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三人寄れば文殊もため息
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「それ、僕もお手伝いして良いですか?」
「え……、喫茶店を?
でも……あなたまで私達と同じ扱い受けることになるかもしれないし……、それにクラスの出し物は……。」
「それくらい大したことじゃありません。
……クラスの出し物は僕の影の薄さでやり過ごして見せます。」
「それは……どや顔で言うことじゃないわ。
でも、あの、……ありがとう。
頼んでも良いかしら?」
「勿論です。」
「テツくんカッコいい!」
なんていうことを話して、文化祭の文芸部喫茶店は、新たに黒子君というスタッフを受け入れることとなったのだった。
心の中ではお祭り騒ぎだけど顔筋を全稼働させてポーカーフェイスを張り付ける。
黒子君が来るなら、制服、カッコいいのにしよう、絶対に。
「それとバスケ部の様子ですが……、今日は特に目立った動きはありませんでした。」
「……まあ、今朝のあれでまた何かやらかすとも思えないわよね。」
「でも向こうも黙ってはいられないと思うし……、変わらず気を抜かないようにしないとね!」
そう、気を付けなければならない。
罪の意識のない人間は、どんなことだってしてくるんだから。
そう、例えば、こんな風に……。
「これ、あなたのかしらぁ?」
桃井さんを送り届けて、黒子君とも別れた後、私の背に甘ったるい声と共に、人が倒れる音が届いた。
振り向くとそこにいたのはボロボロになって倒れるワンちゃんと、ガタイの良い男たちに囲まれた蘇芳瑠璃子の姿。
「……あら、確かに私のよ。
悪いわね、拾ってもらっちゃって。」
「良いんだよぉ?
そっちは大して気にしてないしぃ。
でもねぇ?その人が何してたのかはぁ、瑠璃子すぅっごぉーく、気になるのぉ。」
……まともに喋ったのは、あの体育館での一度きりだから、あまり意識してなかったけど、この女、しゃべり方がムカつくことこの上ないわ。
私は蘇芳の言葉には答えないで、ワンちゃんにゆっくりと近付く。
「ワンちゃん、起きなさい。」
「っ……蛍さ……すいま、せん。」
「……ま、何があったかは後で聞いてあげるわ。
それより、これが何をしていたのか、気になると言ったわね。」
「そうだよぉ。」
「私は知らないわよ。
何故、私が知っていると思ったのかしら。」
「っ!だってぇ、その人最近、地味で冴えない女に入れ込んでるって噂で有名なんだってよぉ?」
「それで、私がこれに命令して動かしてる、と、思ったの。
確かに、私は『地味』で『冴えない』かもしれないけれど……酷いわ、それだけで私を疑ったの?」
「あらぁ?でもぉ、私の周りを嗅ぎ回るような人ってぇ、あなた達くらいしか思い付かないんだもぉん。」
「ふぅん、短慮ね。
まあ、結果これが私のだと正しい結論が出されてしまったのだし、私も言い返せないわねぇ?
困ったわぁ。」
「っ!う、ふふ……、で、ホントに知らないのぉ?」
ひくりと蘇芳の眉が跳ね上がるのを見て、私はせせら笑った。
随分と余裕がないようね。
「残念ながら、知らないわね。
それより、そういうあなたは……そんなにたくさん男の人を連れて何をするのかしら?」
「あらぁ、わからないのぉ?
この人達ぃ、みぃんな、あなたと遊びたいって言っててぇ……だから、遊んであげてくれないかしらぁ?」
「……まどろっこしいわね、はっきり言いなさいよ。
その猿どもに、『私が二度と立ち直れなくなるようにしろ』って、言ったんでしょう?」
「……いやねぇ、もっと……直接的に命令したわよ?」
「ふぅん、そうね。
直接的に言わなきゃ、その人達には理解できそうもないものね。
……ねぇ、蘇芳さん?最後に、1つ聞かせてもらえないかしら?」
「何かしらぁ、多々良さん?」
「あなたの後ろの通りを歩いているの、黄瀬君じゃあないかしら?」
「え……!?」
蘇芳がハッと振り向く。
ヴァカめ、仮にもデルモが深夜にこんな住宅街彷徨いてるわけないでしょ。
蘇芳に釣られたのか一緒に振り向いた男どもの隙をついて、私はワンちゃんを半ば引きずるようにして近くの細い路地に向かって走り出した。
「いないじゃない!
って逃げ……早く追って!」
背後から間抜けな蘇芳の声と男どもの声が聞こえてくる。
流石に、ワンちゃんを引きずりながらでは逃げ切れないだろう。
ワンちゃんを引きずってなくても、きっと無理だ。
ワンちゃんもそう思ったのか、必死に声をあげていた。
「はぁっ!蛍さん……!
オレはそこら辺に捨てて逃げてください!」
「嫌。」
「なっ……!
捕まったらどうなるか、分からないんすか!?
犯されるかもしれない……下手したら殺されるかも……!」
「だからって、あなたを捨てて自分だけ逃げるほど、私は薄情では無いつもりよ。」
「蛍さん……ありがとう、ございます……。
ですが……!!」
「……来たみたいね。」
「っ!くそ!」
ワンちゃんが強引に私の手を振り切り、道の真ん中に立ちはだかる。
首だけで振り向いたワンちゃんは目だけで早く逃げろと訴えかけてくる。
「見付けたぞ!」
「オレが相手だオッサン。
覚悟するんだなぁ!あぁああぁぁあ!!」
「うぉらぁぁああ!!」
「うるっさいわねあんたらは。」
「ぎゃぶぅ!?」
「ぶもっふ!?」
悲鳴までうるさいわ。
私はまあ予想通りだと思うけれど、逃げ出したりはしなかった。
代わりにワンちゃんの背後にコッソリと近寄ると(ミスディレクション!)、ワンちゃんの後頭部を鷲掴み、そのまま向こうの男の股間にスパーキング!男は瀕死の状態だ!……つまり他人の頭突きで金的かました訳である。
「うわぁぁああ!もにょっと!もにょっとしたぁぁあ!!」
「ぐぉぉおおお!」
「あんたはそこら辺で壁にでもなってて。
ほら、行くわよワンちゃん。」
「ひぐっ……うすっ!!」
泣きそうになってるワンちゃんを引きずりながら、障害物(さっきの男)に引っ掛かっている男たちとの距離を離していく。
でもその距離は直ぐに詰められるから、その度にまた不意打ちをして逃げていく。
「待てやゴルァア!」
「よし、待つ!」
「うそぉ!?」
「そして辞書アタックよ!」
「広辞苑!?容赦ねえ!!」
「オレ達から逃げられるとでも……」
「逃げ切ろうなど笑止!」
「それ蛍さんが言うんすか!!」
「ぐはっ!」
「また詰まらぬ物を蹴ってしまったわ。」
「男の急所がぁぁあ!」
そして路地の出口、そこにはやはり、先回りしていた敵がいた。
「残念だったな……」
「チェストー!!」
「ぎぃぃやぁぁああ!?」
「容赦なく目潰ししたぁぁあ!!」
そして遮る者も追う者もいなくなり、それでも私達は速度を緩めることなく走り続けた。
幸い、私の家はそこからそう遠くない場所にあって、何とか誰にも捕まることなく、私達は家の中に駆け込んだ。
「はーっ……!ぜひっ!!な、なんで、オレの事捨てて、逃げなかったん、すか!?」
「ぜっ……ぜぇ……はぁ……ま、まっ、て……はぁ……!」
「ああ、なりますよねっ……!
オレでも息切れたんすからそりゃそうなりますよね!」
膝に手をついてぜえぜえと肩で息をする私に、喋れないことを察してくれたのか、ワンちゃんはキッチンに駆け込んで水を汲んできてくれた。
ワンコにしては、気が利いてるじゃない。
もう、あんなに走って息も絶え絶えで、私は玄関に座り込んで動けなくなってしまった。
「はー……助かるわ、ワンちゃん。」
「いや、オレが悪いんすから、当たり前ですよ!」
「……ぷはーっ、疲れたぁ……。」
「本当に申し訳ありませんでした。
オレの失態のせいであんな事に……。
でも蛍さん流石です!
大量のゴリラ野郎どもをいとも簡単にぶっ倒すなんて!
オレ痺れちゃいましたよ!」
「わかったからちょっと肩貸してよ……。」
「え……?なんでっすか?」
「っ……うるさい、肩貸しなさい。」
「?うす。」
……恥ずかしいことに、私は座り込んだまま力が入らなくなってしまっていた。
腰が抜けてしまったんだ。
情けない。
何とかワンちゃんの肩に掴まって立ち上がろうとした。
でも私は失念していた……。
ワンちゃんもワンちゃんで、身体中怪我をしていてろくに力なんて入らないって事を。
「っ……きゃ!」
「うわっ!!」
「すみません、多々良さん入りますよ?」
ガクンと揺らいだと思ったら、廊下のフローリングにお尻を打ち付けていた……って、今何か声が聞こえなかった?
でも声の主を確かめる前に、何かに視界が塞がれて、柔らかいものに押し潰された。
ふぎゅ、と変な悲鳴が漏れたが、目の前が見えないから状況が掴めない。
「な!お、おま……なんで!?」
「……イグナイトパス、廻。」
「うわ待て待て待て待てうぎゃぁぁああ!?」
急に視界がパッと開ける。
眩しくて咄嗟に目を閉じると、だいぶ近い位置から、よく知る声が聞こえた。
「……もう大丈夫ですよ、多々良さん。」
「……え?……く、ろこ、君?」
「はい、僕は黒子です。
多々良さん、お怪我は?」
「え?あの……え?」
うっすらと目を開けて、人影を見付ける。
じょじょにしっかりと目を開けて、その人影を見た。
どこからどう見ても、それは黒子君で、数秒間彼と間近で見詰め合った後、ようやく事態を把握した。
「っ―――――!!!!???」
「え、あれ?多々良さん?」
近い近い近い近い!
なんっ!ななんで黒子君がここにいるのっ!?
え……だってさっき別れて……え?え!?
なんで?なんで!?
「あの、多々良さん?」
「ふぇ……な、なんで……?」
「ああ、別れた後にやっぱり心配になって……。
ちゃんと家に帰ってきてるかだけでも確認しようかと……。」
「あ……そう、なの……?」
「それと今日返そうと思っていた本を返し忘れていて……。」
「そ、そう……。」
く、黒子君らしいって言えばらしいわね。
「それでちょっと道に迷ったんですが何とか着いた時に二人が入っていくのが見えて……結構大きな声も聞こえたし、鍵が空いていたので入ってきちゃいました。」
「で、でも……え?えぇ?」
「と言うか、いったい何があったんですか?
とても慌てた様子で走ってましたけど。」
「え……あ、ああ、それは……。」
「入ってきちゃいました」ってそんな軽くないかしら黒子君。
それと、何があったのかを聞かれて、ハッと直前までの出来事を思い出した。
慌ててドアを指差す。
「か、鍵!」
「え?」
「鍵掛けて!」
「は、はい!」
黒子君が走ってドアに向かい、鍵を掛ける。
そこでやっと私は安心としたのだった。
もうここはある程度安全だし、それに黒子君がやっと普段の距離に落ち着いてくれたし。
……好きだけど、好きだから、近すぎるともう普通じゃいられないんだもん。
「えーっと……何があったのか……話して頂けますか?」
黒子君に言われて、私は渋々と頷いた……。
「え……、喫茶店を?
でも……あなたまで私達と同じ扱い受けることになるかもしれないし……、それにクラスの出し物は……。」
「それくらい大したことじゃありません。
……クラスの出し物は僕の影の薄さでやり過ごして見せます。」
「それは……どや顔で言うことじゃないわ。
でも、あの、……ありがとう。
頼んでも良いかしら?」
「勿論です。」
「テツくんカッコいい!」
なんていうことを話して、文化祭の文芸部喫茶店は、新たに黒子君というスタッフを受け入れることとなったのだった。
心の中ではお祭り騒ぎだけど顔筋を全稼働させてポーカーフェイスを張り付ける。
黒子君が来るなら、制服、カッコいいのにしよう、絶対に。
「それとバスケ部の様子ですが……、今日は特に目立った動きはありませんでした。」
「……まあ、今朝のあれでまた何かやらかすとも思えないわよね。」
「でも向こうも黙ってはいられないと思うし……、変わらず気を抜かないようにしないとね!」
そう、気を付けなければならない。
罪の意識のない人間は、どんなことだってしてくるんだから。
そう、例えば、こんな風に……。
「これ、あなたのかしらぁ?」
桃井さんを送り届けて、黒子君とも別れた後、私の背に甘ったるい声と共に、人が倒れる音が届いた。
振り向くとそこにいたのはボロボロになって倒れるワンちゃんと、ガタイの良い男たちに囲まれた蘇芳瑠璃子の姿。
「……あら、確かに私のよ。
悪いわね、拾ってもらっちゃって。」
「良いんだよぉ?
そっちは大して気にしてないしぃ。
でもねぇ?その人が何してたのかはぁ、瑠璃子すぅっごぉーく、気になるのぉ。」
……まともに喋ったのは、あの体育館での一度きりだから、あまり意識してなかったけど、この女、しゃべり方がムカつくことこの上ないわ。
私は蘇芳の言葉には答えないで、ワンちゃんにゆっくりと近付く。
「ワンちゃん、起きなさい。」
「っ……蛍さ……すいま、せん。」
「……ま、何があったかは後で聞いてあげるわ。
それより、これが何をしていたのか、気になると言ったわね。」
「そうだよぉ。」
「私は知らないわよ。
何故、私が知っていると思ったのかしら。」
「っ!だってぇ、その人最近、地味で冴えない女に入れ込んでるって噂で有名なんだってよぉ?」
「それで、私がこれに命令して動かしてる、と、思ったの。
確かに、私は『地味』で『冴えない』かもしれないけれど……酷いわ、それだけで私を疑ったの?」
「あらぁ?でもぉ、私の周りを嗅ぎ回るような人ってぇ、あなた達くらいしか思い付かないんだもぉん。」
「ふぅん、短慮ね。
まあ、結果これが私のだと正しい結論が出されてしまったのだし、私も言い返せないわねぇ?
困ったわぁ。」
「っ!う、ふふ……、で、ホントに知らないのぉ?」
ひくりと蘇芳の眉が跳ね上がるのを見て、私はせせら笑った。
随分と余裕がないようね。
「残念ながら、知らないわね。
それより、そういうあなたは……そんなにたくさん男の人を連れて何をするのかしら?」
「あらぁ、わからないのぉ?
この人達ぃ、みぃんな、あなたと遊びたいって言っててぇ……だから、遊んであげてくれないかしらぁ?」
「……まどろっこしいわね、はっきり言いなさいよ。
その猿どもに、『私が二度と立ち直れなくなるようにしろ』って、言ったんでしょう?」
「……いやねぇ、もっと……直接的に命令したわよ?」
「ふぅん、そうね。
直接的に言わなきゃ、その人達には理解できそうもないものね。
……ねぇ、蘇芳さん?最後に、1つ聞かせてもらえないかしら?」
「何かしらぁ、多々良さん?」
「あなたの後ろの通りを歩いているの、黄瀬君じゃあないかしら?」
「え……!?」
蘇芳がハッと振り向く。
ヴァカめ、仮にもデルモが深夜にこんな住宅街彷徨いてるわけないでしょ。
蘇芳に釣られたのか一緒に振り向いた男どもの隙をついて、私はワンちゃんを半ば引きずるようにして近くの細い路地に向かって走り出した。
「いないじゃない!
って逃げ……早く追って!」
背後から間抜けな蘇芳の声と男どもの声が聞こえてくる。
流石に、ワンちゃんを引きずりながらでは逃げ切れないだろう。
ワンちゃんを引きずってなくても、きっと無理だ。
ワンちゃんもそう思ったのか、必死に声をあげていた。
「はぁっ!蛍さん……!
オレはそこら辺に捨てて逃げてください!」
「嫌。」
「なっ……!
捕まったらどうなるか、分からないんすか!?
犯されるかもしれない……下手したら殺されるかも……!」
「だからって、あなたを捨てて自分だけ逃げるほど、私は薄情では無いつもりよ。」
「蛍さん……ありがとう、ございます……。
ですが……!!」
「……来たみたいね。」
「っ!くそ!」
ワンちゃんが強引に私の手を振り切り、道の真ん中に立ちはだかる。
首だけで振り向いたワンちゃんは目だけで早く逃げろと訴えかけてくる。
「見付けたぞ!」
「オレが相手だオッサン。
覚悟するんだなぁ!あぁああぁぁあ!!」
「うぉらぁぁああ!!」
「うるっさいわねあんたらは。」
「ぎゃぶぅ!?」
「ぶもっふ!?」
悲鳴までうるさいわ。
私はまあ予想通りだと思うけれど、逃げ出したりはしなかった。
代わりにワンちゃんの背後にコッソリと近寄ると(ミスディレクション!)、ワンちゃんの後頭部を鷲掴み、そのまま向こうの男の股間にスパーキング!男は瀕死の状態だ!……つまり他人の頭突きで金的かました訳である。
「うわぁぁああ!もにょっと!もにょっとしたぁぁあ!!」
「ぐぉぉおおお!」
「あんたはそこら辺で壁にでもなってて。
ほら、行くわよワンちゃん。」
「ひぐっ……うすっ!!」
泣きそうになってるワンちゃんを引きずりながら、障害物(さっきの男)に引っ掛かっている男たちとの距離を離していく。
でもその距離は直ぐに詰められるから、その度にまた不意打ちをして逃げていく。
「待てやゴルァア!」
「よし、待つ!」
「うそぉ!?」
「そして辞書アタックよ!」
「広辞苑!?容赦ねえ!!」
「オレ達から逃げられるとでも……」
「逃げ切ろうなど笑止!」
「それ蛍さんが言うんすか!!」
「ぐはっ!」
「また詰まらぬ物を蹴ってしまったわ。」
「男の急所がぁぁあ!」
そして路地の出口、そこにはやはり、先回りしていた敵がいた。
「残念だったな……」
「チェストー!!」
「ぎぃぃやぁぁああ!?」
「容赦なく目潰ししたぁぁあ!!」
そして遮る者も追う者もいなくなり、それでも私達は速度を緩めることなく走り続けた。
幸い、私の家はそこからそう遠くない場所にあって、何とか誰にも捕まることなく、私達は家の中に駆け込んだ。
「はーっ……!ぜひっ!!な、なんで、オレの事捨てて、逃げなかったん、すか!?」
「ぜっ……ぜぇ……はぁ……ま、まっ、て……はぁ……!」
「ああ、なりますよねっ……!
オレでも息切れたんすからそりゃそうなりますよね!」
膝に手をついてぜえぜえと肩で息をする私に、喋れないことを察してくれたのか、ワンちゃんはキッチンに駆け込んで水を汲んできてくれた。
ワンコにしては、気が利いてるじゃない。
もう、あんなに走って息も絶え絶えで、私は玄関に座り込んで動けなくなってしまった。
「はー……助かるわ、ワンちゃん。」
「いや、オレが悪いんすから、当たり前ですよ!」
「……ぷはーっ、疲れたぁ……。」
「本当に申し訳ありませんでした。
オレの失態のせいであんな事に……。
でも蛍さん流石です!
大量のゴリラ野郎どもをいとも簡単にぶっ倒すなんて!
オレ痺れちゃいましたよ!」
「わかったからちょっと肩貸してよ……。」
「え……?なんでっすか?」
「っ……うるさい、肩貸しなさい。」
「?うす。」
……恥ずかしいことに、私は座り込んだまま力が入らなくなってしまっていた。
腰が抜けてしまったんだ。
情けない。
何とかワンちゃんの肩に掴まって立ち上がろうとした。
でも私は失念していた……。
ワンちゃんもワンちゃんで、身体中怪我をしていてろくに力なんて入らないって事を。
「っ……きゃ!」
「うわっ!!」
「すみません、多々良さん入りますよ?」
ガクンと揺らいだと思ったら、廊下のフローリングにお尻を打ち付けていた……って、今何か声が聞こえなかった?
でも声の主を確かめる前に、何かに視界が塞がれて、柔らかいものに押し潰された。
ふぎゅ、と変な悲鳴が漏れたが、目の前が見えないから状況が掴めない。
「な!お、おま……なんで!?」
「……イグナイトパス、廻。」
「うわ待て待て待て待てうぎゃぁぁああ!?」
急に視界がパッと開ける。
眩しくて咄嗟に目を閉じると、だいぶ近い位置から、よく知る声が聞こえた。
「……もう大丈夫ですよ、多々良さん。」
「……え?……く、ろこ、君?」
「はい、僕は黒子です。
多々良さん、お怪我は?」
「え?あの……え?」
うっすらと目を開けて、人影を見付ける。
じょじょにしっかりと目を開けて、その人影を見た。
どこからどう見ても、それは黒子君で、数秒間彼と間近で見詰め合った後、ようやく事態を把握した。
「っ―――――!!!!???」
「え、あれ?多々良さん?」
近い近い近い近い!
なんっ!ななんで黒子君がここにいるのっ!?
え……だってさっき別れて……え?え!?
なんで?なんで!?
「あの、多々良さん?」
「ふぇ……な、なんで……?」
「ああ、別れた後にやっぱり心配になって……。
ちゃんと家に帰ってきてるかだけでも確認しようかと……。」
「あ……そう、なの……?」
「それと今日返そうと思っていた本を返し忘れていて……。」
「そ、そう……。」
く、黒子君らしいって言えばらしいわね。
「それでちょっと道に迷ったんですが何とか着いた時に二人が入っていくのが見えて……結構大きな声も聞こえたし、鍵が空いていたので入ってきちゃいました。」
「で、でも……え?えぇ?」
「と言うか、いったい何があったんですか?
とても慌てた様子で走ってましたけど。」
「え……あ、ああ、それは……。」
「入ってきちゃいました」ってそんな軽くないかしら黒子君。
それと、何があったのかを聞かれて、ハッと直前までの出来事を思い出した。
慌ててドアを指差す。
「か、鍵!」
「え?」
「鍵掛けて!」
「は、はい!」
黒子君が走ってドアに向かい、鍵を掛ける。
そこでやっと私は安心としたのだった。
もうここはある程度安全だし、それに黒子君がやっと普段の距離に落ち着いてくれたし。
……好きだけど、好きだから、近すぎるともう普通じゃいられないんだもん。
「えーっと……何があったのか……話して頂けますか?」
黒子君に言われて、私は渋々と頷いた……。