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雨降って地固まる。しかし固いものほど崩れやすい。
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翌日、私達は揃って登校した。
隣で緊張している桃井さんに声を掛けた。
「顔怖いわよ。」
「なっ!仕方ないじゃん!
もしかしたら朝練で何か言われるかもしれないし……。」
「言われたら言い返して、アリバイの事と自分の主張をしっかり話せば良いだけよ。」
「そうだけど~……。」
「……体育館までついていくから。」
「ありがとう蛍ちゃん!!」
桃井さんが何故か抱き付いてきた。
私は小柄な方だから、この人に抱き付かれると潰れてしまうわ。
重い。
そして胸が当たる。
「桃井さん、多々良さん。
おはようございます。」
「テツくん!おはよう!」
「……おはよう、黒子君。」
ぎゅうぎゅうされるがままになっていた時、突然黒子君の声が掛けられる。
彼に会えた時はいつも嬉しい。
けれど、今日は少し違った。
チラッと桃井さんを見る。
何も気にせずに笑っていて、ちょっとイラっとした。
「桃井さんのばか。」
「え?なんで!?」
「何でもないわよ。
それより、朝練遅れちゃうわよ。」
「あ、そうだった!
行こう、蛍ちゃん、テツくん!!」
桃井さんに引っ張られて、3人で小走りに校門へ向かう。
そして体育館に着いた時だった。
中がザワついていた。
……まさか、
嫌な予感がして、私は桃井さんの前に立って体育館に入った。
「おはよう……皆どうしたの?」
桃井さんがそう声を掛けた瞬間。
何かが桃井さんに向けて飛んできたのを見て、咄嗟に手を出して防ごうとした。
バチンッと弾ける音と固いゴムの感触。
バスケットボールかしら、これ。
「桃っち……いいや、桃井!
よくも瑠璃っちに酷いことしてくれたっスね。」
「何があったか知らないけど、無防備な女の子にボールを投げるよりも前に事実確認をするべきだし何よりボールが衝突するのを防いだ私にお礼と謝罪を述べるべきよ黄瀬涼太。
まあ、あなたの貧弱な脳ミソにそこまでの行動、求める方が間違っているのかも知れないけれどね。」
「っ!テメーはこの間の……!」
「おい、落ち着け黄瀬!!」
「きーちゃん、何があったの!?
私……何か、した?」
ボールを投げたのは、初めて会った時から気に入らなかった黄瀬のDQN野郎……失敬言葉が乱れたわ。
黄瀬君を見た瞬間、私の口はフルスロットルで回っていた。
理性も回ってなかったらそのままモデルの仕事出来ないくらいに顔面殴り付けていたかも知れないわ。
「桃井……、実は瑠璃子が」
「瑠璃っちがあんたに命令された男に乱暴されたって言ってるんスよ!!
瑠璃っちに何の恨みがあってこんな事するんスか……!」
「な、何言ってるの!?
私そんなこと……知らない!」
「……なんでぇ?
桃井さん、何で嘘つくのぉ?
昨日、男の人達連れてきて、瑠璃に酷いことしたのにぃ!
瑠璃、何か悪いこと、したぁ?
グスッ、あんなこと、酷いよぉ……!」
「はあ!?」
……あんな嘘臭い泣き真似信じてるの?
この人達。
バスケ部の、中でも黄瀬とその周囲にいて、蘇芳を守るように立っている奴らは、かなり本気で信じてるみたい。
バカさらしておいて、よく平気な顔していられるわね。
「私そんなことしてない!」
「しらばっくれるのかよ!」
「黄瀬涼太、五月蝿いわ、黙りなさい。」
「あんたは何でここにいるんだよ!
さっさと帰ってほしいんスけど。」
「……その蘇芳って人に聞きたいことがあるのよ。」
脳ミソ足らない邪魔な馬鹿は押し退けて、蘇芳瑠璃子って女をしっかりと見る。
確かに、その美貌は並ぶものがないだろうけど、臭い芝居で台無しね。
「1つ、どこで襲われたのか。」
「……ふぇ?」
「2つ、いつ襲われたのか。」
「えっと……」
「3つ、何故警察に連絡しないのか。」
「ぁ……。」
「時間はたっぷりあるわ。
答えて。」
思い出したくないとは言わせない。
それなら何で自分からこんな話をしたのかっていう疑問が残るもの。
場所がわからないなんて言わせない。
桃井さんがやった、って言うのなら、その顔をしっかりと見ていなければおかしいじゃない。
問い詰める私に、蘇芳は馬鹿みたいに目を泳がせて、言葉を詰まらせる。
嘘吐くなら細かい設定までしっかりと考えておきなさいよバカなの?
「おい……、瑠璃っちは傷付いてんのに、あんたこれ以上傷付ける気なのか!?」
「……馬鹿な。」
「なっ!誰が馬鹿なんスか!?」
「これは犯罪よ黄瀬涼太。
犯罪があったのなら、暴かなければね。
さあ、蘇芳瑠璃子さん。
ここで話したくないのなら、警察に場所を移して話しても良いのよ。
どうするの。」
「わ、私本当に……!」
「あなたが言ってることの真偽を疑ってるんじゃないわ。
あなたが具体的にいつどこでどう襲われたのかを聞きたいのよ。
犯人、捕まえたいでしょう?
あなたに酷いことした犯人を、野放しにしておけないものねぇ?」
「だから瑠璃っちはさっきから桃井が犯人だって……!」
「桃井さんは昨日、学校を出てからずっと一人きりにはなってないわ。」
「え!?」
「私と、黒子君と、伊達先生が証明する。
さあ、教えて蘇芳さん。
あなたは、誰に襲われたのかしら?」
畳み掛けるようにそう言うと、蘇芳瑠璃子は黙り込んだ。
黄瀬は驚いて口をパクパクとしているだけで役に立ちそうもない。
黙りこくったまま、1分くらいが過ぎて、私は大きくため息を吐いた。
「黒子君。」
「……なんでしょうか。」
「うわっ!?いつからいたんスか黒子っち!!」
「初めからいました。」
「黒子君、女性の先生を連れてきて。
あと、伊達先生と、生徒指導の毛利先生も連れてきて。」
「……はい。」
びくりと蘇芳瑠璃子の肩が震える。
周りの部員達は呆気に取られて、動くこともしない。
「蘇芳さん、先生がゆっくり話を聞いてくれると思うわ。
だからあなたは、あったことをそのまま話せば良い。」
「っ……!」
「桃井さん、今日は部活、休むべきよ。
それと、桃井さんも昨日の事をしっかりと先生に話すことね。」
「うん。」
「私、聞きたいことは聞いたし、後はあなたたちのやりたいようにすれば良いわ。」
クルリと、踵を返す。
黄瀬を初めとする信者達の視線が突き刺さるけれど、痛くも痒くもない。
桃井さんは少し安心した顔をしていた。
「ちょっと……待って、」
彼女の元へ向かっていた足が、突然の声にピタリと止まる。
振り向くと、蘇芳瑠璃子が、私を見ていた。
「あなたも、いた……。」
「なに……?」
「私を襲った人の中にぃ……、あなたも、いたよね?」
「……私は昨日、外出してないわ。
だいたい、私とあなたは今日初めて会ったのに、何故そんなことをする必要があるの。」
「ううん、いたもん。
二人で結託して、私の事、苛めようとしてるんでしょお?」
「そうっスよ……!
瑠璃っちが嘘吐くハズないっスもん。
口はっちょーで言いくるめて泣き寝入りさせる気だったんだろ?
あんた本当に、人間のクズだな。」
「それはこっちの台詞よ。
時間も場所も曖昧な人の言葉、信じるなんて、馬鹿げてるわ。」
「でも、瑠璃っちは実際に泣いて助けを求めてきた!
泣いてる女の子をあんなに責め立てて、今さら逃げようって言うのかよ!?
卑怯者!!」
「泣いてれば被害者認定?
それなら警察はいらないわ。
真偽を確かめたいのなら、警察に行って詳しく調べてもらいましょう。」
「警察警察って、あんた大人がいないと何にも出来ないんスね!」
「それがなに?
自分で何でも出来るって信じ込んでる馬鹿なお子様脳筋野郎よりはずっとましよ。」
「ちょっ、蛍ちゃん!!」
「黄瀬!少し落ち着くのだよ!」
気付けば私と黄瀬との言い合いになっていて、ヒートアップして掴み掛かってきた黄瀬を私は睨み上げていた。
桃井さんが駆け付けてくれようとしたのを手のひらを見せて止める。
振り上げられた拳を見て、せせら笑った。
「殴ったら?
暴力で全部解決しようとする、脳筋らしい考え方じゃない。」
「て、めぇ……!」
「黄瀬、彼女の言うことは正しい。」
「赤司っちまで!」
「彼女の言うことを鵜呑みにするわけにもいかないが、ここで性急に事を進めるのは得策ではないよ。」
「そ、そうだよぉ!
殴ったりしたら、黄瀬君だって……。」
「瑠璃っち……。」
部員全員が、私に疑いの目を向けている。
確信を持って、敵意を持って私を睨んでいるのは、黄瀬とほんの一部の部員だけみたいだけど、……普通美人だからってここまで盲目的に信じるものなの?
この人は、精々3日一緒にいただけのハズなのに……。
「おい黄瀬!何してる!」
「黄瀬君!何してるんですか!?」
体育館に訪れていた沈黙を破ったのは、伊達先生と黒子君の声だった。
黄瀬の手が、パッと離れる。
私は乱れた着衣を直して、二人とその後ろから走ってくる教師に会釈した。
「遅かったですね。」
「いや、そうじゃないだろ!今のは何だ!!
黄瀬!何があったか説明しろ!」
「ソイツが瑠璃っちに酷いことしたんス!!」
珍しくおこな伊達先生が怒鳴るように問い掛けると、黄瀬はそう訴え掛けた。
馬鹿げてる。
呆れた顔の私をチラッと見て、先生はグシャグシャと髪を掻き回した。
「部長は?」
「俺です。」
「赤司だな。
説明してもらいたいから、取り合えず職員室来て。
で、揉めてた奴らも着いてくること。
あー……誰だ?」
「始め揉めていたのが、蘇芳瑠璃子と桃井さんです。
その後、私と黄瀬涼太が口論になりました。
迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「相変わらず冷静だなぁ、おい……。」
ちょっと伊達先生?
なんで私をそんな引いた目で見ているのかしら?
まあ、何はともあれ、私達は職員室に連れていかれて、それぞれ応接室と生徒指導室に別れて話を聞かれたのだった。
「で、多々良ちゃんよ~。
黄瀬に殴られたりとか、けがさせられたりとか、本当になかったんだな?」
「ないですよ。」
「ないなら良いが、あんま言い過ぎっと怖いからなぁ、最近の若者は。」
「本当に怖かったんだよ蛍ちゃん!?
庇ってくれたのはスゴい嬉しかったけど、あんなに言ったら今度は蛍ちゃんが狙われるかも知れないんだよ!?」
「僕も驚きました。
あまり危ないことはしないでください多々良さん。」
「……気を付けるわ。」
聞かれた……のは始めだけで、後には私へのお説教が待っていた。
解せぬ……。
だが、今ごろ指導室で奴らが必死にありもしない話をしているのかと思うと気分も上がってくる。
ざまあみろ、って感じよ。
「でもきーちゃん、なんであの女の事疑いもしないで信じちゃったんだろう。
私の事、本当に犯人だって思ってたのかな?
だとしたら……、恐い……。」
「妄信的と言っても過言じゃなかったわね、彼ら。
なんだか様子がおかしかったわ。」
「ええ、まるで人が変わってしまったかのように感じました。」
「たぶん毛利先生もこのまま厳重注意で帰すしか出来ないだろうぜ。
家にも電話入れるだろうけど、どうなるか……。」
「正直、向こうから直接手を出してくるまでは、自衛するしか出来ることはないわね。」
ああ、もう、面倒くさいな。
あのまま黄瀬涼太が殴ってきてくれていたら、そのままアイツの事停学に出来たかも知れないのに。
そんな物騒な考えが思い付くくらいには、私もイラついてる。
その日はそれだけで、教室に戻ることを許された。
既に噂は出回ってるのか、生徒達の疑心暗鬼の視線に晒されながら、私達は授業を受ける事となったのだった。
隣で緊張している桃井さんに声を掛けた。
「顔怖いわよ。」
「なっ!仕方ないじゃん!
もしかしたら朝練で何か言われるかもしれないし……。」
「言われたら言い返して、アリバイの事と自分の主張をしっかり話せば良いだけよ。」
「そうだけど~……。」
「……体育館までついていくから。」
「ありがとう蛍ちゃん!!」
桃井さんが何故か抱き付いてきた。
私は小柄な方だから、この人に抱き付かれると潰れてしまうわ。
重い。
そして胸が当たる。
「桃井さん、多々良さん。
おはようございます。」
「テツくん!おはよう!」
「……おはよう、黒子君。」
ぎゅうぎゅうされるがままになっていた時、突然黒子君の声が掛けられる。
彼に会えた時はいつも嬉しい。
けれど、今日は少し違った。
チラッと桃井さんを見る。
何も気にせずに笑っていて、ちょっとイラっとした。
「桃井さんのばか。」
「え?なんで!?」
「何でもないわよ。
それより、朝練遅れちゃうわよ。」
「あ、そうだった!
行こう、蛍ちゃん、テツくん!!」
桃井さんに引っ張られて、3人で小走りに校門へ向かう。
そして体育館に着いた時だった。
中がザワついていた。
……まさか、
嫌な予感がして、私は桃井さんの前に立って体育館に入った。
「おはよう……皆どうしたの?」
桃井さんがそう声を掛けた瞬間。
何かが桃井さんに向けて飛んできたのを見て、咄嗟に手を出して防ごうとした。
バチンッと弾ける音と固いゴムの感触。
バスケットボールかしら、これ。
「桃っち……いいや、桃井!
よくも瑠璃っちに酷いことしてくれたっスね。」
「何があったか知らないけど、無防備な女の子にボールを投げるよりも前に事実確認をするべきだし何よりボールが衝突するのを防いだ私にお礼と謝罪を述べるべきよ黄瀬涼太。
まあ、あなたの貧弱な脳ミソにそこまでの行動、求める方が間違っているのかも知れないけれどね。」
「っ!テメーはこの間の……!」
「おい、落ち着け黄瀬!!」
「きーちゃん、何があったの!?
私……何か、した?」
ボールを投げたのは、初めて会った時から気に入らなかった黄瀬のDQN野郎……失敬言葉が乱れたわ。
黄瀬君を見た瞬間、私の口はフルスロットルで回っていた。
理性も回ってなかったらそのままモデルの仕事出来ないくらいに顔面殴り付けていたかも知れないわ。
「桃井……、実は瑠璃子が」
「瑠璃っちがあんたに命令された男に乱暴されたって言ってるんスよ!!
瑠璃っちに何の恨みがあってこんな事するんスか……!」
「な、何言ってるの!?
私そんなこと……知らない!」
「……なんでぇ?
桃井さん、何で嘘つくのぉ?
昨日、男の人達連れてきて、瑠璃に酷いことしたのにぃ!
瑠璃、何か悪いこと、したぁ?
グスッ、あんなこと、酷いよぉ……!」
「はあ!?」
……あんな嘘臭い泣き真似信じてるの?
この人達。
バスケ部の、中でも黄瀬とその周囲にいて、蘇芳を守るように立っている奴らは、かなり本気で信じてるみたい。
バカさらしておいて、よく平気な顔していられるわね。
「私そんなことしてない!」
「しらばっくれるのかよ!」
「黄瀬涼太、五月蝿いわ、黙りなさい。」
「あんたは何でここにいるんだよ!
さっさと帰ってほしいんスけど。」
「……その蘇芳って人に聞きたいことがあるのよ。」
脳ミソ足らない邪魔な馬鹿は押し退けて、蘇芳瑠璃子って女をしっかりと見る。
確かに、その美貌は並ぶものがないだろうけど、臭い芝居で台無しね。
「1つ、どこで襲われたのか。」
「……ふぇ?」
「2つ、いつ襲われたのか。」
「えっと……」
「3つ、何故警察に連絡しないのか。」
「ぁ……。」
「時間はたっぷりあるわ。
答えて。」
思い出したくないとは言わせない。
それなら何で自分からこんな話をしたのかっていう疑問が残るもの。
場所がわからないなんて言わせない。
桃井さんがやった、って言うのなら、その顔をしっかりと見ていなければおかしいじゃない。
問い詰める私に、蘇芳は馬鹿みたいに目を泳がせて、言葉を詰まらせる。
嘘吐くなら細かい設定までしっかりと考えておきなさいよバカなの?
「おい……、瑠璃っちは傷付いてんのに、あんたこれ以上傷付ける気なのか!?」
「……馬鹿な。」
「なっ!誰が馬鹿なんスか!?」
「これは犯罪よ黄瀬涼太。
犯罪があったのなら、暴かなければね。
さあ、蘇芳瑠璃子さん。
ここで話したくないのなら、警察に場所を移して話しても良いのよ。
どうするの。」
「わ、私本当に……!」
「あなたが言ってることの真偽を疑ってるんじゃないわ。
あなたが具体的にいつどこでどう襲われたのかを聞きたいのよ。
犯人、捕まえたいでしょう?
あなたに酷いことした犯人を、野放しにしておけないものねぇ?」
「だから瑠璃っちはさっきから桃井が犯人だって……!」
「桃井さんは昨日、学校を出てからずっと一人きりにはなってないわ。」
「え!?」
「私と、黒子君と、伊達先生が証明する。
さあ、教えて蘇芳さん。
あなたは、誰に襲われたのかしら?」
畳み掛けるようにそう言うと、蘇芳瑠璃子は黙り込んだ。
黄瀬は驚いて口をパクパクとしているだけで役に立ちそうもない。
黙りこくったまま、1分くらいが過ぎて、私は大きくため息を吐いた。
「黒子君。」
「……なんでしょうか。」
「うわっ!?いつからいたんスか黒子っち!!」
「初めからいました。」
「黒子君、女性の先生を連れてきて。
あと、伊達先生と、生徒指導の毛利先生も連れてきて。」
「……はい。」
びくりと蘇芳瑠璃子の肩が震える。
周りの部員達は呆気に取られて、動くこともしない。
「蘇芳さん、先生がゆっくり話を聞いてくれると思うわ。
だからあなたは、あったことをそのまま話せば良い。」
「っ……!」
「桃井さん、今日は部活、休むべきよ。
それと、桃井さんも昨日の事をしっかりと先生に話すことね。」
「うん。」
「私、聞きたいことは聞いたし、後はあなたたちのやりたいようにすれば良いわ。」
クルリと、踵を返す。
黄瀬を初めとする信者達の視線が突き刺さるけれど、痛くも痒くもない。
桃井さんは少し安心した顔をしていた。
「ちょっと……待って、」
彼女の元へ向かっていた足が、突然の声にピタリと止まる。
振り向くと、蘇芳瑠璃子が、私を見ていた。
「あなたも、いた……。」
「なに……?」
「私を襲った人の中にぃ……、あなたも、いたよね?」
「……私は昨日、外出してないわ。
だいたい、私とあなたは今日初めて会ったのに、何故そんなことをする必要があるの。」
「ううん、いたもん。
二人で結託して、私の事、苛めようとしてるんでしょお?」
「そうっスよ……!
瑠璃っちが嘘吐くハズないっスもん。
口はっちょーで言いくるめて泣き寝入りさせる気だったんだろ?
あんた本当に、人間のクズだな。」
「それはこっちの台詞よ。
時間も場所も曖昧な人の言葉、信じるなんて、馬鹿げてるわ。」
「でも、瑠璃っちは実際に泣いて助けを求めてきた!
泣いてる女の子をあんなに責め立てて、今さら逃げようって言うのかよ!?
卑怯者!!」
「泣いてれば被害者認定?
それなら警察はいらないわ。
真偽を確かめたいのなら、警察に行って詳しく調べてもらいましょう。」
「警察警察って、あんた大人がいないと何にも出来ないんスね!」
「それがなに?
自分で何でも出来るって信じ込んでる馬鹿なお子様脳筋野郎よりはずっとましよ。」
「ちょっ、蛍ちゃん!!」
「黄瀬!少し落ち着くのだよ!」
気付けば私と黄瀬との言い合いになっていて、ヒートアップして掴み掛かってきた黄瀬を私は睨み上げていた。
桃井さんが駆け付けてくれようとしたのを手のひらを見せて止める。
振り上げられた拳を見て、せせら笑った。
「殴ったら?
暴力で全部解決しようとする、脳筋らしい考え方じゃない。」
「て、めぇ……!」
「黄瀬、彼女の言うことは正しい。」
「赤司っちまで!」
「彼女の言うことを鵜呑みにするわけにもいかないが、ここで性急に事を進めるのは得策ではないよ。」
「そ、そうだよぉ!
殴ったりしたら、黄瀬君だって……。」
「瑠璃っち……。」
部員全員が、私に疑いの目を向けている。
確信を持って、敵意を持って私を睨んでいるのは、黄瀬とほんの一部の部員だけみたいだけど、……普通美人だからってここまで盲目的に信じるものなの?
この人は、精々3日一緒にいただけのハズなのに……。
「おい黄瀬!何してる!」
「黄瀬君!何してるんですか!?」
体育館に訪れていた沈黙を破ったのは、伊達先生と黒子君の声だった。
黄瀬の手が、パッと離れる。
私は乱れた着衣を直して、二人とその後ろから走ってくる教師に会釈した。
「遅かったですね。」
「いや、そうじゃないだろ!今のは何だ!!
黄瀬!何があったか説明しろ!」
「ソイツが瑠璃っちに酷いことしたんス!!」
珍しくおこな伊達先生が怒鳴るように問い掛けると、黄瀬はそう訴え掛けた。
馬鹿げてる。
呆れた顔の私をチラッと見て、先生はグシャグシャと髪を掻き回した。
「部長は?」
「俺です。」
「赤司だな。
説明してもらいたいから、取り合えず職員室来て。
で、揉めてた奴らも着いてくること。
あー……誰だ?」
「始め揉めていたのが、蘇芳瑠璃子と桃井さんです。
その後、私と黄瀬涼太が口論になりました。
迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「相変わらず冷静だなぁ、おい……。」
ちょっと伊達先生?
なんで私をそんな引いた目で見ているのかしら?
まあ、何はともあれ、私達は職員室に連れていかれて、それぞれ応接室と生徒指導室に別れて話を聞かれたのだった。
「で、多々良ちゃんよ~。
黄瀬に殴られたりとか、けがさせられたりとか、本当になかったんだな?」
「ないですよ。」
「ないなら良いが、あんま言い過ぎっと怖いからなぁ、最近の若者は。」
「本当に怖かったんだよ蛍ちゃん!?
庇ってくれたのはスゴい嬉しかったけど、あんなに言ったら今度は蛍ちゃんが狙われるかも知れないんだよ!?」
「僕も驚きました。
あまり危ないことはしないでください多々良さん。」
「……気を付けるわ。」
聞かれた……のは始めだけで、後には私へのお説教が待っていた。
解せぬ……。
だが、今ごろ指導室で奴らが必死にありもしない話をしているのかと思うと気分も上がってくる。
ざまあみろ、って感じよ。
「でもきーちゃん、なんであの女の事疑いもしないで信じちゃったんだろう。
私の事、本当に犯人だって思ってたのかな?
だとしたら……、恐い……。」
「妄信的と言っても過言じゃなかったわね、彼ら。
なんだか様子がおかしかったわ。」
「ええ、まるで人が変わってしまったかのように感じました。」
「たぶん毛利先生もこのまま厳重注意で帰すしか出来ないだろうぜ。
家にも電話入れるだろうけど、どうなるか……。」
「正直、向こうから直接手を出してくるまでは、自衛するしか出来ることはないわね。」
ああ、もう、面倒くさいな。
あのまま黄瀬涼太が殴ってきてくれていたら、そのままアイツの事停学に出来たかも知れないのに。
そんな物騒な考えが思い付くくらいには、私もイラついてる。
その日はそれだけで、教室に戻ることを許された。
既に噂は出回ってるのか、生徒達の疑心暗鬼の視線に晒されながら、私達は授業を受ける事となったのだった。