をノックし、返事を待たずに部屋に入ると、書類に埋もれている彼女の姿があった。
扉に鍵を掛けて抜き足差し足と忍び寄る。

「あ゛ー……誰だぁ?
今忙しいから後でにしてく……」
「スークアーロっ!!」
「う゛おっ!?」

後ろからガバッと抱き付くと、スクアーロの体がビクッと跳ねて必死に首だけで振り向いてきた。
その頬にキスして耳元で囁いた。

「逢いたかったぜスクアーロ。」
「なっ……は、跳ね馬!?」

耳にわざと息を吹き掛けるようにして話すと、ビクビクと震えながらディーノを呼ぶスクアーロは、その腕の拘束から逃れようと藻掻き出す。
だがディーノが続いて問い掛けた言葉に、ピタリと動きが止まった。

「今日、何の日か知ってるか?」
「……今日?って、10月、31日……。
……あ、ハロウィン?」
「そ♪で、『trick or treat!』
お菓子くれねーと悪戯するぜ?」
「……いきなり言われても、菓子なんてねぇよ。」
「じゃあ悪戯、な。
覚悟、決めろよ、スペルビ。」
「ひゃ!?わっ……何すんだオイ!?」

スクアーロの体を軽々と持ち上げ、ディーノはそのままベッドに移動する。
そしてスクアーロを降ろすと同時にその上へと伸し掛かり、驚く彼女の唇にキスを……キスを……


 * * *


「と、言うところで目が覚めて。」
「結局夢オチー!?」
「考えてみれば誰の目にも触れずにアイツの部屋に行くとか不可能に近いし、そもそもアイツがオレの気配に気付かないわけないし、だいたいアイツ後ろから抱き付かれたら反射的に殴り返すし……」
「スクアーロほど恋愛イベントに向かない奴もいねぇな。」

ハロウィンも過ぎたある日、ディーノは日本の弟分の家を訪れていた。
部屋の隅っこに体育座りをして湿気た空気を出すディーノは、虚ろな笑みを浮かべながらハロウィンの悪夢について語る。

「で、実際ハロウィンにアイツのところに行ったらさぁ……、なんかヴァリアー総出でイベントやってて……。」
「ヴァリアー何やってんの!?」
「なんか隊員の実力向上を目指して、『ヴァリアーズハロウィンお菓子争奪戦争』をやってて……。」
「何それー!?」
「幹部が持ってるカゴからお菓子を奪えるまでお部屋に帰れま10、みたいな。」
「もうヴァリアーが良くわからない!!」
「そんでスゴく忙しそうだったから仕方なく帰ろうとしたらスクアーロに見付かってお菓子もらって帰ってきた。」
「そのまま戦闘って『お菓子よりもお前が欲しい』って口説いて帰ってくれば良かったのにな。」
「そんな言葉口にした瞬間にスゲー冷めた目で見られる……。」
「へなちょこめ。」

リボーンにシバかれ、本格的に沈み込んだディーノを綱吉が慰める。
そしてその頃、イタリアでは……。

「……なんか、悪いことしちまったなぁ。」
「そうよぉ、折角のハロウィンなんだから、もっと構ってあげれば良かったのにぃ。」
「でも、ヴァリアーの中での戦闘にアイツの事を巻き込むのはまずいだろ?」
「あの子だってマフィアのボスでしょお?
あれくらい何でもないわよぉ。」

ぐてりとソファーに寄りかかり、ルッスーリアと取り留めもなく会話を交わすスクアーロは、ハロウィンの残りのキャンディーを頭上に翳して眺めながら、浮かない顔付きでいた。

「……別に、相手したくない訳じゃねーんだけどな。」
「仕事だから……って?
私達スクちゃんがちょっと休んだって何にも文句言わないわよぉ?」
「……でも任されたことはちゃんとこなしてぇんだよ。
あ゛ー……、今度、お詫びにどっか行こうって誘ってみるかなぁ……。」
「あら~!良いじゃない!
楽しんでらっしゃいよ?」
「……うん。」

キャンディーの包み紙を剥がし、レモン味のキャンディーを優しく口付けるように口に含む。
甘酸っぱいキャンディーを舌で転がしながら、スクアーロは少し頬を緩める。

「このキャンディー、結構美味しいな。」
「跳ね馬ちゃんとのデートが楽しみで笑ったんじゃないの?」
「ちげぇよ、バーカ。」

スクアーロがディーノに電話を掛けたのは、そのすぐ後の事であった。
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