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復讐は七味唐辛子味
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「まったく!
多々良、お前何をしたんだ!?」
「……追い詰められたら、噛み付かれた。
たぶん、そういうことなんだろうと、思いますが……。」
混乱が収まらないまま、私達は文芸部の部室に引き上げてきていた。
抜けきらないショックをそのままに、ソファーに座り込んで額を押さえる。
アレは、なに……?
自分と同じ人間だとは、到底思えない。
「先生は……どうしてあの場に?」
ポツリと黒子君が発した疑問に、先生もまた混乱した様子で答える。
「多々良からメールをもらったんだ。
今からバスケ部に行くから、何かあったらお願いします、ってな。」
怒ってたし、イラついていたけれど、報告を忘れなかったあの時の私、偉いわ。
もしあの場に先生が来ていなかったらどうなっていたのか、想像もしたくない。
「本当に……どうしたんだ、あいつら?
正気には見えなかったぜ……。」
「蛍ちゃんが……、蛍ちゃんが無茶するから!」
「え……?」
戻ってきてから、ずっと黙り込んでいた桃井さんが、突然立ち上がって私の手を掴む。
い、たい……。
「桃井、さん……?」
「怒ってたのはわかるけど!
殴って良いとか、いきなり相手を追い詰めようとか、なんであんなに無茶なことばっかりしたの!?
本当に殴られるかもとか、怪我するかもとかって、考えなかったの!?」
「え……それは……考えたけど……あの」
「こ、恐かったんだよ……?
蛍ちゃんは、スゴいけど……でも怪我しない保証はどこにもないんだよ?
わ、わたし……わたし本当に……恐かったんだよ……!」
「桃井さん……!?」
大きな瞳から、ボロボロと涙の雫が零れ落ちていく。
慌ててハンカチを出して、拭ってあげようとしたけれど、それよりも早く桃井さんに抱き付かれた。
本格的にわんわんと泣き出してしまった彼女に、私はどうすることもできなくない。
だって……どうすれば良いの?
困り果てて先生に視線を向けたら、向こうも困り果てた顔をしていた。
「うぁぁあん!ばかぁ!
蛍ちゃんのばかぁ!」
「あ、あの……ごめん、なさい。
お願いだから泣かないで、ね?」
「泣いてないもん!
ふぇ……怒ってるの!」
「な、泣いてるじゃない!」
「うるざぃいい!」
ぺちぺちと肩を叩かれて、私も泣きそうになる。
どうしろって言うのよ、もう。
「……桃井はそっとしておくとしてだな。」
「ほ、放置しないでください先生!」
「……黒子、とりあえず何があったのか、お前は話せるな?」
「あ……はい。」
無情にも放置されて、私はどうしようもなく、ただただ桃井さんの頭を撫でて落ち着かせようと試みる。
彼女が落ち着き始める頃には、黒子君の話も終わっていた。
「うぅん……話はわかったが……訳がわからんなぁ。」
「すみません、僕も話していて、訳がわからない。
まるで、悪夢でも見ているようでした。」
「……あながち、多々良が言っていたことも間違えてなかった、のか?」
「多々良さんが、言ったこと?」
不思議そうに首をかしげて、黒子君がこちらを見る。
思い当たることがあった私は、頷いて口を開いた。
「蘇芳瑠璃子の、『魅了』の能力。」
「『魅了』……ですか?」
「まるであの女のしていることが、超能力か何かのように思えて、そんな仮説を立てたの。
彼女には人を魅了し、思うがままに操る能力がある、って言うね。
ただしそれには、条件がある。」
「条件、とは?」
「ハッキリとはわからないわ。
でも、年齢と、彼女の認識が関わっているのは間違いないでしょうね。」
「アイツが敵視しているもの、アイツの認識の外にあるもの、そして一定の年齢層以外の者達は、蘇芳瑠璃子に恐怖心やらなんやらを抱いているってな。」
「全部私の調べて考えたことじゃないですか、先生。
なに得意気に語ってるんです。」
「うぐ……。」
言葉に詰まった先生にため息を吐いた。
いつもならもっと色々言うんだけれど、今日はもう、続く言葉が出てこない。
疲労しているのね……、自分で思って、いるよりも。
「……ぐす、でもそれ、なんかファンタジーみたい……。」
「……そうね。
まるでお伽噺みたいな話だけれど、でもあれを見た今なら、信じられる。
蘇芳は、あの女は、人智を越えた能力を有している。」
「マジかよ……。」
先生の頬がひきつっている。
黒子君の顔が青い。
桃井さんの手が、ぎゅっと力を込めて私の手を握っている。
でも私には、それしか考えられない。
バカだから特になにも考えずに適当な嘘をついていたんじゃなかった。
嘘がバレても問題がなかったから、何も考えないで適当なことばっかりしてたんだわ。
始めに追い詰めようとしたときも、今日追い詰めたときも、奴は本当は追い詰められてなんかいなかった。
もしかしたら、楽しんでさえいたのかもしれない。
「恐ろしい、奴……。」
「僕達は、一体これから、どうすれば良いのでしょうか……。」
「どうするもこうするも、どうにかしなけりゃなるめーよ。」
「どうしよう、みんな……あんな風になっちゃったら……。」
「……。」
重たい空気が、部室に下りる。
だが、何か……何か逃れる方法はあるはず。
操られた人々を元に戻す方法も、きっとあるはず……。
……いえ、もしかしたら、そう信じて自分を安心させようとしているだけなのかもしれない。
だって、あの時、私は本当に、恐怖で震えていた。
あの女は、恐ろしい。
「……大丈夫、ですよ。」
「え……?」
でも黒子君は、そう言った。
声は少し震えていたし、強がりだってわかっていたけれど、それでも彼はそう言った。
「弱点のない人なんていません。
特技のない人がいないように、人間誰しもが、弱い部分を持っている。」
あ、特技の話……。
それは確か、私が彼に、した話だ。
「あの人に負けてはいけません。
負けたら、彼女に取られたみんなは、きっと戻ってこられなくなってしまう。」
「そ……そうだ……よね。
大ちゃんも、きーちゃんも、むっ君も、緑間君も、赤司君も、みんな、あのままアイツの、操り人形になっちゃう……!」
「放っておけば、この学校そのものがやべぇしな。」
「……多々良さん、僕は彼女と戦います。
もし、もし良かったら、あなたの力を貸してほしい。」
黒子君達には、助けたい人がいる。
先生だって、立ち向かうつもりだろう。
私は?私は、どうなんだろう。
「……アレに操られた人達に、興味なんてないわ。」
「蛍ちゃん……。」
「……でも、乗り掛かった船よ。
何より、あれだけ好き勝手されといて逃げるなんて、私のプライドが許さない。」
「っ!じゃあ……。」
「あの女を、叩きのめすわ。
私にも、協力させて。」
「ありがとうございます!」
「ありがとう蛍ちゃん!
大好き!!」
あの女は、全霊をもって叩きのめす。
その為に何をするのか、私達は考え始めた。
多々良、お前何をしたんだ!?」
「……追い詰められたら、噛み付かれた。
たぶん、そういうことなんだろうと、思いますが……。」
混乱が収まらないまま、私達は文芸部の部室に引き上げてきていた。
抜けきらないショックをそのままに、ソファーに座り込んで額を押さえる。
アレは、なに……?
自分と同じ人間だとは、到底思えない。
「先生は……どうしてあの場に?」
ポツリと黒子君が発した疑問に、先生もまた混乱した様子で答える。
「多々良からメールをもらったんだ。
今からバスケ部に行くから、何かあったらお願いします、ってな。」
怒ってたし、イラついていたけれど、報告を忘れなかったあの時の私、偉いわ。
もしあの場に先生が来ていなかったらどうなっていたのか、想像もしたくない。
「本当に……どうしたんだ、あいつら?
正気には見えなかったぜ……。」
「蛍ちゃんが……、蛍ちゃんが無茶するから!」
「え……?」
戻ってきてから、ずっと黙り込んでいた桃井さんが、突然立ち上がって私の手を掴む。
い、たい……。
「桃井、さん……?」
「怒ってたのはわかるけど!
殴って良いとか、いきなり相手を追い詰めようとか、なんであんなに無茶なことばっかりしたの!?
本当に殴られるかもとか、怪我するかもとかって、考えなかったの!?」
「え……それは……考えたけど……あの」
「こ、恐かったんだよ……?
蛍ちゃんは、スゴいけど……でも怪我しない保証はどこにもないんだよ?
わ、わたし……わたし本当に……恐かったんだよ……!」
「桃井さん……!?」
大きな瞳から、ボロボロと涙の雫が零れ落ちていく。
慌ててハンカチを出して、拭ってあげようとしたけれど、それよりも早く桃井さんに抱き付かれた。
本格的にわんわんと泣き出してしまった彼女に、私はどうすることもできなくない。
だって……どうすれば良いの?
困り果てて先生に視線を向けたら、向こうも困り果てた顔をしていた。
「うぁぁあん!ばかぁ!
蛍ちゃんのばかぁ!」
「あ、あの……ごめん、なさい。
お願いだから泣かないで、ね?」
「泣いてないもん!
ふぇ……怒ってるの!」
「な、泣いてるじゃない!」
「うるざぃいい!」
ぺちぺちと肩を叩かれて、私も泣きそうになる。
どうしろって言うのよ、もう。
「……桃井はそっとしておくとしてだな。」
「ほ、放置しないでください先生!」
「……黒子、とりあえず何があったのか、お前は話せるな?」
「あ……はい。」
無情にも放置されて、私はどうしようもなく、ただただ桃井さんの頭を撫でて落ち着かせようと試みる。
彼女が落ち着き始める頃には、黒子君の話も終わっていた。
「うぅん……話はわかったが……訳がわからんなぁ。」
「すみません、僕も話していて、訳がわからない。
まるで、悪夢でも見ているようでした。」
「……あながち、多々良が言っていたことも間違えてなかった、のか?」
「多々良さんが、言ったこと?」
不思議そうに首をかしげて、黒子君がこちらを見る。
思い当たることがあった私は、頷いて口を開いた。
「蘇芳瑠璃子の、『魅了』の能力。」
「『魅了』……ですか?」
「まるであの女のしていることが、超能力か何かのように思えて、そんな仮説を立てたの。
彼女には人を魅了し、思うがままに操る能力がある、って言うね。
ただしそれには、条件がある。」
「条件、とは?」
「ハッキリとはわからないわ。
でも、年齢と、彼女の認識が関わっているのは間違いないでしょうね。」
「アイツが敵視しているもの、アイツの認識の外にあるもの、そして一定の年齢層以外の者達は、蘇芳瑠璃子に恐怖心やらなんやらを抱いているってな。」
「全部私の調べて考えたことじゃないですか、先生。
なに得意気に語ってるんです。」
「うぐ……。」
言葉に詰まった先生にため息を吐いた。
いつもならもっと色々言うんだけれど、今日はもう、続く言葉が出てこない。
疲労しているのね……、自分で思って、いるよりも。
「……ぐす、でもそれ、なんかファンタジーみたい……。」
「……そうね。
まるでお伽噺みたいな話だけれど、でもあれを見た今なら、信じられる。
蘇芳は、あの女は、人智を越えた能力を有している。」
「マジかよ……。」
先生の頬がひきつっている。
黒子君の顔が青い。
桃井さんの手が、ぎゅっと力を込めて私の手を握っている。
でも私には、それしか考えられない。
バカだから特になにも考えずに適当な嘘をついていたんじゃなかった。
嘘がバレても問題がなかったから、何も考えないで適当なことばっかりしてたんだわ。
始めに追い詰めようとしたときも、今日追い詰めたときも、奴は本当は追い詰められてなんかいなかった。
もしかしたら、楽しんでさえいたのかもしれない。
「恐ろしい、奴……。」
「僕達は、一体これから、どうすれば良いのでしょうか……。」
「どうするもこうするも、どうにかしなけりゃなるめーよ。」
「どうしよう、みんな……あんな風になっちゃったら……。」
「……。」
重たい空気が、部室に下りる。
だが、何か……何か逃れる方法はあるはず。
操られた人々を元に戻す方法も、きっとあるはず……。
……いえ、もしかしたら、そう信じて自分を安心させようとしているだけなのかもしれない。
だって、あの時、私は本当に、恐怖で震えていた。
あの女は、恐ろしい。
「……大丈夫、ですよ。」
「え……?」
でも黒子君は、そう言った。
声は少し震えていたし、強がりだってわかっていたけれど、それでも彼はそう言った。
「弱点のない人なんていません。
特技のない人がいないように、人間誰しもが、弱い部分を持っている。」
あ、特技の話……。
それは確か、私が彼に、した話だ。
「あの人に負けてはいけません。
負けたら、彼女に取られたみんなは、きっと戻ってこられなくなってしまう。」
「そ……そうだ……よね。
大ちゃんも、きーちゃんも、むっ君も、緑間君も、赤司君も、みんな、あのままアイツの、操り人形になっちゃう……!」
「放っておけば、この学校そのものがやべぇしな。」
「……多々良さん、僕は彼女と戦います。
もし、もし良かったら、あなたの力を貸してほしい。」
黒子君達には、助けたい人がいる。
先生だって、立ち向かうつもりだろう。
私は?私は、どうなんだろう。
「……アレに操られた人達に、興味なんてないわ。」
「蛍ちゃん……。」
「……でも、乗り掛かった船よ。
何より、あれだけ好き勝手されといて逃げるなんて、私のプライドが許さない。」
「っ!じゃあ……。」
「あの女を、叩きのめすわ。
私にも、協力させて。」
「ありがとうございます!」
「ありがとう蛍ちゃん!
大好き!!」
あの女は、全霊をもって叩きのめす。
その為に何をするのか、私達は考え始めた。
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