【復活】クロスオーバーちゃんねるパロ【黒子】2

月明かりの射し込む暗い音楽室は、酷く荒れた様子だった。
壁はぼこぼこに凹んでいたし、床にはひび割れがある。
普段なら部屋の壁に並んでいるのだろう音楽家たちの肖像画は、無惨にも破れて、床の上に散乱していた。
その中のベートーベンの黒目が動いているように見えるが、それよりもだいぶインパクトのある物が、画面の中央に映っている。
誰も弾いていないのに、ピアノがひとりでに動き、美しい音楽を奏でている。
曲はドビュッシーの喜びの島。
その音色は、プロのピアニストが奏でているかのように滑らかで美しい。
しかしその曲を打ち消す硬質な音が空気を震わせた。
カン、カンという音に、カメラが少し横にずれる。
そこには馬とカバの被り物を被った二人の男がいる。
馬はアコースティックギターを持ち、カバはドラムの前に座っていた。
どうやらカバが、ドラムスティックを打つことでピアノを止めたらしい。
馬の被り物の男は、ギターを肩に掛けて構え、ピアノに人差し指を向ける。

「ゔお゙ぉい、覚悟してろぉ糞ピアノォ!」
「いくっスよ!」

低く轟くダミ声が馬の中から響く。
カバの中からは涼やかな声音が。
スレの書き込みから、馬の中身が海産物、カバの中身が模倣犬だとわかる。
模倣犬がドラムを叩き始めるのに合わせて、海産物がギターを弾き始めた。
演奏は……、柳生や火虎風に言えば、「よくわかんねーけどスゲー!」というところか。
海産物が弾くのはアコースティックギターのハズなのに、何故かエレキのような機械質な音が出ている。
模倣犬のドラムも、事前に「プロほどじゃない」と言っていたハズなのだが、プロ顔負けの演奏を披露している。

「う、うわー、すげー……」
「震えるぞハート……」
「燃え尽きるほどヒート……」
「刻むぜ血液のビート……!」
「「「サンイエローオーバードライブ!!」」」

カメラに映っていない場所からは、ぽそぽそとそんなことを呟いている声が聞こえる。
確かに心が震え、血が滾る、そんな素晴らしいビートを刻む模倣犬のドラムに、それをさらに盛り立てる海産物のギター。
……彼らが被り物さえ被っていなければ、そう思うのはその場にいるものだけでなく、画面越しにその様子を見ている者たち全員だろう。
長い銀髪を振り乱してギターを弾いていた馬……もとい海産物が、曲が一番盛り上がったその時、ギターを思いっきり振り上げた。

「ゔお゙お゙お゙お゙!!!ロックンロォオル!!」
「ギャー!ピアノォォオ!!!」

海産物の振り上げたギターは、真っ直ぐにピアノの屋根に向かって振り下ろされ、そしてその凄まじい威力でピアノが真ん中からぐしゃりと崩れ落ちる。
模倣犬の悲痛な叫び声を気にすることなく、海産物は壊れたギターを満足げに肩の上に担ぐと、後ろを振り返り、柳生に向けて声を掛けた。

「やま……柳生!トドメはテメーが刺せ!」
「お!やっと俺の出番なのな!」

爽やかな声が答えて、今度は鹿の被り物の男が画面の中に現れる。
彼が構えているのはリコーダー。
短いそれを、居合いの刀のように構え、そして直後、ピアノに向けて柳生のリコーダーの一閃が炸裂した。
リコーダーが月明かりに照らされてぬらりと光るその様は、如何にも妖しげであるが、所詮は鹿の被り物にリコーダー、精々スレ民の腹筋を鍛えさせることくらいにしか効果はない。

「人食いピアノの怪、これでカンペキ!クリアなのな!」
「お、おー!」
「ブラボー!」
「流石柳生っち!」
「リコーダーという楽器にそんな使い方があったとは……!」
「剣道ってこんなこともできるんだな!」
「普通は出来ねぇだろぉ」

残った全員は、口々に彼ら二人を褒め称えながら手に持った楽器を鳴らす。
歓声が続く中、ムービーはそこで途切れた。
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