君の隣が
3月13日、その日はスクアーロにとって、とても大事な日だった。
自分を産んで母親が死んだ日。
オレ達にとっては、大切な人が生まれた喜ばしい日でも、本人にとっては、大切になっていたかもしれない人の死んだ、悲しい日。
庭園の奥に目を向ける。
そこには、2つの小さな石碑と、その前に置かれた白百合の花束があった。
たぶん、両親のお墓なんだろう。
遠目からでも、しっかり手入れされているらしい事がわかった。
「毎年、ここに来てるんだ?」
「……まあなぁ。」
喪服に身を包んだ彼女の手に触れる。
その手は冷えきっていて、その冷たさが、彼女の心を表しているような気がして、オレまで少し、淋しくなった。
「手、冷たくなってるぜ。」
「……お゙う。」
「体も冷えきってんだろ?
……帰ろう、スクアーロ。
みんな待ってるんだ。」
「……わかってる、けど。」
帰りたく、ないらしい。
墓石を見ながら、その場を動こうとしないスクアーロを見て、オレは少し考え込む。
彼女が動きたがらないのは、たぶん、今の自分を仕事仲間に見られたくないから、だと思う。
情けないとか、思ってるんだろうな。
そんなこと、全然ないのに。
「スークっ!」
「ん?うお゙っ!?」
ちょっと勢いをつけて、彼女に抱き着いた。
驚いて体勢を崩した彼女を笑いながら支えて、背中で結んでる髪を撫でてぐちゃぐちゃにした。
「だっ……!何すんだこのバカ!」
「へへー、こーやってぎゅってしてたら、寒くねーだろー。」
「髪の毛ぐちゃぐちゃにする必要ねぇだろうがぁ!!」
「スクアーロ、頭撫でられんの好きだろ?」
「好きじゃねぇよバカ!」
怒鳴るスクアーロの声を聞いて、やっといつもの調子に戻ってくれたような気がして嬉しくなる。
怒りながらも、抱き着いてるオレを引き剥がしたりしないのも嬉しかった。
「手も暖めないとなー。」
「握るなよ……。」
「良いだろー?別に。」
「……跳ね馬。」
「んー?」
「一緒に、墓に、来てくれるか?」
「……うん、もちろん。」
真剣な顔で、スクアーロがそう言った。
頷いて、握った手に力を込める。
二人で一緒にお墓の前に立って、オレは目をつぶって頭を下げた。
「……娘さんの恋人のディーノです!
よろしくお願いします!」
「いきなり何言ってんだぁ、お前。」
「お墓来るの初めてだったからさ、お義父さんとお義母さんに挨拶?」
「死んでんのに挨拶も何もねぇだろ。
……つーかお義父さんとお義母さんってなんだよ?
何ちゃっかり言ってんだぁ。」
「気にしない気にしない!
死んでたって、お前の大切なご両親なんだもん、挨拶くらいしなきゃだろ?」
「……勝手にしろ。」
うん、勝手にさせてもらう。
スクアーロの手に、自分の手をしっかりと絡めて握る。
「きっと幸せにします!
だから、オレ達の事見守っててください!」
バッ、と頭を下げた。
その瞬間、べちょっと変な音がする。
何だろう、後頭部に何か冷たい物が。
恐る恐る触ってみたら、手にベッタリと付いてくる。
そのまま手を見てみたら、ぬるぬるした白いものが付いていた。
「ぶっ……く、ふふっ……!」
「え?え?何これ?」
「お前っ……良いところで、鳥に糞落とされるとか……っあはは!」
「鳥の糞!?」
「ふっ……拭いてやるから……くく、大人しくしてろぉ……ふはっ!」
「ちょ……笑いすぎだろ!?」
ハンカチで拭きながらも、ケラケラと笑っているスクアーロに、オレは頬を膨らませる。
そんなに笑わなくても良いじゃねーか、……って、思ったけど、スクアーロが笑ってる顔を見たら、別に良いか、って思えてきた。
さっきまで暗い顔してたから、こんな風に明るい顔してくれるなら、まあ鳥の糞くらいどうでも良いか、ってな。
「ほんっ……と、ドジだなぁ。」
「悪かったなードジで!」
笑いすぎて目尻に涙を溜めてるスクアーロにドジって言われて、オレはやっぱりちょっとだけむくれてしまう。
だってさ、大事な恋人には、カッコいいって言ってほしいから。
丁寧に頭についた汚れを拭き取って、スクアーロはオレの背を軽く叩く。
「お゙ら、拭けたぞぉ。」
「ん、ありがと!」
微笑んでくれたスクアーロの手を、ぎゅっと掴んで歩き出す。
一緒に来た奴らも、きっと待っているだろうから、急がなきゃ。
「ディーノクーン、スクちゃんいたー?」
「お、後ろにいるじゃん。
ししし、どこ行ってたんだよマジで?」
「ボスー、あんまり急ぐと転ぶぞー。」
「あいつらも来てたのかぁ!?」
「言ったろー?みんな待ってるって!」
驚くスクアーロと、騒ぐ仲間達。
ワイワイ騒ぎながら、ヴァリアーのアジトへと向かった。
今日は3月13日。
スクアーロの誕生日で、オレにとっても、オレ達にとっても、ヴァリアーの奴らにとっても、すごくすごく、大事な日。
ヴァリアーアジトに着いたオレ達を迎えたのは、スクアーロの部下達の用意した、誕生日パーティーだった。
自分を産んで母親が死んだ日。
オレ達にとっては、大切な人が生まれた喜ばしい日でも、本人にとっては、大切になっていたかもしれない人の死んだ、悲しい日。
庭園の奥に目を向ける。
そこには、2つの小さな石碑と、その前に置かれた白百合の花束があった。
たぶん、両親のお墓なんだろう。
遠目からでも、しっかり手入れされているらしい事がわかった。
「毎年、ここに来てるんだ?」
「……まあなぁ。」
喪服に身を包んだ彼女の手に触れる。
その手は冷えきっていて、その冷たさが、彼女の心を表しているような気がして、オレまで少し、淋しくなった。
「手、冷たくなってるぜ。」
「……お゙う。」
「体も冷えきってんだろ?
……帰ろう、スクアーロ。
みんな待ってるんだ。」
「……わかってる、けど。」
帰りたく、ないらしい。
墓石を見ながら、その場を動こうとしないスクアーロを見て、オレは少し考え込む。
彼女が動きたがらないのは、たぶん、今の自分を仕事仲間に見られたくないから、だと思う。
情けないとか、思ってるんだろうな。
そんなこと、全然ないのに。
「スークっ!」
「ん?うお゙っ!?」
ちょっと勢いをつけて、彼女に抱き着いた。
驚いて体勢を崩した彼女を笑いながら支えて、背中で結んでる髪を撫でてぐちゃぐちゃにした。
「だっ……!何すんだこのバカ!」
「へへー、こーやってぎゅってしてたら、寒くねーだろー。」
「髪の毛ぐちゃぐちゃにする必要ねぇだろうがぁ!!」
「スクアーロ、頭撫でられんの好きだろ?」
「好きじゃねぇよバカ!」
怒鳴るスクアーロの声を聞いて、やっといつもの調子に戻ってくれたような気がして嬉しくなる。
怒りながらも、抱き着いてるオレを引き剥がしたりしないのも嬉しかった。
「手も暖めないとなー。」
「握るなよ……。」
「良いだろー?別に。」
「……跳ね馬。」
「んー?」
「一緒に、墓に、来てくれるか?」
「……うん、もちろん。」
真剣な顔で、スクアーロがそう言った。
頷いて、握った手に力を込める。
二人で一緒にお墓の前に立って、オレは目をつぶって頭を下げた。
「……娘さんの恋人のディーノです!
よろしくお願いします!」
「いきなり何言ってんだぁ、お前。」
「お墓来るの初めてだったからさ、お義父さんとお義母さんに挨拶?」
「死んでんのに挨拶も何もねぇだろ。
……つーかお義父さんとお義母さんってなんだよ?
何ちゃっかり言ってんだぁ。」
「気にしない気にしない!
死んでたって、お前の大切なご両親なんだもん、挨拶くらいしなきゃだろ?」
「……勝手にしろ。」
うん、勝手にさせてもらう。
スクアーロの手に、自分の手をしっかりと絡めて握る。
「きっと幸せにします!
だから、オレ達の事見守っててください!」
バッ、と頭を下げた。
その瞬間、べちょっと変な音がする。
何だろう、後頭部に何か冷たい物が。
恐る恐る触ってみたら、手にベッタリと付いてくる。
そのまま手を見てみたら、ぬるぬるした白いものが付いていた。
「ぶっ……く、ふふっ……!」
「え?え?何これ?」
「お前っ……良いところで、鳥に糞落とされるとか……っあはは!」
「鳥の糞!?」
「ふっ……拭いてやるから……くく、大人しくしてろぉ……ふはっ!」
「ちょ……笑いすぎだろ!?」
ハンカチで拭きながらも、ケラケラと笑っているスクアーロに、オレは頬を膨らませる。
そんなに笑わなくても良いじゃねーか、……って、思ったけど、スクアーロが笑ってる顔を見たら、別に良いか、って思えてきた。
さっきまで暗い顔してたから、こんな風に明るい顔してくれるなら、まあ鳥の糞くらいどうでも良いか、ってな。
「ほんっ……と、ドジだなぁ。」
「悪かったなードジで!」
笑いすぎて目尻に涙を溜めてるスクアーロにドジって言われて、オレはやっぱりちょっとだけむくれてしまう。
だってさ、大事な恋人には、カッコいいって言ってほしいから。
丁寧に頭についた汚れを拭き取って、スクアーロはオレの背を軽く叩く。
「お゙ら、拭けたぞぉ。」
「ん、ありがと!」
微笑んでくれたスクアーロの手を、ぎゅっと掴んで歩き出す。
一緒に来た奴らも、きっと待っているだろうから、急がなきゃ。
「ディーノクーン、スクちゃんいたー?」
「お、後ろにいるじゃん。
ししし、どこ行ってたんだよマジで?」
「ボスー、あんまり急ぐと転ぶぞー。」
「あいつらも来てたのかぁ!?」
「言ったろー?みんな待ってるって!」
驚くスクアーロと、騒ぐ仲間達。
ワイワイ騒ぎながら、ヴァリアーのアジトへと向かった。
今日は3月13日。
スクアーロの誕生日で、オレにとっても、オレ達にとっても、ヴァリアーの奴らにとっても、すごくすごく、大事な日。
ヴァリアーアジトに着いたオレ達を迎えたのは、スクアーロの部下達の用意した、誕生日パーティーだった。