さて、先ずは私と彼の出会いについてを語ろうか。
私はその日、図書館である本を探していた。
この文を目にしている諸兄諸姉は私の読む本の内容など興味がないだろうから、残念ながら本のタイトルについては割愛させていただく。
探していた本の他にも、目についた本を何冊か抱え、ようやっと見つけたその本に手を伸ばした時だった。

「……あ。」
「あ、すいません。」

同じ本を取ろうとして、手と手が重なる。
そんなベタなとお思いかもしれないが、事実は小説よりも奇なり。
現実でこそ、ベタな展開は起こるものなのだ。
引っ込められた手を追って相手の顔を見る。

「すいません、もしかしてあなたもあの本を？」

彼の印象は、そう、薄幸の美少年、と言ったところだろうか。
……いや、薄幸というか、薄かった。
それはもう色んなモノが薄かった。
髪や、肌の色も薄かったが、それ以上に影が薄かった。
故に薄幸そうに見えるわけだが、彼はまるでその場にいるのに今にも消えてしまいそうな雰囲気を持っていたのだった。

「あの、この本、どうぞ。」

見つめすぎたのだろうか、彼は少し居心地悪そうに身動ぎしながら、そういった。

「僕はまた今度にしますから。」

そう言って背を向けた彼を、私は慌てて呼び止めた。

「ちょっと待って。」
「はい？」

振り向いた彼を横目に見ながら、少しだけ背伸びをして本を取り出した。

「私はこの本、もう５回は読んでいるわ。
これ、あなたが読んで。」

相手に本を渡し、今度は私が背を向けてその場を去った。

「あの、ありがとうございます！」

彼の言葉に、軽く手をあげながら、私の頭は彼の胸についていたクラス章が占めていた。
同じ学年、同じクラス。
何より至急にしなければならないことは、同じクラスのはずの彼の素性を調べることである。
そう、一瞬にして私の心をかっさらっていった彼の素性を！
決心し、私は図書館を後にしたのである。
……勿論、抱えた本の貸し出し手続きは踏んだ。