君の隣が

「隊長!」
「誕生日!」
「おめでとうございます!!」
「お、お゙う……。」

でん、でん、でん、と俺達の前に積み重なった部下達にそう言われて、スクアーロは戸惑いながら答える。
彼らの格好はボロボロで、スクアーロを祝ったすぐ後に、ガクンと首を仰け反らせて気絶した。

「な、何があったんだ?」
「……ザンザスだなぁ。」
「ボスでしょうね。」
「今行きますボォォオス!!」
「しし、今行ったらコイツらと同じ運命じゃね?」
「折角のパーティーの飾り付け、ボロボロになっちゃってるね♪」
「とりあえず、意識がある奴らに話聞いてみたらどうだ?」
「聞きたくねぇなぁ……。」

幹部四人が数時間いなくなった、短い時間での犯行。
思い付く犯人はもちろん、XANXUS以外誰もいない。
嫌な顔をする三人とは別に、レヴィだけが元気に叫びながら邸内を走って、XANXUSを捜しに行った。

「何があったのですかボォオス!!」
「酒が不味かったとかそんな理由だろぉ。
オレの部屋に幾つか隠してあるから、そっから2、3本適当に持ってけぇ。」
「んじゃあオレ達は、無事な奴集めて怪我人の介抱してやるか。」
「了解。
医務室から救急箱借りてくるぜ。」
「しし、面倒くせっ!
王子パース。」
「僕もー。
ベルクン、お料理食べに行こうよ♪」
「私マモちゃん探してくるわ~。」

それぞれが別れて行動を始めて、気付くとまた、オレとスクアーロは二人っきりになっていた。
と言っても、周りには大量の屍……もとい、気絶したヴァリアーの連中がいるが。

「やっぱり慕われてるんだな、スクアーロって。」

きっとサプライズパーティーでも企んでいたのだろう。
XANXUSに燃やされたらしい大量のクラッカーや、プレゼントの箱を見て、オレはそう呟いていた。
焼け焦げたプレゼントの箱から覗いている中身は、鉄色をしていたり、火薬の匂いがしたりと、物騒な物ばかりだけど、スクアーロは一つ一つ大事そうに手に取って、被害の少なかった場所に集めている。
いつもと比べると、少し柔らかな表情をしていて、その横顔にちょっと見惚れる。
いや、見惚れるのとは少し違うだろうか。
自分も一緒に、暖かな気持ちになれる。
そんな感じだ。

「良かったな、こんなにたくさんの仲間に、祝ってもらえてさ。」
「ん゙……、そう、だなぁ……。」

普段なら、別に嬉しくねーし、なんて言って誤魔化しそうなもんだけど、今日に限っては素直に頷いて、口許を微かに緩めて笑う。
それだけ、嬉しかったんだろう。
よしよし、と頭を撫でてやると、嫌そうに頭を振られた。

「撫でんじゃねぇよバァーカ。」
「照れんなって!」
「別に照れてなんて……!」
「んじゃー大人しく撫でられとけって。」
「っ~~!!」

言い合いとも言えないやり取りをして、悔しそうな顔をするスクアーロの頭をくしゃくしゃと撫で回す。

「パーティー、これじゃ出来ねーかもな。」
「……しようとしてくれただけで、十分、嬉しい。」
「そう?」
「それに、飲んで食べてってだけなら、今からでも十分間に合う。」
「そりゃまあ、そうだな!」

頭を抱え込んで、うりうりと撫でる。
スクアーロは気に食わなそうに唸っちゃいたが、別に満更でもないみたいで、とろんと目を細めてオレの手を受け入れている。

「……スクアーロ、今、幸せか?」
「はあ?んだよ、突然。」
「何となく聞いてみたくなっただけ。」
「意味わかんねぇ。」
「で?どーなんだ?」

思い付いた質問を、特に深く考えずにぶつけてみた。
怪訝そうな顔をしたスクアーロだったけど、オレの質問に対して真面目に、少しの間目を伏せて考えてくれる。

「……そうだなぁ、たぶん、凄く、幸せなんだと思うぜ。」
「凄く?」
「ん゙、凄く。」
「……へへ、そっか!」

オレの顔を見上げて、スクアーロはふにゃりと顔を綻ばす。
オレも自然と顔が綻んで、二人で揃って笑いあった。

「じゃー、来年は絶対にここでパーティーしようぜ!」
「来年?」
「そ!ヴァリアーの奴らと、ツナ達だろ?
あと、友達とか色々呼んで、パーっとさ!」
「……パーティー、パーっと、なぁ。」
「なんだよ?嫌か?」
「いや……、楽しみにしてる。」
「なら気合い入れて準備しないとな!」

今年は、プレゼントは焦げて煙を上げてるし、折角の綺麗な飾り付けもボロボロになってしまっていて、残念な誕生パーティー会場になってしまっているけれど、来年にはきっと、素敵なパーティーが開かれて、オレ達はその中で並んで笑っているのだろう。
今はとにかく、気絶した奴らを起こして、飲んで食べての宴会でも開こうか。
救急箱を持って、ようやく帰って来たロマーリオと、両手一杯に食べ物や飲み物を抱えてきたベルと白蘭。
そして、XANXUSと一緒にやって来たどことなくボロボロなマーモン、レヴィ、ルッスーリア、更には気絶から立ち直ったたくさんの隊員達を迎えて、ヴァリアーの大宴会が始まった。

「うぉぉおおん!!誕生日おめでとうございます隊長ぉぉおおお!!!!」
「ゔお゙ぉい!男が何泣いてやがる!!」
「隊長ももう23かぁ……。
オレ達も歳を取るわけだよなぁ。」
「オレも20代に戻れたらなぁ。」

号泣して祝う隊員もいれば、遠い目をして過去を懐かしむものまで。
たくさんの仲間に囲まれて、目尻を下げて笑っているスクアーロに、オレはこう言った。

「スクアーロ、誕生日おめでとう!」

スクアーロは一瞬、目を丸く見開いて、その後には、これまでに一番の笑顔を浮かべてくれた。

「お゙う、ありがと!」

直後、スクアーロの頭を、XANXUSの投げた酒瓶が襲撃した……って言うのは、余計な話だろう。
その日、ヴァリアーには賑やかな笑い声が響き続け、翌朝、スクアーロを含めた多数の人間が、二日酔いに頭を抱えていたのだった。
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