隣には君
「挨拶してくるからちょっと待ってろ。」
と、そう言って、ディーノはオレを残して会場の前方に作られた壇上に上がる。
取り残されたオレは、スカートの裾を握り締めて、周囲を窺う。
何と言うか、うん、視線が痛い。
女性達は睨み付けるような強烈な視線を送ってくるし、男どもは興味津々というような好奇の視線を送ってくる。
壇上のディーノは朗らかに笑いながら、客人たちに挨拶をしていた。
ああ、居づらい!凄く居づらい!!
何でこんなところに連れてきたんだよ!?
口に出して文句言うわけにもいかなくて、心の中でぶちぶちと文句を並べ立てる。
そんなことをしているうちに、ディーノの話は終わって、客人全員が手に手にグラスを持って乾杯の準備をする。
「お嬢さん、グラスをどうぞ。」
「っ……!あ、りがとう……。」
キャバッローネの奴にグラスを渡される。
こいつオレの事知ってる癖にからかいやがって……!
グラスを受け取る時に、つい恨めしげに睨んでしまう。
我ながら、ガキ臭い。
「それじゃあ、乾杯!」
乾杯の音頭に合わせて、グラスを掲げた。
グラスの中味の匂いを嗅ぐ。
あ、ジュースだ。
どうやらさっきの奴が、気を利かせてくれたらしい。
一口ジュースを飲んだときに、突然後ろから誰かが声を掛けてきた。
「お嬢さん、ちょっと良いかい?」
「ひっ…………!?」
声と一緒に肩を叩かれ、思わず肩が跳ねる。
つーか手が出そうになる。
抑えろオレ……ここで誰か殴ったりしたら非常にまずい!
強く手を握り締めて、笑顔を取り繕う。
おいこれ笑えてるのか?オレ笑えてる?
「な、何です……か……?」
「もしかして跳ね馬ディーノの恋人かい?」
「え゙……。」
「うん?違うの?」
「あ……えと、そうだ……そうです……!」
声を掛けてきたのは、たぶん同い年くらいの青年で、そのストレートな物言いに戸惑いながらも何とか答える。
うっかり普段の口調になってしまいそうだったが、そこは笑って誤魔化す。
くそ……何でコイツオレより背が高いんだよ……!もっと縮めよ、っつーかちけぇよ!!
「そっかぁ、残念だな。
もし違うんならオレが口説けたのに。」
「くっ……!?」
「でもせっかく出会えたんだし、今日は色々と話そうよ?良いでしょ?」
「へ……!?」
にこにこ、にこにこ。
目の前の男はずっと笑っている。
うん、怖い。
矢継ぎ早に問い掛けてきて、マシンガンのように話し掛けられて、オレは言葉に詰まる。
普段こんなに早く話さない、話したとしても仕事の時だけだから、すげぇ困惑する。
コイツは何なんだ、異星人か?
あと本当に近いからさっさと離れてほしい。
「可愛いなぁ。
跳ね馬の奴、こんな可愛い子のこと、どうやって口説いたんだい?」
「え……う、いや、それは……」
「跳ね馬とはどこまでいったの?」
「どっ……どこまでって……」
「そうそう、君の名前、聞いてなかったね!
教えてよ?」
「うぇ……!?な、名前……!?」
オレの答えを待つ気がないのか、次々と下世話な質問を投げ掛けてきていた野郎が、名前を聞いてきた……って、答えられる訳ねぇだろ!?
ヴァリアーのスクアーロですどーも、とか口が裂けても言えない!!
お前もこんなときだけ大人しく答え待ってんじゃねぇよ!!
必死で考えて出た名前は、かつてオレと同じ存在だった彼女の名だった。
「あ、あると……。」
「へえ、アルトって言うの?
可愛い名前だね。」
「いや……。」
本人は名前とはかけ離れて傲岸不遜な人物だったけどな!
オレが答えたことで調子に乗ったのか、男の手が腰に回ってくる。
ぞわっと背筋が逆立った。
これは無理!殴りたい!!
「そんなに固くならないで。
恐くないから、ね?」
「は、離せ……して、ください……。」
「なんで?良いじゃない。
ただのスキンシップでしょう?」
「っ……!」
テメーに馴れ馴れしく触られるのは御免被る、と言いたくなった口を何とか閉じて、出掛かった言葉を飲み下す。
帰りたい……!!
切実な想いを抱きながら、コイツを何とかしてもらおうとディーノの姿を探す。
うわ、アイツ遠くでボンゴレの幹部に捕まってんじゃねーか……!
二重の意味で助け求めづらい。
大事な客人だし、正体バレそうで恐いし。
「どこ見てるの?」
「っ!?ど、どこも……!」
「ふーん?
ねぇ、アルト、もっとオレの事見てよ。」
「え゙……。」
「いや?」
「……。」
嫌に決まってるだろうがカス!
再び暴言を吐き掛けた口を手で閉じて、ふいっと顔を逸らした。
ディーノ来い早く来いこっち来いさっさと来い……なんて呪いのように心の中で唱えながら、男の手を外そうと力を込める。
「ん?どうしたの?」
「いや、あの……本当……困るんで……。」
「恥ずかしいの?可愛い……。」
「違っ……!」
ちげーよカス、と叫びたくなる衝動を押し込める。
くそ……イタリア人の口説き癖舐めてた!
マジでしつこいぞおい、いや、コイツだけがしつこいのかもしんねぇけども!!
男の顔がやたらと近い。
本当に!勘弁!してくれ!
思いっきり顔を背けて、目を閉じた。
その時、ぱちんっと弾ける音がして、腰を拘束していた手が外れた。
代わりに肩に手が回される。
ハッとして目を開けた先には、待ちわびていた助けの姿があった。
「……おいおい、ロベルト。
いくらオレが嫌いだからって、彼女に手ぇ出すってのはどうかと思うぜ?」
「は、跳ね馬……。」
オレはディーノに抱えられるようにされていて、ディーノの体の向こうにはさっきの男が見える。
悔しげにディーノを見詰めるそいつの顔を、もう一度しっかり見てみると、見覚えがあることに気付いた。
確かボンゴレが同盟交わしてるとあるマフィアの、幹部候補、だったか……?
やべぇ、オレコイツのいるマフィアの幹部ぶん殴ったことある……、やべぇ。
「べ、別にオレは彼女と仲良く話してただけだぜ?
手を出そうとなんて……。」
「へぇ?ま、それなら良いけどさ。
お前も男なら、相手が嫌がってるかどうかくらい、ちゃんと見極めろよな?
女の子に嫌な思いさせるとか、男の風上にも置けねぇって。」
「な……!」
いつもでは考えられないくらい攻撃的な台詞を言ったディーノだったが、空いたもう片方の手で、オレの頭を優しく撫でてくれて、少しだけ、気持ちが落ち着く。
男……ロベルトは、ディーノの言葉に怒って、足音荒く人ごみの中に消えていった。
勝ち目が無いことが、わかったのだろう。
マフィアのボスと幹部候補じゃな……。
「わり、遅くなったな。」
「本当だ……バカ。
何なんだよアイツ……。」
「ゴメンごめん!
アイツ……一応学校の同期なんだけど、覚えてないか?」
「……忘れた。」
「そっか……。
まあ、同い年のオレがボスで、自分が幹部候補ってので、なんか妬まれてるみたいでさ。
ごめんな、嫌な思いさせて。」
「……お前が謝る意味が、わかんねぇよ。」
謝るべきはあの男である。
つーかオレに殴られるべきである。
もっと言えば、殴りたい。
ディーノに救出されて(情けない……)、オレは落ち着くことが出来たが、パーティーの主役であるディーノはまだまだやることがたくさんある。
ミーナの側まで連れてきてもらって、すぐにディーノとは別れることになった。
「またすぐ来るからな!」
「……わかった。」
走っていくディーノを見送るオレに、ミーナがにじり寄ってくる。
オレをこの混乱の渦に巻き込んだ一因だと言うのに、コイツからは反省の色が全く感じられない。
「ディーノ君かっこよかったわねー?
惚れ直しちゃったんじゃないの?」
「んな……わけねーだろ……。」
「言葉遣い、気を付けないとバレるわよ?」
「っ……!」
指摘されて、口をつぐむ。
クスクスと笑いながら、ミーナは楽しそうに話していた。
「だいぶ男前になったわねー、ディーノ君。
初めてあったときはへたれって感じしたんだけどっ。」
「……別に、変わってないと思うけど。」
「そーう?最近では部下がいなくても、カッコいいような気もするけど。」
「それは、ない。」
「あらま、断言?」
部下がいないときは、いつだって変わらずへなちょこだ。
「あ、そうそう。
あんたの部下から伝言。」
「?」
「仕事、自分達だけで足りるから、ちょっとだけでもゆっくり休んでください、って。」
「え……。」
「良かったわね、お休みできたし、お洒落できたし?」
「……そ、う……だな。」
先に仕事に向かっていたはずの部下達の事を思い出す。
上司思いの、いい奴ら、だと思う。
ディーノにだって、ミーナにだって、こんなに色々と目をかけてもらって。
嬉しい、というよりも、なんだか申し訳なく思えてくる。
「……今日、ありがとな。」
「うふふー、いえいえ!
あ、ほらディーノ君来たよ!」
嬉しそうに返してくれるミーナが、前方を指差す。
そこには飲み物を持ったディーノがいて、慌てて駆け寄った。
「飲み物持ってきたぜー。」
「ば……っ、オ……じゃなくて、えーと、私が、やる、から……!」
「私、ね?なんか新鮮だなー!」
「だ、うるさい……!」
からかうディーノから、自分の分の飲み物を取り上げる。
パーティーの主役が、なに気を遣ってるんだ、なんて怒鳴りたかったのに、ヘラヘラと笑うコイツを見ていたら何だか脱力してしまって、小さくため息をついて飲み物を一口飲んだ。
「……今日、ありがとう……ディーノ。」
「ん?何が?」
「ドレス、用意してくれたり、助けて、くれたり……。」
「……ふふ、んなこと一々気にすんなって!
オレの誕生日を、忙しい中わざわざ祝いに来てくれたスクアーロへの、心ばかりのお返し、って奴、なんだからさ。」
「……なんだよ、それ。」
ディーノの誕生日なのに、オレは色んなモノをもらってばかりだって、そう思って、申し訳なく感じていた。
でも、ディーノの言葉に、毒気を抜かれた、ような気がする。
一々、気にしなくても良いか。
これから先、この喜びをコイツに返してやる機会なんて、きっと山程、あるのだろうから。
「……スク」
「よぉ跳ね馬!そこにいるのお前の彼女か!?
オレにも紹介してくれよ!!」
「うわっ!ガナッシュさん!?」
ディーノが何か言い掛けた、その言葉を割って入ってきたのは、ボンゴレ9代目の雷の守護者ガナッシュ……ってオレの正体バレないかコレ!?
「よー、お嬢ちゃん、可愛いなー!
オジサンに名前教えてくれよ!」
「……アルト。」
「へー、アルトっての?
良い名前だなぁ!」
きっと、すぐ隣にいるディーノには、わかっただろう。
オレが必死で殺気を抑えていることが。
コイツ普段のオレにはキツく当たって来るくせによくもまあでれでれと鼻の下伸ばして近付いてこられるもんだな……!
その後、必死に間を取り持つディーノと、うっすら殺気を帯びるオレに、ガナッシュの野郎は数十分以上もの間絡み続けてきたわけである。
オレはもう2度と誕生日パーティーで女装はしないということを決めたのであった。
と、そう言って、ディーノはオレを残して会場の前方に作られた壇上に上がる。
取り残されたオレは、スカートの裾を握り締めて、周囲を窺う。
何と言うか、うん、視線が痛い。
女性達は睨み付けるような強烈な視線を送ってくるし、男どもは興味津々というような好奇の視線を送ってくる。
壇上のディーノは朗らかに笑いながら、客人たちに挨拶をしていた。
ああ、居づらい!凄く居づらい!!
何でこんなところに連れてきたんだよ!?
口に出して文句言うわけにもいかなくて、心の中でぶちぶちと文句を並べ立てる。
そんなことをしているうちに、ディーノの話は終わって、客人全員が手に手にグラスを持って乾杯の準備をする。
「お嬢さん、グラスをどうぞ。」
「っ……!あ、りがとう……。」
キャバッローネの奴にグラスを渡される。
こいつオレの事知ってる癖にからかいやがって……!
グラスを受け取る時に、つい恨めしげに睨んでしまう。
我ながら、ガキ臭い。
「それじゃあ、乾杯!」
乾杯の音頭に合わせて、グラスを掲げた。
グラスの中味の匂いを嗅ぐ。
あ、ジュースだ。
どうやらさっきの奴が、気を利かせてくれたらしい。
一口ジュースを飲んだときに、突然後ろから誰かが声を掛けてきた。
「お嬢さん、ちょっと良いかい?」
「ひっ…………!?」
声と一緒に肩を叩かれ、思わず肩が跳ねる。
つーか手が出そうになる。
抑えろオレ……ここで誰か殴ったりしたら非常にまずい!
強く手を握り締めて、笑顔を取り繕う。
おいこれ笑えてるのか?オレ笑えてる?
「な、何です……か……?」
「もしかして跳ね馬ディーノの恋人かい?」
「え゙……。」
「うん?違うの?」
「あ……えと、そうだ……そうです……!」
声を掛けてきたのは、たぶん同い年くらいの青年で、そのストレートな物言いに戸惑いながらも何とか答える。
うっかり普段の口調になってしまいそうだったが、そこは笑って誤魔化す。
くそ……何でコイツオレより背が高いんだよ……!もっと縮めよ、っつーかちけぇよ!!
「そっかぁ、残念だな。
もし違うんならオレが口説けたのに。」
「くっ……!?」
「でもせっかく出会えたんだし、今日は色々と話そうよ?良いでしょ?」
「へ……!?」
にこにこ、にこにこ。
目の前の男はずっと笑っている。
うん、怖い。
矢継ぎ早に問い掛けてきて、マシンガンのように話し掛けられて、オレは言葉に詰まる。
普段こんなに早く話さない、話したとしても仕事の時だけだから、すげぇ困惑する。
コイツは何なんだ、異星人か?
あと本当に近いからさっさと離れてほしい。
「可愛いなぁ。
跳ね馬の奴、こんな可愛い子のこと、どうやって口説いたんだい?」
「え……う、いや、それは……」
「跳ね馬とはどこまでいったの?」
「どっ……どこまでって……」
「そうそう、君の名前、聞いてなかったね!
教えてよ?」
「うぇ……!?な、名前……!?」
オレの答えを待つ気がないのか、次々と下世話な質問を投げ掛けてきていた野郎が、名前を聞いてきた……って、答えられる訳ねぇだろ!?
ヴァリアーのスクアーロですどーも、とか口が裂けても言えない!!
お前もこんなときだけ大人しく答え待ってんじゃねぇよ!!
必死で考えて出た名前は、かつてオレと同じ存在だった彼女の名だった。
「あ、あると……。」
「へえ、アルトって言うの?
可愛い名前だね。」
「いや……。」
本人は名前とはかけ離れて傲岸不遜な人物だったけどな!
オレが答えたことで調子に乗ったのか、男の手が腰に回ってくる。
ぞわっと背筋が逆立った。
これは無理!殴りたい!!
「そんなに固くならないで。
恐くないから、ね?」
「は、離せ……して、ください……。」
「なんで?良いじゃない。
ただのスキンシップでしょう?」
「っ……!」
テメーに馴れ馴れしく触られるのは御免被る、と言いたくなった口を何とか閉じて、出掛かった言葉を飲み下す。
帰りたい……!!
切実な想いを抱きながら、コイツを何とかしてもらおうとディーノの姿を探す。
うわ、アイツ遠くでボンゴレの幹部に捕まってんじゃねーか……!
二重の意味で助け求めづらい。
大事な客人だし、正体バレそうで恐いし。
「どこ見てるの?」
「っ!?ど、どこも……!」
「ふーん?
ねぇ、アルト、もっとオレの事見てよ。」
「え゙……。」
「いや?」
「……。」
嫌に決まってるだろうがカス!
再び暴言を吐き掛けた口を手で閉じて、ふいっと顔を逸らした。
ディーノ来い早く来いこっち来いさっさと来い……なんて呪いのように心の中で唱えながら、男の手を外そうと力を込める。
「ん?どうしたの?」
「いや、あの……本当……困るんで……。」
「恥ずかしいの?可愛い……。」
「違っ……!」
ちげーよカス、と叫びたくなる衝動を押し込める。
くそ……イタリア人の口説き癖舐めてた!
マジでしつこいぞおい、いや、コイツだけがしつこいのかもしんねぇけども!!
男の顔がやたらと近い。
本当に!勘弁!してくれ!
思いっきり顔を背けて、目を閉じた。
その時、ぱちんっと弾ける音がして、腰を拘束していた手が外れた。
代わりに肩に手が回される。
ハッとして目を開けた先には、待ちわびていた助けの姿があった。
「……おいおい、ロベルト。
いくらオレが嫌いだからって、彼女に手ぇ出すってのはどうかと思うぜ?」
「は、跳ね馬……。」
オレはディーノに抱えられるようにされていて、ディーノの体の向こうにはさっきの男が見える。
悔しげにディーノを見詰めるそいつの顔を、もう一度しっかり見てみると、見覚えがあることに気付いた。
確かボンゴレが同盟交わしてるとあるマフィアの、幹部候補、だったか……?
やべぇ、オレコイツのいるマフィアの幹部ぶん殴ったことある……、やべぇ。
「べ、別にオレは彼女と仲良く話してただけだぜ?
手を出そうとなんて……。」
「へぇ?ま、それなら良いけどさ。
お前も男なら、相手が嫌がってるかどうかくらい、ちゃんと見極めろよな?
女の子に嫌な思いさせるとか、男の風上にも置けねぇって。」
「な……!」
いつもでは考えられないくらい攻撃的な台詞を言ったディーノだったが、空いたもう片方の手で、オレの頭を優しく撫でてくれて、少しだけ、気持ちが落ち着く。
男……ロベルトは、ディーノの言葉に怒って、足音荒く人ごみの中に消えていった。
勝ち目が無いことが、わかったのだろう。
マフィアのボスと幹部候補じゃな……。
「わり、遅くなったな。」
「本当だ……バカ。
何なんだよアイツ……。」
「ゴメンごめん!
アイツ……一応学校の同期なんだけど、覚えてないか?」
「……忘れた。」
「そっか……。
まあ、同い年のオレがボスで、自分が幹部候補ってので、なんか妬まれてるみたいでさ。
ごめんな、嫌な思いさせて。」
「……お前が謝る意味が、わかんねぇよ。」
謝るべきはあの男である。
つーかオレに殴られるべきである。
もっと言えば、殴りたい。
ディーノに救出されて(情けない……)、オレは落ち着くことが出来たが、パーティーの主役であるディーノはまだまだやることがたくさんある。
ミーナの側まで連れてきてもらって、すぐにディーノとは別れることになった。
「またすぐ来るからな!」
「……わかった。」
走っていくディーノを見送るオレに、ミーナがにじり寄ってくる。
オレをこの混乱の渦に巻き込んだ一因だと言うのに、コイツからは反省の色が全く感じられない。
「ディーノ君かっこよかったわねー?
惚れ直しちゃったんじゃないの?」
「んな……わけねーだろ……。」
「言葉遣い、気を付けないとバレるわよ?」
「っ……!」
指摘されて、口をつぐむ。
クスクスと笑いながら、ミーナは楽しそうに話していた。
「だいぶ男前になったわねー、ディーノ君。
初めてあったときはへたれって感じしたんだけどっ。」
「……別に、変わってないと思うけど。」
「そーう?最近では部下がいなくても、カッコいいような気もするけど。」
「それは、ない。」
「あらま、断言?」
部下がいないときは、いつだって変わらずへなちょこだ。
「あ、そうそう。
あんたの部下から伝言。」
「?」
「仕事、自分達だけで足りるから、ちょっとだけでもゆっくり休んでください、って。」
「え……。」
「良かったわね、お休みできたし、お洒落できたし?」
「……そ、う……だな。」
先に仕事に向かっていたはずの部下達の事を思い出す。
上司思いの、いい奴ら、だと思う。
ディーノにだって、ミーナにだって、こんなに色々と目をかけてもらって。
嬉しい、というよりも、なんだか申し訳なく思えてくる。
「……今日、ありがとな。」
「うふふー、いえいえ!
あ、ほらディーノ君来たよ!」
嬉しそうに返してくれるミーナが、前方を指差す。
そこには飲み物を持ったディーノがいて、慌てて駆け寄った。
「飲み物持ってきたぜー。」
「ば……っ、オ……じゃなくて、えーと、私が、やる、から……!」
「私、ね?なんか新鮮だなー!」
「だ、うるさい……!」
からかうディーノから、自分の分の飲み物を取り上げる。
パーティーの主役が、なに気を遣ってるんだ、なんて怒鳴りたかったのに、ヘラヘラと笑うコイツを見ていたら何だか脱力してしまって、小さくため息をついて飲み物を一口飲んだ。
「……今日、ありがとう……ディーノ。」
「ん?何が?」
「ドレス、用意してくれたり、助けて、くれたり……。」
「……ふふ、んなこと一々気にすんなって!
オレの誕生日を、忙しい中わざわざ祝いに来てくれたスクアーロへの、心ばかりのお返し、って奴、なんだからさ。」
「……なんだよ、それ。」
ディーノの誕生日なのに、オレは色んなモノをもらってばかりだって、そう思って、申し訳なく感じていた。
でも、ディーノの言葉に、毒気を抜かれた、ような気がする。
一々、気にしなくても良いか。
これから先、この喜びをコイツに返してやる機会なんて、きっと山程、あるのだろうから。
「……スク」
「よぉ跳ね馬!そこにいるのお前の彼女か!?
オレにも紹介してくれよ!!」
「うわっ!ガナッシュさん!?」
ディーノが何か言い掛けた、その言葉を割って入ってきたのは、ボンゴレ9代目の雷の守護者ガナッシュ……ってオレの正体バレないかコレ!?
「よー、お嬢ちゃん、可愛いなー!
オジサンに名前教えてくれよ!」
「……アルト。」
「へー、アルトっての?
良い名前だなぁ!」
きっと、すぐ隣にいるディーノには、わかっただろう。
オレが必死で殺気を抑えていることが。
コイツ普段のオレにはキツく当たって来るくせによくもまあでれでれと鼻の下伸ばして近付いてこられるもんだな……!
その後、必死に間を取り持つディーノと、うっすら殺気を帯びるオレに、ガナッシュの野郎は数十分以上もの間絡み続けてきたわけである。
オレはもう2度と誕生日パーティーで女装はしないということを決めたのであった。