君の隣が

~宴会中の出来事~




「へ?スクアーロに?酒?」
「そーそー!
スクアーロ激弱だから、飲ませると楽しーだろーぜ。」
「あいつ酒飲めないのか!?」
「ししし、ビール一杯でもベロンベロンだぜー。」
「マジで!?」

と、そんな会話をしていたディーノとベル。
ベルから酒を受け取ったディーノは、早速スクアーロの元へと走っていく。

「スクアーロ、お酒飲も」
「いらねぇ。」
「う……えー……。」
「飲まない。」
「良いじゃん、ちょっとくらいさ。」
「絶対に飲まねぇ。」

しかしまあ、酒に弱い自覚があってわざわざ酒を飲むスクアーロではない。
断固拒否の姿勢を崩さないスクアーロに、ディーノは不満そうに頬を膨らませる。

「どうしてもダメか?」
「ダメなもんはダメだぁ。」
「絶対絶対絶対ダメ?」
「何がなんでもぜっっっってぇに嫌。」
「ぶーぶー!」
「駄々こねられても困る。」
「ちぇーっ。」

何がなんでも、飲む気はないらしい。
頑なに断り続けるスクアーロに、ディーノは正攻法で飲ませることが無理だとさとる。
ならば卑怯な手を使ってでも飲ますしかないじゃない。
心の中でそう決意を固めたディーノは、部下に囲まれてちびちびと酒の肴を摘まんでいるスクアーロの隙を窺う。

「どれだけ期待しても飲まねぇからなぁ。」
「……そっか。
なあスクアーロ、ほっぺたにご飯粒ついてるぜ。」
「え?」

慌てて手で顔を押さえて確認するスクアーロの意識が自分から逸れている内に、ディーノは口に酒を含む。

「粒なんてどこに……」
「はい、ちゅー。」
「は?っむぐぅ……!?」

首を傾げながら自分の頬を触るスクアーロの頭を両手で挟んで固定し、彼女が驚いて固まっている内に、その唇を奪う。
少し開いた口の中に、酒を流し込んで無理矢理飲ませ、喉が上下したのを確認してから唇を離した。
いわゆる口移しだ。
呆然と自分を見上げるスクアーロに、満足げに喉を鳴らして、ディーノは口の端から垂れた酒を拭う。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ー!!!!!跳ね馬テメェ何しくさってやがる!!!」
「離れろ!」
「大丈夫ですかスクアーロ様ぁ!?」
「うちの子に何してくれとるんじゃこのドカス!」
「いや、うちの子ってなんだよ。」
「意識しっかりしてますか隊長!?」
「あのカスはオレ達が始末しておきますからね。」
「え!?そこまですんのか!?」

恋人同士なんだからこれくらい良いじゃん、と言うディーノの言い訳が聞き届けられることはなく、ヴァリアーの精鋭達に鬼の形相で追いかけられる。

「うわっ!ちょっ……待て待て待て待て!!
話せばわかるって!!」
「コロス!」
「話をしてくれ!」
「情状酌量の余地はない!!」
「まっ……助けてスクアーロォオオ!!」

全力疾走をしながら恋人の姿を探すが、なぜかその姿が見当たらない。
どこにいったのかと、視線をキョロキョロとさ迷わせて探すディーノの身体が、突然何かにぶつかった。
軽い衝撃と共に、腰に何かが巻き付き、慌てて足を止めて視線を下げる。

「ス、スクアーロ?」
「た、隊長ダメです!
そいつから離れてください!!」

ディーノがぶつかったのはスクアーロで、なぜかディーノに抱き付くような格好をしたスクアーロは、ディーノの声にも、部下の声にも反応しない。
不思議に思ってスクアーロの肩を揺さぶり、顔を上げさせたディーノは、カチンっと固まった。

「スッ……!!」
「たっ!隊長っ……!!」
「ん゙ー……。」

ディーノの体にしなだれかかるスクアーロは、頬を赤く染めて、目にたっぷりと涙を溜めている。
きゅう、と彼の服を掴んだスクアーロは、唐突にディーノの頭を乱暴に掴むと、自分の顔を近付けた。

「え゙っ!?」
「ちょっ……ちょっと待って……んむ!?」
「ん゙ー……むぅ。」

そのままグイグイとディーノの髪を引っ張って、その唇に自分の唇を押し付ける。
その光景に、彼女の直属の部下数名が卒倒している。
それだけ彼女を大切にしているという事なのだろうが、正直行き過ぎていて気持ち悪い。

「ん……ぷはっ……。
これ……酒……?」
「お返し、な……?」
「え……。」

口移しで流し込まれた液体は、たぶん、さっきのスクアーロに飲ませたものと同じ酒。
首を傾げるディーノを見て、スクアーロはふにゃりと綻ぶように笑う。
そして固まるディーノの胸板に飛び込み、抱き着いたまま動かなくなった。

「え……え……えええええ!!?」
「た、隊長……そんな……こんな奴のどこが良いって言うんですか……!」
「飲もう……、今日は動けなくなるまで、飲もう……!!」

残った部下達も、やけ酒に走り、スクアーロとディーノの二人が置き去りにされる。

「それは……ズルいって……。」
「ん……ディーノ……?」
「……何でもねーよ。
ほら、お前ちょっと端っこで休んどけ。
ったく、主役がベロンベロンに酔ってちゃあダメだろー?や、オレが飲ませたんだけどさぁ」
「酔ってねーよぉ……。」
「はいはい。」

だるんだるんに力の抜けたスクアーロを抱き上げてソファーへと運び、ディーノは彼女を寝かせた隣に座る。
顔を両手で覆えば、酷く火照っているのがわかった。

「ずりぃ……。」
「ディーノー……?」
「……んー?」
「すき……。」
「……えっ!?」
「ディーノの手ぇ……好き……。」
「あ、手ね!手……うん、ありがとな。」
「……おやすみ……。」
「え、寝るのか?」
「……ん゙ー。」

ディーノは、自分の手を握ったまま眠り込んでしまったスクアーロの顔を見ながら、ほうっと息を吐いて内心で思う。

―― 今度は二人っきりの時に、飲ませようかな……。

赤くなった頬に手を当てて冷やす。
普段のスクアーロもカッコいいけど、たまにはこんな一面が見られるのも良い。
そんなことを考えていたディーノだったが、そこで二人分の視線に気付いてキッと相手達を睨み付ける。

「そこの二人!
ニヤニヤしながら見てんじゃねーよ!!」
「ししし!ニヤニヤしてねーしー!」
「いつもこんな顔だもーん♪」

スクアーロに手を掴まれて動けないディーノは、睨むことしか出来ない。
それを知って遠くの方から眺めて笑う二人。
もちろんベルフェゴールは確信犯であった。
騒がしい宴会の時間は、主役を置き去りにして過ぎていく。
9/9ページ
スキ