ボンゴレ的クリスマス!?

12月24日、午後11時50分、とある教会の側の小さな建物の前で、二人の人物がこそこそと暗がりで身を潜めていた。

「いいか跳ね馬ぁ……。
『絶対に気付かれるな』
これだけはマジで守れよ。」
「任せろスクアーロ!
潜入任務は専門外だが……ゼッテー上手くやる!」
「よし、あの窓から合図が送られてきたら中に入るぞぉ。」

隠れているのは跳ね馬ことキャバッローネのボス、ディーノと、ヴァリアーの作戦隊長スペルビ・スクアーロである。
裏社会の中では大物の枠に入るだろう二人が、クリスマスの夜に一体何をしているのだろうか……。
暫くの間、寒そうに身を寄せあっていた二人だったが、突然2階の窓から小さな光が点滅したのを見ると、いそいそと立ち上がって建物の中に入った。
二人の内スクアーロは、大きな布の袋を大事そうに抱えていて、時折袋の中からは固いものが触れ合う音が聞こえてくる。
音もなく扉を開けて中に入った二人を、一人の女性が出迎えた。

「二人ともお疲れ様。
というか本当に良かったの?
折角のクリスマスなのにこんなことさせちゃって……。」
「大事なことだろぉ。
ほら、こっち配れよ。」
「はいはい。」

女性と二人は、二手に別れて移動し始める。
彼らが入った部屋の中には、スヤスヤと寝息を立てる子供たちがいた。

「……、……。」
「……!……。」

二人は無言のまま、手信号で合図をし合うと、子ども達の枕元に移動して袋の中のモノを取り出した。
赤や緑を基調としたポップなデザインの包装紙……クリスマスプレゼントである。
手早くプレゼントを置いて部屋を出た後、ディーノはふはっと息を吐いて呟く。

「何か裏社会の大物二人が集まってサンタクロースしてるって……面白いよな……。」
「……別にオレは、一人だけでも良かったんだがな。」
「オレ邪魔だったか?」
「別に……そう言う訳じゃねぇよ。」

むくれてそう言うスクアーロの背中を、口許に笑みを浮かべながら押して、ディーノは次の部屋に入る。
何度かそんなことを続けて、ようやくプレゼントを配り終えた頃には、時計は既に12時20分を指していた。

「お仕事しゅーりょー!
スクちゃん、ディーノ君、今日は助かったわ、ありがとう。」
「いやいや、サンタ気分が味わえて楽しかったぜ。」
「まあ、毎年の事だしなぁ。」

再び合流した女性、ミーナと3人で話ながら歩く。
どうやら二人はこのままヴァリアーに戻るつもりのようだった。

「今うちでパーティーしてて……お前もくるかぁ?」
「んー、行きたい気持ちは山々なんだけど……私明日朝から仕事なのよ。
クリスマスは書き入れ時だからね!」
「そうかぁ……残念だな。」
「ミーナの分までオレらが楽しんできてやるよ!」
「ふふー、じゃあ思いっきり楽しんできてよね!」
「お゙う。」

ミーナに見送られて、二人は深夜の街を歩いていく。

「たまにはこんなクリスマスも良いよなー。
久々にしっかり、クリスマスを楽しんだって感じだ。」
「そうだな……、自分にも子どもがいたら、きっと毎年こんな風に、クリスマスを楽しむんだろうなぁ……。」
「え……。」

白い息を吐きながら、チラリと後ろの建物を振り返って言うスクアーロを、ディーノははたと足を止めて凝視する。
自分の子ども……スクアーロの子ども……と言うことはつまり、父親がいるって訳で、それってもしかして……。

「ス、スクアーロ……?」
「ああ゙?どうかしたかぁ?」

突然立ち止まったディーノを不思議そうに眺めるスクアーロは、何か考えがあって話していた訳ではないらしく、ただキョトンとディーノを見詰めるばかりである。
自分が想像した事を言うのは、何となく憚られて、ディーノは顔を赤くしながら、何でもないとだけ言って、もう一度彼女の隣に並んだ。
自分だけが意識しているようで、なんだか恥ずかしい。
赤くなった顔は直ぐに、冬の風に冷やされていく。

「あー、えっと……さ、寒いな!」
「?クリスマスだからな……。
これからもっと寒くなるだろうな。」
「冬だもんな……!」
「……そんなに寒いかぁ?」

顔を覗き込むようにして見てくる彼女から、ディーノは気まずそうに視線を背ける。

「……顔、赤いけど。」
「い、いやぁ……寒いから、な?
ほら、手もこんなに冷たくなっちゃったし……!」
「手?」

ディーノの言う通り、見せ付けるように広げた手は冷えきっていて、それに触れて確認したスクアーロは、そのまま指を絡めて、その手をしっかりと握った。

「こーすりゃあ、ちょっとは違うだろ。」
「へ……?」
「手、少しは暖かくなるだろぉ。」

握った手をそのままに、スクアーロはマフラーに顔を埋めて歩き出す。
引っ張られるままに歩き出したディーノは、呆然と握られた自分の手を見詰める。

「スクアーロ……?」
「ああ゙?」
「……クリスマスって良いな。」
「何言ってんだぁ、お前。」

バカにしたような視線を向けられても、繋いだ手が離れることはなく、ディーノは幸せそうなにやけ面のまま、スクアーロに寄り添う。

「歩きづれぇ……、離れろ。」
「えー、良いじゃねぇかこれくらい。
クリスマスなんだしさ。」

不満そうな声で言いながらも、楽しそうに笑うディーノに、スクアーロもまた毒気を抜かれたようにふっと口角を上げる。

「……ま、クリスマスだからなぁ。」

くっついて歩く二人がヴァリアーに着いたとき、会う人会う人に散々冷やかされ、スクアーロがぶちギレてもまだ、手は繋がったままだった。
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