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to be or not to be:生も死も今は大した問題じゃない
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「…………軽っ。」
病院での診察を終えて、眠り込んでしまった多々良を背負って車に戻った伊達は、彼女を助手席に寝かせて、自分は運転席へと座った。
疲れからくる風邪だろう、と医者に言われ、保護者の方に連絡を取ってゆっくり休ませてあげてくださいと言われ、そのまま薬をもらい、彼女を背負って帰ってきたわけだが、そこで途方に暮れてしまった。
「こいつの保護者って確か……。」
本人が言うのには、母は洋服のデザイナーとして海外に、父は日本にいるものの帰ってくることはほとんどない。
家族は崩壊同然、一人暮らしで悠々自適に暮らせるのならむしろそっちの方が楽なんて、そんなことを話していた。
まるで氷のような目をして語る少女に、掛ける言葉を失った。
「……連絡先はわからねぇし、何よりわかったとしても連絡が取れるかどうか……。」
とりあえず携帯電話借りて、電話だけでもしてみるか。
勝手に荷物を弄るのは伊達のポリシーに反するが、今回ばかりはそうも言ってられない。
「多々良のことだから、たぶん鞄の中に~……、お、あったあった。」
シルバーで、ストラップの1つも付いていない無機質な携帯電話。
多々良らしい。
パカッと開いて電話帳から目的の名前を探す。
名前は確か、多々良幸也。
だがいくら探しても、その名は見付からない。
「た……ち…………。」
ようやく見つけたそれは『ち』の列にあった。
『父』と、短く表示されているそのアドレス。
冷たいような、切ないような。
結局、どれだけ嫌おうと、どれだけ距離が離れていようと、こいつにとって父親は父親でしかないのか。
チラッと目線を上げて多々良を見た伊達は、バッと目を逸らした。
多々良はまた、膝を抱えて蹲っていて、そのせいで捲れたスカートの下の下着が見えていた。
「そういうのは!黒子にやれっ!!
お色気でちゃっとオトしちまえよっ!!」
なるべく見ないようにしながら膝を倒してスカートを整える。
気を逸らすためなのか、単にいつもは言えない文句を今のうちに言おうということなのか。
伊達の口からはぶつくさと文句が垂れ流されている。
「だいたい体調悪いなら学校くるなよなー。
面倒かけられるこっちの身にもなれっての!
ワンコのこともオレに押し付けてきたり、不良に絡まれる度に後始末押し付けてきたり!!
だいたい照れるのは良いけどオレを盾にするなってーの!
キャラじゃねーだろっ!
そして当たってた!!
胸が当たってたんだよバカヤロー!!」
どうやら胸が当たっていたらしい。
猥褻教師というアダ名も決して遠いものではないのかもしれない。
とにかく今はその事は置いておくべきだろう。
スカートを直し終えた伊達は携帯を握り直して、表示されていた番号に発信する。
呼び出し音の後、少し怒ったような声が電話に出た。
『――……何の用だこんな時間に。』
「あ、あの申し訳ありません!!
蛍さんのクラス担任の伊達と申します。」
『……蛍が何か仕出かしたのかね?』
「いえ、そうではなくて。
蛍さんが風邪で倒れまして、親御さんにご連絡をと思い……、」
『そんなことか。
済まないが、家まで送ってもらえないかね。
そうすれば後は自分でなんとかするだろう。』
「……は?」
『私は、忙しくてね。
ソレの面倒を見ている暇はないのだよ。』
「だ、だからってそんな……!!
あなたの娘さんが倒れたんですよ!?」
『……だからなんだね?』
「なっ……!?」
平然と吐き出される言葉に、伊達は愕然とする。
娘が倒れたというのに、心配する様子は微塵もなく、挙げ句『ソレ』呼ばわり。
伊達の家庭は、ごく普通の中流階級だったが、風邪を引けば両親はやり過ぎなくらい心配してくれたし、親というのはそういうものだと思っていた。
「家族が辛いときは、心配するものじゃないんですか!?」
『……聖職者らしい回答だね。』
「娘さんが心配じゃないんですか!?」
『大怪我した訳ではないし、大病に犯された訳でもない。』
風邪じゃなければ心配するのか?
この感覚の違いは貧乏人と金持ちの差なのか?
困惑して声を失った伊達の耳に、冷たい一言が突き刺さった。
『風邪程度でソレの商品価値は下がらんだろう?』
「…………あ?」
『じゃあ頼むよ君。
くれぐれも、ソレに手を出したりしないでくれよ。』
「なっ……おい、待て!
あんた何言って……!!」
『ブツッ、ツー、ツー……――』
切れた電話を思わずぶん投げようとして手を振り上げた伊達は、思ったより低かった天井と、その携帯が多々良のものだったことを思い出して何とか怒りを鎮めた。
携帯を彼女の鞄にしまい、額に冷えピタを貼った多々良の頭を撫でる。
掌から伝わってくる熱に、眉根を寄せた。
早くゆっくり休ませてやらなければ。
車を発進させた伊達の表情は、いつもからは考えられないほど厳しいものだった。
* * *
――時は少しばかり遡る。
瑠璃色の髪の少女が、走り去っていった濃い緑色の車を見詰めていた。
一度道路脇に停車し、すぐにまた走っていった車。
自らの脇を通り過ぎたその中に、黒髪の少女の姿があった。
薄く開けた目が、自分の視線とかち合ったような気がしたのだ。
車内は暗かったし、こちら側が店の明かりで明るかったため、よく見えたわけではない。
だがその少女が無性に気になり、暫く目を離すことができなかった。
「?どーかしたっすか?」
「……んーん!何でもないのぉ!!
きっと気のせいだよぉ♪」
「そっすか!
ルリっち、今日の歓迎会どうでしたか!?」
「涼太君たちとたぁっくさんお喋りできてぇ、すごぉく楽しかったぁ!!」
「んもー、ルリっち可愛すぎっすよ~!!
オレ以外の男にそんな可愛い顔で笑っちゃダメっすよ?」
「えー?可愛くなんてないよぉ!!」
隣を歩く男子とにこやかに話しながら、もう一度車の走り去っていった方を見て、一瞬眉間に、険しいシワを寄せる。
「……ルリっち?」
「うん?どうかしたぁ?涼太君。」
「んー……気のせいみたいっすね!!
あ、ルリっちの家、こっちで合ってるっすか?」
「そうだよぉ。
この角を右に曲がるのっ!」
二人の賑やかな声は、その場所から姿が見えなくなっても暫くは、路地に響いて、存在を主張していた。
病院での診察を終えて、眠り込んでしまった多々良を背負って車に戻った伊達は、彼女を助手席に寝かせて、自分は運転席へと座った。
疲れからくる風邪だろう、と医者に言われ、保護者の方に連絡を取ってゆっくり休ませてあげてくださいと言われ、そのまま薬をもらい、彼女を背負って帰ってきたわけだが、そこで途方に暮れてしまった。
「こいつの保護者って確か……。」
本人が言うのには、母は洋服のデザイナーとして海外に、父は日本にいるものの帰ってくることはほとんどない。
家族は崩壊同然、一人暮らしで悠々自適に暮らせるのならむしろそっちの方が楽なんて、そんなことを話していた。
まるで氷のような目をして語る少女に、掛ける言葉を失った。
「……連絡先はわからねぇし、何よりわかったとしても連絡が取れるかどうか……。」
とりあえず携帯電話借りて、電話だけでもしてみるか。
勝手に荷物を弄るのは伊達のポリシーに反するが、今回ばかりはそうも言ってられない。
「多々良のことだから、たぶん鞄の中に~……、お、あったあった。」
シルバーで、ストラップの1つも付いていない無機質な携帯電話。
多々良らしい。
パカッと開いて電話帳から目的の名前を探す。
名前は確か、多々良幸也。
だがいくら探しても、その名は見付からない。
「た……ち…………。」
ようやく見つけたそれは『ち』の列にあった。
『父』と、短く表示されているそのアドレス。
冷たいような、切ないような。
結局、どれだけ嫌おうと、どれだけ距離が離れていようと、こいつにとって父親は父親でしかないのか。
チラッと目線を上げて多々良を見た伊達は、バッと目を逸らした。
多々良はまた、膝を抱えて蹲っていて、そのせいで捲れたスカートの下の下着が見えていた。
「そういうのは!黒子にやれっ!!
お色気でちゃっとオトしちまえよっ!!」
なるべく見ないようにしながら膝を倒してスカートを整える。
気を逸らすためなのか、単にいつもは言えない文句を今のうちに言おうということなのか。
伊達の口からはぶつくさと文句が垂れ流されている。
「だいたい体調悪いなら学校くるなよなー。
面倒かけられるこっちの身にもなれっての!
ワンコのこともオレに押し付けてきたり、不良に絡まれる度に後始末押し付けてきたり!!
だいたい照れるのは良いけどオレを盾にするなってーの!
キャラじゃねーだろっ!
そして当たってた!!
胸が当たってたんだよバカヤロー!!」
どうやら胸が当たっていたらしい。
猥褻教師というアダ名も決して遠いものではないのかもしれない。
とにかく今はその事は置いておくべきだろう。
スカートを直し終えた伊達は携帯を握り直して、表示されていた番号に発信する。
呼び出し音の後、少し怒ったような声が電話に出た。
『――……何の用だこんな時間に。』
「あ、あの申し訳ありません!!
蛍さんのクラス担任の伊達と申します。」
『……蛍が何か仕出かしたのかね?』
「いえ、そうではなくて。
蛍さんが風邪で倒れまして、親御さんにご連絡をと思い……、」
『そんなことか。
済まないが、家まで送ってもらえないかね。
そうすれば後は自分でなんとかするだろう。』
「……は?」
『私は、忙しくてね。
ソレの面倒を見ている暇はないのだよ。』
「だ、だからってそんな……!!
あなたの娘さんが倒れたんですよ!?」
『……だからなんだね?』
「なっ……!?」
平然と吐き出される言葉に、伊達は愕然とする。
娘が倒れたというのに、心配する様子は微塵もなく、挙げ句『ソレ』呼ばわり。
伊達の家庭は、ごく普通の中流階級だったが、風邪を引けば両親はやり過ぎなくらい心配してくれたし、親というのはそういうものだと思っていた。
「家族が辛いときは、心配するものじゃないんですか!?」
『……聖職者らしい回答だね。』
「娘さんが心配じゃないんですか!?」
『大怪我した訳ではないし、大病に犯された訳でもない。』
風邪じゃなければ心配するのか?
この感覚の違いは貧乏人と金持ちの差なのか?
困惑して声を失った伊達の耳に、冷たい一言が突き刺さった。
『風邪程度でソレの商品価値は下がらんだろう?』
「…………あ?」
『じゃあ頼むよ君。
くれぐれも、ソレに手を出したりしないでくれよ。』
「なっ……おい、待て!
あんた何言って……!!」
『ブツッ、ツー、ツー……――』
切れた電話を思わずぶん投げようとして手を振り上げた伊達は、思ったより低かった天井と、その携帯が多々良のものだったことを思い出して何とか怒りを鎮めた。
携帯を彼女の鞄にしまい、額に冷えピタを貼った多々良の頭を撫でる。
掌から伝わってくる熱に、眉根を寄せた。
早くゆっくり休ませてやらなければ。
車を発進させた伊達の表情は、いつもからは考えられないほど厳しいものだった。
* * *
――時は少しばかり遡る。
瑠璃色の髪の少女が、走り去っていった濃い緑色の車を見詰めていた。
一度道路脇に停車し、すぐにまた走っていった車。
自らの脇を通り過ぎたその中に、黒髪の少女の姿があった。
薄く開けた目が、自分の視線とかち合ったような気がしたのだ。
車内は暗かったし、こちら側が店の明かりで明るかったため、よく見えたわけではない。
だがその少女が無性に気になり、暫く目を離すことができなかった。
「?どーかしたっすか?」
「……んーん!何でもないのぉ!!
きっと気のせいだよぉ♪」
「そっすか!
ルリっち、今日の歓迎会どうでしたか!?」
「涼太君たちとたぁっくさんお喋りできてぇ、すごぉく楽しかったぁ!!」
「んもー、ルリっち可愛すぎっすよ~!!
オレ以外の男にそんな可愛い顔で笑っちゃダメっすよ?」
「えー?可愛くなんてないよぉ!!」
隣を歩く男子とにこやかに話しながら、もう一度車の走り去っていった方を見て、一瞬眉間に、険しいシワを寄せる。
「……ルリっち?」
「うん?どうかしたぁ?涼太君。」
「んー……気のせいみたいっすね!!
あ、ルリっちの家、こっちで合ってるっすか?」
「そうだよぉ。
この角を右に曲がるのっ!」
二人の賑やかな声は、その場所から姿が見えなくなっても暫くは、路地に響いて、存在を主張していた。