隣には君
まさか……まさか、まさかまさか!!
「このオレがこんな格好するなんて……!!」
「こんな格好って……、オレはすげー似合ってると思うぜ?
まあ、髪の色変えてるのは、ちょっと残念だけどなー。」
「似合ってるとか、そう言う問題じゃねぇんだよ!」
日付は2月4日、時刻は10時30分。
オレはミーナと、キャバッローネの女性使用人達の手によって、いつもなら絶対にしないような格好に着替えさせられていた。
暗い赤紫色のドレスに黒いショール。
ディーノのバカは似合ってるとか言ってくるけど、大事なのはそこじゃない。
オレが仕事ほっぽって、女みたいな格好して、しかも、ディーノの連れとして公の場所に出なくちゃいけないって事だ。
「絶対に外には出ねぇからなぁ!
ここから動かないからなぁ!!」
「何でだよ!
パーティーの間、オレの隣にいてくれりゃそれで良いんだぜ!?」
「衆人環視の中にこんな格好で出ていく位なら客人全員始末する方がましだ!!」
「いや客人を巻き込むなよ!?」
当たり前の事だが、オレは全力で嫌がってドアの枠にしがみつく。
それを引き剥がそうと、ディーノが羽交い締めにする要領でがっしり捕まえて引っ張ってくる。
本日の主役であるディーノも、きちんとした正装に身を包んでいるのだが、折角のタキシードもオレが暴れるせいで乱れてしまっている。
「オレの事は放っておいてさっさと行けばいいだろぉ!?」
「……そっか、スクアーロ、そんなにオレの隣を歩くのが嫌だったのか……。」
「は……はあ!?」
「スクアーロがそんなに嫌がるんじゃ、仕方ねぇよな……。
これ以上は何にも言わねぇよ。
嫌なんだもんな?
仕方ねぇよ、うん……。」
「ち、ちがっ……そう言うことじゃねぇ!!」
イヤだイヤだと暴れていたら、突然ディーノの力が緩む。
それと同時に、オレの背中にとてつもなく重く暗い声が掛かる。
振り向くとそこには絶望しましたっつー何とも情けない顔をしたディーノの姿。
慌てて、言い訳のような慰めのような、よくわからない言葉を口走る。
「お前の隣が歩きたくないとかそう言うことじゃねぇよ!!
オレはただこの格好を人に見られるのが嫌ってだけで……!」
「良いんだよスクアーロ……、どうせオレみたいな冴えない男の隣を歩きたいなんて思う奴はいねぇんだ……。
そうだよ、うん……オレもう今日のパーティー欠席するわ。」
「何言ってんだぁ!?
お前が主役なのに出ないなんてあり得ねぇだろうが!
つーか別に冴えなくねーって!
決まってるぜ今のお前!」
「……本当に?」
「決まってる!すげぇイケてる!!」
「隣歩きたくなるくらい?」
「もう隣から離れられないくらい!!
……あ゙。」
にっこり、と、ディーノが笑う。
オレの頬には冷や汗が一筋伝う。
乗せられた……!と、気付いたときにはもう手遅れで、あっという間にドアから引き剥がされると、オレはディーノに引き摺られるようにして、パーティー会場へと連れていかれたのである。
* * *
「スクアーロに二言はないよな?」
「そ、それは……。」
「ないよな。」
「ない……です……。」
言質を取られて、オレは仕方なく、本当に!仕方なーく!ディーノと一緒にパーティー会場へと向かった。
腰には手が回されていて、手を取られて歩く……つまり紳士的にエスコートされる。
そんなことされた経験なんて無くて、必要以上に緊張してしまう。
慣れないハイヒールで転んだらどうしようとか、もし自分の正体がバレたらどうしようとか、ディーノに恥かかせたらどうしようとか、そんな考えばっかりが頭の中を駆け巡る。
途中であったミーナとロマーリオに、崩れた身嗜みを整えてもらったときに、何か言われた気がするけれど、その内容すらも頭に入ってこなかった。
「……そんな緊張すんなって。」
「うぇっ!?
き、緊張なんてしし、してねぇし……っ!!」
「プッ!あはは……噛み噛み!」
「う、うるせぇよ!」
「お淑やかにしてないと、ヴァリアーのスクアーロってバレちまうぜ?
オレはバレたって一向に構わないけど。」
「っ!もう……しゃべらない……!」
「ふふ、そっか?」
パーティーの会場は、キャバッローネの屋敷の大広間で、そこに入るドアの前で、一旦立ち止まって、深呼吸をする。
……女の格好してるし、髪の色も変えてる。
言葉と態度にさえ気を付ければ、オレの正体に気が付く人間なんていないはず……!
今もしこの場にいる誰かに、「どれくらい緊張してる?」と聞かれたら、オレは「剣帝との勝負の前より緊張してる」と答えるだろう。
それくらい緊張してる。
ド緊張してる。
ディーノが扉に手を掛けたのを見て、オレは大きく息を吸う。
ディーノに支えられている右手に、思わず力が入る。
開いた扉の向こうへと足を踏み出したオレとディーノは、たくさんの祝いの言葉と歓声に包まれた。
「このオレがこんな格好するなんて……!!」
「こんな格好って……、オレはすげー似合ってると思うぜ?
まあ、髪の色変えてるのは、ちょっと残念だけどなー。」
「似合ってるとか、そう言う問題じゃねぇんだよ!」
日付は2月4日、時刻は10時30分。
オレはミーナと、キャバッローネの女性使用人達の手によって、いつもなら絶対にしないような格好に着替えさせられていた。
暗い赤紫色のドレスに黒いショール。
ディーノのバカは似合ってるとか言ってくるけど、大事なのはそこじゃない。
オレが仕事ほっぽって、女みたいな格好して、しかも、ディーノの連れとして公の場所に出なくちゃいけないって事だ。
「絶対に外には出ねぇからなぁ!
ここから動かないからなぁ!!」
「何でだよ!
パーティーの間、オレの隣にいてくれりゃそれで良いんだぜ!?」
「衆人環視の中にこんな格好で出ていく位なら客人全員始末する方がましだ!!」
「いや客人を巻き込むなよ!?」
当たり前の事だが、オレは全力で嫌がってドアの枠にしがみつく。
それを引き剥がそうと、ディーノが羽交い締めにする要領でがっしり捕まえて引っ張ってくる。
本日の主役であるディーノも、きちんとした正装に身を包んでいるのだが、折角のタキシードもオレが暴れるせいで乱れてしまっている。
「オレの事は放っておいてさっさと行けばいいだろぉ!?」
「……そっか、スクアーロ、そんなにオレの隣を歩くのが嫌だったのか……。」
「は……はあ!?」
「スクアーロがそんなに嫌がるんじゃ、仕方ねぇよな……。
これ以上は何にも言わねぇよ。
嫌なんだもんな?
仕方ねぇよ、うん……。」
「ち、ちがっ……そう言うことじゃねぇ!!」
イヤだイヤだと暴れていたら、突然ディーノの力が緩む。
それと同時に、オレの背中にとてつもなく重く暗い声が掛かる。
振り向くとそこには絶望しましたっつー何とも情けない顔をしたディーノの姿。
慌てて、言い訳のような慰めのような、よくわからない言葉を口走る。
「お前の隣が歩きたくないとかそう言うことじゃねぇよ!!
オレはただこの格好を人に見られるのが嫌ってだけで……!」
「良いんだよスクアーロ……、どうせオレみたいな冴えない男の隣を歩きたいなんて思う奴はいねぇんだ……。
そうだよ、うん……オレもう今日のパーティー欠席するわ。」
「何言ってんだぁ!?
お前が主役なのに出ないなんてあり得ねぇだろうが!
つーか別に冴えなくねーって!
決まってるぜ今のお前!」
「……本当に?」
「決まってる!すげぇイケてる!!」
「隣歩きたくなるくらい?」
「もう隣から離れられないくらい!!
……あ゙。」
にっこり、と、ディーノが笑う。
オレの頬には冷や汗が一筋伝う。
乗せられた……!と、気付いたときにはもう手遅れで、あっという間にドアから引き剥がされると、オレはディーノに引き摺られるようにして、パーティー会場へと連れていかれたのである。
* * *
「スクアーロに二言はないよな?」
「そ、それは……。」
「ないよな。」
「ない……です……。」
言質を取られて、オレは仕方なく、本当に!仕方なーく!ディーノと一緒にパーティー会場へと向かった。
腰には手が回されていて、手を取られて歩く……つまり紳士的にエスコートされる。
そんなことされた経験なんて無くて、必要以上に緊張してしまう。
慣れないハイヒールで転んだらどうしようとか、もし自分の正体がバレたらどうしようとか、ディーノに恥かかせたらどうしようとか、そんな考えばっかりが頭の中を駆け巡る。
途中であったミーナとロマーリオに、崩れた身嗜みを整えてもらったときに、何か言われた気がするけれど、その内容すらも頭に入ってこなかった。
「……そんな緊張すんなって。」
「うぇっ!?
き、緊張なんてしし、してねぇし……っ!!」
「プッ!あはは……噛み噛み!」
「う、うるせぇよ!」
「お淑やかにしてないと、ヴァリアーのスクアーロってバレちまうぜ?
オレはバレたって一向に構わないけど。」
「っ!もう……しゃべらない……!」
「ふふ、そっか?」
パーティーの会場は、キャバッローネの屋敷の大広間で、そこに入るドアの前で、一旦立ち止まって、深呼吸をする。
……女の格好してるし、髪の色も変えてる。
言葉と態度にさえ気を付ければ、オレの正体に気が付く人間なんていないはず……!
今もしこの場にいる誰かに、「どれくらい緊張してる?」と聞かれたら、オレは「剣帝との勝負の前より緊張してる」と答えるだろう。
それくらい緊張してる。
ド緊張してる。
ディーノが扉に手を掛けたのを見て、オレは大きく息を吸う。
ディーノに支えられている右手に、思わず力が入る。
開いた扉の向こうへと足を踏み出したオレとディーノは、たくさんの祝いの言葉と歓声に包まれた。