XANXUSハピバ2014

その日、XANXUSはとても不機嫌だった。
理由ならば、たくさんある。
まず1つは、この誕生日パーティー。
これまで氷の牢獄にぶちこんだまま8年間を過ごさせておいて、今更誕生日を祝おうだなんてどういう神経をしているのか、頭をかち割って覗いてみたい。
そしてこの日そのものがXANXUSは嫌いだった。
産まれた日なんて言うが、10代目になるべくして産まれた10(X)の字を名に2つ持つ、10月10日産まれの人間。
あまりにも出来すぎている。
10代目の妄想に取り憑かれた母親の、巫山戯た虚言なのではないかとさえ思っている。
XANXUSは誕生日を祝われる度に、そんな考えが頭を過り、苛立ちが募るようになっていた。
そして最後の理由。
それは今、自分の目の前にいる奴の事だった。

「ザンザス!」
「るせぇ。」
「おう!悪かったなぁ!」
「……。」

今日と言う日が始まってからずっと、ヘラヘラとだらしのない顔で笑っている奴。
奴の事はカスザメと呼んで、普段から蹴ったり殴ったりは当たり前の主従関係……。
だが今は、殴る蹴るは愚か、物を投げ付けることさえしたくない。

「今日は殴らないんだな!?」
「……黙ってろ。」
「わかった!」

何故だか五月蝿く構ってくるカスザメを、今朝、当たり前のように殴った。
いつもなら怒声が返ってくるか、平然と避けて何事もなく終わるかのそのやり取りが、何故か今日は違った。
殴っても蹴っても、奴はただニコニコと笑って受け入れるばかり。
一瞬夢でも見ているのかと思い、カスザメの頬を思いきりつねってみたが、笑いながらも痛がっていたためその可能性は敢えなく消えた。
何故、このカスは突然こんな暴走をし始めたのか。
恐らく影で見ながら大爆笑している、ムカつく幹部連中が絡んでいるのは確かなのだが、その理由はとんと見当がつかない。
まあ、カスザメの行動のお陰で、ムカつくカスどもが寄ってこないのは良かったし、そのまま放っておいても良いのだが、このままだと気持ちが悪いという思いもあり、XANXUSは彼女に声を掛けた。

「カスザメ。」
「なんだぁ!?」
「その気色悪い笑みを引っ込めろ。
何のつもりか知らねぇが、そのまま続けるならカッ消すぞ。」
「……やっぱ、これじゃあ違ったか。」

彼女はXANXUSの言葉を聞き、素直に笑みを引っ込めた。
だが代わりに、謎の発言を残す。
イライラと視線を向けたXANXUSに気付いたのか、彼女はやっと、今日の行動の意図をXANXUSに教えた。

「お前に誕生日プレゼントが渡したくてよぉ。」
「はあ?」
「でも良いプレゼントとかひとっっっつも思い当たらねぇ。
だから、お前のサンドバッグになるならストレス発散になって良いかなー、と。」
「アホじゃねぇのかテメー。」
「中卒なんだからアホで当たり前だろ。」

そういう問題じゃない。
XANXUSの心の中での密かなツッコミは彼女には届くことがなかったが、これでカスザメの謎の行動の真意もわかり、事案の1つは、片付いたと言えよう。

「……帰るぞ。」
「あ?でもまだパーティー途中だぜ?
主役が帰っちゃまずいだろぉ。」
「知るか。」

こんなパーティー、何故オレが参加しなければならないのか。
XANXUSのそんな気持ちが、今度はハッキリ伝わったらしく、彼女は苦笑を浮かべながら言う。

「お前が産まれた、特別な日だろぉ?
良いじゃねーか、今日くらい。」
「本当にこの日に産まれたかどうかなぞ、ここにいる誰にも分かりゃしねぇだろうが。」
「……それでも、オレは祝いたい。」
腕を掴まれて、XANXUSは立ち止まる。

「お前の本当の誕生日じゃあなくてもよぉ、お前が生まれてきたことを祝う日が、1年に1度くらい、あったって良いだろぉ?」
「……こんなパーティーはいらねぇ。」

パーティー、など、下々の人間どもが媚を売ってくるだけの詰まらない集まりだ。
それなら帰って、酒を飲むなりトレーニングをするなり……またはこのワーカーホリックのカスザメみたいに仕事に精を出すのも良いかもしれない。

「でも、……祝いてーじゃん。」
「……なら内輪でやれ。
この場所は嫌いだ。」
「!やる!内輪でやる!
そんなら早く帰ろうぜぇ!」
「急に騒いでんじゃねーぞドカス。」
「わりぃ!」

だが結局、帰ってもまだパーティーは続くらしい。
幹部を呼びに行った彼女に背を向け、XANXUSはヴァリアーのアジトに戻るために歩き出した。
パーティーは嫌いだ。
だが、このカス達の乱痴気騒ぎなら、ただのパーティーよりは少しはマシ、のようにも思う。

「ザンザス!」

呼び止められて、振り向いた。
そこにはヴァリアーの幹部が揃っていて、一番前に立ったスクアーロが、にっと笑って言った。

「誕生日おめでとう。
……また祝わせてくれて、ありがとな。」
「はっ……!
さっさと帰るぞ、カスども。」

その年の誕生日は、決して忘れないだろう。
満足げに鼻を鳴らしたXANXUSに付き従う5つの影。
賑わうパーティー会場に背を向け、彼らはヴァリアーへと帰っていったのだった。
2/2ページ
スキ